正しい妹の使い方〜チート魔法が使えても妹は小さいままのようです〜
@shirahuku
第1話【正しい妹の使い方】
「どうしようお兄ぃ、私、とんでもない事になっちゃったみたい…」
はっきり言わせてもらおう。大惨事である。
目の前に広がるのは遠い地平まで見通せる空間。木という木は根こそぎ薙ぎ倒され、地面は深く抉り取られたような跡が遥か彼方まで続いている。あまりの惨劇に鳥や獣たちが慌てて逃げ出していく。ソレに反して、空はとても青くそこだけを見れば平和そのものだ。
「うーん、どうしたもんかなコレ…とりあえずあれだ、俺達も逃げるか」
「えぇっ!?に、逃げちゃ駄目だよぅ…あわわ…えーと、えーと木を生やしたら良いのかな…、あーでも地面はどうしよぅ…?遠くに何があったかわかんないし…うーん、あ、時間を元に戻せばっ!?」
妹はそう言うや否か、呪文を唱えることもなく時間魔法を発動させていく。見る間に地面が元通りになり、木々も何事もなかったかのように天へと枝を伸ばしていく。おそらく遠い先まで元通りだろう…いや、やり過ぎな気がしないでもない。明らかに元の葉より多く茂ってないか?すっかり空は隠れてしまい、日の光が一切入らない自然の闇が出来てしまった。
「わぁぁやりすぎたー!!どどどどうしよぅー!?」
「良いから逃げるぞ!ここまで来たら俺らの手に負えるか!直ったから良しだ!」
「わぁぁん!ご、ごめんなさーい!」
事の発端から説明しよう。ごく普通の家庭で生まれ育った俺、御倉和真と、妹の紗綾。あの日も普通に学校へ通うはずだった。俺は今年入学したばかりの高校の制服に着換え、準備をしていた所に妹が部屋に入ってきたんだ。
「お兄ぃ、起きてるー?学校行く時間だよー」
「あのな、学校行く時間に寝てたら完璧遅刻じゃないか、起きてるに決まってるだろ。と言うか、一緒に朝飯食べてたろ」
「だってお兄ぃ、二度寝とかするじゃない」
ちなみに妹は今年中学に上がったばかりだ。例によって育つから、と言われ大きめの制服を買われたせいで正直なところダボダボである。両親と本人は育つと言ってはばからないが、中学に上がる随分前からたいして成長していない所を考えるに、きっとこの先も絶望的だろう。
一部の人間からはその小ささと人懐っこい性格から子犬のように親しまれているが。
「知ってるか紗綾、眠い時はな、寝るしかないんだぞ」
「寝ちゃだめなときは起きてないといけないと思うな私…」
そんなアホな会話も交えつつ、家から出ようとした玄関でのことだった。
「あ、お兄ぃちょっと待ってよー。はい、手!」
「紗綾、そろそろ手は繋がなくても良いんじゃないか?中学にも上がったことだし」
「いーの!それとも…お兄ぃは私と手、繋ぐの嫌?」
出した手を引っ込め、今にも泣きそうな目をしてこちらを見上げてくる。正直俺はこの目に弱い。勝てた試しがない。
「ばーか、嫌なわけないだろ。変な事言ってないでほら手出せよ」
「うん!はい手!えへへへ」
はにかみながら手を繋いでくる紗綾。全く、いつまでたっても甘えぐせが抜けないな。
この手を繋いで登校するのは、元々集団登校だった小学生の頃からの慣習だ。それも高学年になってくると一人、また一人と繋がなくなっていったが、紗綾は頑なにやめようとしなかった。それは俺が中学、そして高校に上がり通学経路が変わっても同じ事で、分かれる直前まで繋ぎっぱなしだ。
仕事の関係上帰りが遅かったり朝が早かったり、泊まり込みもザラにある両親との暮らしは、妹を随分甘えん坊に育ててしまったと思う。勿論家族関係が悪いなどといったことはないが妹は何かにつけて俺にベッタリである。まぁ、俺も随分甘やかしている自覚はあるんだが。
「忘れ物は無いな?カギはちゃんと持ったか?」
「んーと…宿題は持ったし、カギも持った!うん、大丈夫!」
「んじゃ行くか」
「あ、お兄ぃ、ちゃんと行ってきますしないと駄目なんだよ!挨拶は大切だよ」
「誰も居ないのに誰に挨拶するんだよ…家か?まぁ良いや確かに挨拶は大事だしな。んじゃ…」
「いってきまーす」
「いってきまーす」
そうして玄関を1歩出た俺達を迎えたのは、いつもの見慣れた玄関先ではなく、見渡す限りの樹、樹、樹。何故か森の中に立っていた。慌てて振り向くも、家の玄関はなくこちらも見渡す限り樹しか生えていないようだ。
「………ん?」
「あ、あれ?お兄ぃ、ここ何処?」
「いや、俺も聞きたいんだが…確かに玄関から出たよな?」
「う、うん…いつも通り出たよ」
そのハズである。玄関から見えてた景色もいつも通りだったしな…
「なんだこれ…とりあえず紗綾、俺の手を離すなよ!」
「うん…お兄ぃ、私達ちゃんと帰れるよね?」
「あ、当たり前だ!ちゃんと帰れるに決まってる!」
とは言うものの、ここが何処かもサッパリ見当がつかない。せめて地名でも分かれば…そ、そうだ!スマホ!地図アプリを開けば現在位置がわかるんじゃないか?頼む電波が入る圏内であってくれよ…
恐る恐るスマホを取り出してみるが、期待を裏切るように電波は入っておらず見事に圏外。念のため地図アプリを開いてみるが現在位置は取得出来なかった…
「紗綾、お前のスマホも駄目か?」
「駄目…私のも圏外だよ」
となると現状自力で確認する術は無いわけだ。幸いまだ日は高いが、暗くなる前に人里に出ないと、動くに動けなくなる。俺も紗綾も山歩きの経験なんて無いしな…。
「すー、はー、すー、はー…ひとまず落ち着こう。何とかして人のいる所まで行くしかないな。大丈夫だ、何があっても紗綾は俺が守ってやるからな」
「うん…ありがとうお兄ぃ」
そう言いながらギュッと俺の手を掴んでくる紗綾。なんだかんだ言ってまだ小さいからな、怖いし不安で仕方ないはずだ。ここは俺がしっかりしないと。
とりあえず…まずは水を何とかしないとヤバイな。幸い水筒は持ってるが1日分の水分には程遠い。何日かかるかもわからない以上、水がないと詰む。
「水の流れる音とか…聞こえないよなぁ…。地面がほぼ平らだから、下に降りればみたいなのも使えないか…」
これは…本格的にマズイな。当てずっぽうで進むしかないのか?熊とか出たらどうしよう。たしか音を鳴らしてたら大丈夫なんだっけ?熊よけの鈴だったか?
「紗綾、お前防犯ブザー持ってたよな。ちょっとうるさいけど、ソレ鳴らしながら近くを歩いてみようか」
「ん、じゃあ鳴らすよー」
家の鍵にストラップ代わりに付けている防犯ブザーの紐を引く紗綾。たちまち辺りにけたたましい音が響いていく。これ、思ったよりうるさいな。まぁ、そうじゃないと役に立たないか…
「とりあえず、ココに目印を付けて少し歩いてみよう!四方向同じように歩いて、少しでも何か手がかりが無いか探してみよう!」
正直この方法が正しいかは分からない。無駄に体力を使うだけかもしれない。が、音に気付いて誰か来てくれるかもしれないし、このままジッとしてても何も解決しないだろう。
近くの樹に大きく目印を付け、スタート地点をわかるようにしておく。後は進みながら樹に印を付けていけば迷うことは無いだろう…いや、もう迷ってるんだけど。
「よっし!んじゃ行くか。紗綾、絶対手は離すなよ。あと、足元には気を付けろよ!」
「うん!お兄ぃも離さないでね!」
頼む、何か手がかりが見つかってくれよ…。そう願いながら、俺達は森の中を一歩ずつ進んでいったんだ。
森の中を歩く事数時間。4方向目も空振りに終わり、俺達は元いた場所に戻って来ていた。
「…何も見つからなかったな」
「うん…人も居なかったね。私達、このまま帰れないのかな……ぅ…ぐす…」
「ば、バカ!そんなわけ無いだろう!絶対帰してやるって!だから泣くな!」
「だってぇ…ひっく…ぅぅぅ…」
結局、どの方向に進んでも景色は変わらなかった。人どころか獣すら出会うことはなく、樹に付けた目印だけが増えていった。
ヤバイ、俺も限界だが紗綾が限界を超えそうだ。むしろこの小さい身体で数時間も森の中を歩いたんだもんな…不安で潰れそうだったろうに…早く何とかしないと…
俺自身、パニックになりつつあると、不意に小さな音が聞こえてきた。
くぅぅ……
腹の音?見ると紗綾が今にも泣きそうな顔を真っ赤にしながら俯いている。
「はは…そうだよな、腹減ったよな。ははは」
「もー!お兄ぃのバカ!デリカシー無し!」
非常事態ではあるが、何か肩の力が抜けたな。腹が減っては何とやらだし、昼飯にするか。紗綾は給食だが高校生の俺は弁当だ。二人分にはちと足りないが、あるだけマシと言うもんだ。
「よし、飯にしようか」
「うぅぅ…恥ずかしぃ…」
「ほら、こっち座れ。弁当、半分個な」
たかが弁当とは言え、育ち盛りの高校生。量だけはしっかりある。ちなみにこれを作ったのは紗綾だ。俺はコンビニとかで済まそうと思ってたんだが、どうも弁当を作る妹、と言うのに憧れていたらしく毎朝作ってくれている。時折「まずは胃袋から…」とか妙な事を言いながらせっせと作ってくれている。
「弁当は…鞄の底か。1回教科書とか出さないと駄目だな」
俺が持ってるのはいわゆるリュック型の鞄のではなく、ショルダー型の鞄だ。荷物を出す順番上、弁当箱は1番底に入れてある。邪魔な教科書達を横に積み上げていく。今思えば置いてから歩けば良かったな教科書とか…。
「うわぁ…お兄ぃ、こんなの勉強してるんだ。何書いてるかサッパリわからないよ」
紗綾も少し力が抜けたのか、俺の教科書をパラパラめくっている。まぁ、中学と高校じゃ内容が全然違うしな…。ここで簡単だね!とか言われたら兄としてどう反応すれば良いかわからん。
「ふーん、やっぱり高校は難しい事習ってるんだねー………ぇ?」
「ん?どうした紗綾。急に固まって」
パラパラ色んな教科書を見ていた紗綾が、不意に固まってしまった。何か顔を赤らめながら俯いたまま動かないんだが…。何も変なものは入れてなかったと思うけどな…
「あわわ…えーと、あぅ…そ、その…こ、これは何かなお兄ぃ…」
そう言いながら見せてきたのは一冊の本。んー?あんな教科書あったかな?
「なんだそれ……な、なんだこれー!」
「わ、私が知りたいよぅ!お、お兄ぃなんでそんな本もってるのー!?」
紗綾から渡されたのは他の教科書とは違い、装丁の豪華な1冊の本。勿論こんなものは普段学校で使う教科書にはない。恐る恐るタイトルを見てみると…
【正しい妹の使い方】
エロ本かっ!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます