第4話 お嬢さまが変だ

 お嬢様はとても穏やかで、いつも甘い紅茶と一緒に本をお読みになるような方でした。


 それが、先日お部屋にはいりましたところ、腰に手をあて仁王立ちで、高らかに、まさにオーホッホホホホと言わんばかりに窓の外を眺めて笑っておりました。



 メイド長の私としては、お嬢さまのことが実は心配でございました。

 年齢も6歳になったことから、少しずつ他の貴族の方ともかかわりの場をということで、ちゃんとしたお披露目の前の練習お茶会という名目でお茶会というなの子供たちのお遊びの場がありましたが。

 お嬢さまは楽しげな新しいおもちゃも、おいしいお茶菓子も、皆に言われるがままに譲ってしまっておりました。

 そこは周りは貴族だけありまして、次の会のときには、お嬢さまから必要に物を巻き上げない、お菓子もねだらないようにとキツクしつけられたのかございませんでしたが………。



 お嬢さまの様子をみて奥様方は譲れるだなんて優しい子、いい子だなんて申しておりましたが。

 お嬢さまは、普通の女の子ではございません。

 この膨大な領地を治める家の直系のお子でございますから。

 なんでも、譲る、譲るでは絶対にだめなのです。


 子供には難しいでしょうが、いずれ話術で相手の要望を上手くかわし、いかに自分の要望を通すかの世界に飛び込んで行かないといけないと言うのに、これではこの豊かな領地が食い物にされかねない危機ではないかと……私の中の本能が告げておりました。



 そのお嬢さまが、どうしたことでしょう。

 あの仁王立ちされていた日以降も本を読むということは同じでしたが、おっとりと字を目でおって、紅茶で喉を潤すこれまでとは全く違い………。


 ギラギラした目で本を今までみたことがないスピードで読みあさりまくったというのがふさわしいペースで次々とこれまで読み終えていた本も、読んだことのない本もどんどん読みおえていった。


 そして、そんな本を読みあさる日から1週間後のことでした。

 お嬢さまは私にこういいました。

「ペンと紙をもってきてちょうだい」

 っと。


 それから、お嬢さまはうーんうーんと唸りながら文字を書いていく。

 どうやらそれが物語のようだとわかったときの驚きったらありません。

 部屋に突然こもって執筆活動を始めたお嬢さまに、他のメイドたちもざわざわしていた。


 少しは外に出たほうがと思いお誘いもしたけれど。

 いつもであれば、なんだかんだ言って外に出てくださるお嬢さまが、ハッキリと断ったことに心底驚いてしまいました。


 〆切りがあるだの、やり遂げなければいけないだの……。

 まさに、本物の小説家さながらの雰囲気。

 原稿を落とさなくてよかった、入校できなかったあの悪夢を繰り返したくないだの・・・どこで覚えたのかそんな言葉をつぶやきつつ、後半はぶつぶつ言っておられました。


 執筆作業にはいって1週間ほどたったある日。

 お嬢さまは私に部屋に来るように呼びました。

 お嬢さまの手には、原稿用紙があり、びっちりと文字が書かれていました。


「読めばよろしいので?」

 私がそういうとお嬢さまは、コクリと一つうなずかれました。


 子供の書く戯言、文法もでたらめで、とても読めたものではないのではという考えは1ページ目で終わった。


 絵本のようなものではない。

 これは、殺人事件を解決するというまさかのサスペンス物語だったのだ。

 とある貴族の家で、殺人事件が起こった、そして、それを見事小さな貴族のご令嬢が解いていくというこれまで読んだことがないものだったのだ。

 小さな子供だから、事件のことは大人たちは話してくれない。

 そこで自分のメイドを使い、いろんなことの情報収集をさせ、主人公であるお嬢さまの頭脳で一つずつ謎を解き明かし犯人にたどりつくという代物だったのだ。


 こんなの読んだことがない。

 本の主流と言えば、ラブロマンスや歴史ものであった。

 推理ものが全くなかったわけではないけれど、女性はあまり好んで読まず、読者層が少ない。

 それがどうだろう、まさかのサスペンス。

 しかも、お嬢さまが主役ではあるが、メイド達の多くは庶民上がりだ。

 だからこそ、庶民だからこそ知っている知識。

 家のことを裏方でするからこそわかるトリック………いっきに読み終えてしまった。


 お嬢さまには、物語を書く才能があるに違いない。




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