Ch6.あい


 悲しいと思いました。

 哀しいと思いました。

 哀悼の意を捧げました。

 愛憎をぶちまけました。

 それがあの人の死でした。

 魂の退去した有機物(カラダ)を見下ろす。意思がなければこれもモノか、と灌漑設備の充実を管外だからと怠ったつけで乾燥した感想と感慨を抱く。

 どこからどこまでが、あの人だったのだろう。わたしも、どこからどこまでがわたしでいられるのだろう。

 こころ、のうみそ、せいしん、たましい、からだ、ないぞう、ほね、ことば、きおく。

 全部合わせてあの人で、全部合わせてわたしだとすれば、やはりこいつはただの肉でしかないのだろうか。

 一つでも欠けたら死んでしまうのか、それらすべてが別々に独立したあの人で、わたしなのか。

 わからん。わからんなぁ。

 わからんすぎるので、考えるのをやめました。

 終わり。

 外に出る。線香の匂いが張り付いて鼻がひくつく。ゲーセン帰りの少年の気持ちで葬儀中退の乙女なわたし。

 愉快だなぁ、と思いながら、首を曲げる。具体的には、空を見る。

 藍色のそら。会いたいと思う気持ち。相性の問題。

 信仰が足りなかったのかもしれない。

 ちょっと、そんなことを思う。

 後悔。

 昔のわたしに憐憫を捧げてみる。

 現状は変わらない。

 風で少し雲が動いたけど、まぁ当然のごとく関係ない。

 あの人は死んだまま。

 過去にそれらしい意味をつけるのも面倒くさい。

 誰のせい、とか、どうして、とか、どうでも良すぎて涙が出る。

 死にたくなるくらいどうでも良かった。

 ぜんぶ、わかりきったことだから。

「あーあ」

 嘆息。

 しょうがないね、と納得。

「信じてたのに」

 だって、それは“あい”だったから。

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