うぉぉぉ!!ライフチャーーージ!!!!

ちびまるフォイ

命を何だと思ってやがる!

「正樹よ、わしはもう長くない……。

 老い先短い人生をこの動かない体で生きるよりは

 わしよりも将来に期待できるお前が生きるべきじゃ」


「じいちゃん、いったい何を言ってるんだよ」


「ゆくぞ、ライフチャーーージ!!!!」


病床の祖父の体が光り輝き、光は俺の体へと注がれた。

力を使い果たした祖父の体は灰になって風と共に散っていった。


「じ、じいちゃーーん!!」


(達者でな……アディオス……!)


空には懐かしい祖父の顔が半透明に浮かんでいた。

その後、体の変化が起きたのは人間ドックに行ってからだった。


「驚きました、肉体年齢が若返っていますよ。

 いったいなにをしたんですか?

 このぶんじゃ、100歳までは余裕で生きられますよ」


「ホントですか!? 前までは50歳で死ぬって話だったのに!」


「ええ、あれはウソです。

 本当は40歳で死ぬくらい、あなたの体は老化していました」


「なんで嘘つくんですか」

「黙って病気になってもらわなくちゃ医者がもうからないんです」


寿命延長の心当たりはひとつしかなかった。

あのとき、祖父が行ったライフチャージという謎パワーだろう。


(話は聞かせてもらったよ)


「なんだ!? 急に頭の中から声がする!」


(わしは202号病室にいるしがない老人じゃ。

 長く病院で寝たきりの生活をしているうちに、

 病院そのものと一体化しテレパシーが使えるようになった)


「最後だけ話がぶっ飛びすぎてるよ!!」


(それより、寿命を延ばす話詳しく聞かせてくれるかの)


202号室に向かうと、人工生命維持装置につながれた人がいた。


「あの、それで話っていうのは?」


(わしは見ての通りのありさまじゃ。

 わしも君の力で息子たちに寿命を相続させたいんじゃ)


「いや、でも俺にできるなんて……」


(わしは病院に長く寝たきりだったから

 病院の床の上を歩くすべての人間のもつ能力を知ることができる。

 君は、祖父から延命能力も引き継いでいるのだよ)


「そ、そうなんですか?」


(さぁやってくれ。すでに遺書も筆記体で書いておる。

 この世に未練などなにもない)


「わかりました、ではいきます」


(あ、でもやっぱ――)


「ライフチャーージ!!!!」


男の体が灰になり、指定通り息子や孫に平等に命が相続された。

遺書の存在もあり俺の能力が認知されると、

寿命相続の依頼が一気に増えた。


「私ももう十分生きたから寿命を娘に相続させて!

 お金ならいくらでも払います!」


「もうこんな人生まっぴら。

 自殺するくらいなら残りの寿命はお母さんに!

 お金が必要ならいくらでも出すわ」


「ワタシハ、アイヲシッタロボット。

 ハカセニジュミョウノ、オンガエシヲシタイデス。

 オカネガヒツヨウデスカ? オカネナラアリマス」


などなど。


「いいえ、料金をお金では一銭もいただきません。

 どんなに貧しい人でも命相続はできますよ」


「「「 ありがとうございます!! 」」」


俺の慈善事業はまたたく間に口コミで広がった。

あまりの人気にその噂は政治家側にも聞き及んでしまった。


「なに!? あのアイドルがついに水着に?」


「首相、そちらではなく、こっちのニュースです」


「ああ、そっちか。命相続ね、なるほどなるほど」


首相は持ち前の行動力でさっさと法律を作ってしまった。



「これから、命を相続する場合は、命相続税を支払いましょう!!」



「「「 ええ~~!? 」」」


過半数の政治家の賛成により法律は即日施行。

反対していた過半数はみな殺されたので、賛成派しかいなかった。


「いいですか国民のみなさん。

 和の民と書いて、ワタミ。国の民と書いて国民。

 みなさんの財産も命もある意味国の所有物なんです」


「和民のくだりいる……?」


「劣等民族の下等生物どもで勝手に非効率な命のリレーされるより

 もっと有意義な命の使い方をして差し上げようというのです!!

 みなさん、国に命を相続してください!」


そんなわけで命の相続税が取られるようになった。

これまで100%相続できた寿命が、そのうち99%を相続税として国に取られる。


「なんか、最近政治家がやたら寿命伸びてないか……?」


相続税が決まってから、妖怪のごとく長生きする政治家が増えてきた。

100歳超えはざらにいるし、200歳超えも出てきている。


少し考えただけで答えは明らかだった。


「まさか、国民全員の寿命を底上げするとか言っておいて

 実は収められた命を自分で相続してるんじゃないか!?」


(ようやく気付いたようだな……)


「その声は……じいちゃん!?」


(わしにアイデアがある。そして、命を吸い取る吸血鬼どもを成敗するのじゃ)


「わかったよ、じいちゃん!!」


俺はじいちゃんの力を借りてソレを作り上げた。

命相続をする人たちには全員にこのことを教える。


「いいですか、命相続税を払うときは

 自分の寿命からではなくこの人工寿命を使ってください」


「はぁ……。これがなんになるんですか?」


「吸血鬼をあぶりだしてやっつけられるんです」


人工寿命で命税が回収されると、変化はお茶の間にも届けられた。

ある日の政治家の演説中。


『であるからして、我々政治家は……。

 ウッキー!! キー! キキキー!!!』


「あははは! やった! 大成功だ!!」


政治家は猿に退化したように四つん這いになって森へ行ってしまった。

他にも、ネズミなど動物のようなしぐさを取る政治家が急増。


顔を真っ赤にした政治家軍団が、

俺の家に車を突っ込ませて到着したのはすぐだった。


「貴様ァ!! いったい命に何しやがったァ!!」


「みなさん、さすがに耳が早いようですね」


「貴様が人工寿命を使って何かしたのはわかってるんだぞ! 白状しろ!」


「人工寿命? そんなの作れるわけないじゃないですか」


「なんだと……!?」


「相続税として送られたのはすべて動物の寿命だ。

 人工寿命なんて最初からない」


「ど、動物ぅ!?」


真実を知った人たちの顔は一気に青ざめた。

なにせ自分の人間寿命が尽きたらそこで動物化するのだから。

死より恐ろしいかもしれない。


「お、お願いだ! 動物寿命を取り除いてくれ!

 私はまだ人間としてお金を使って豪遊しまくりたいんだ!」


「悪かった! 相続税のすべてを横領してたことは認める!

 だから動物だけは抜いてくれ!!」


必死に頼み込んでくるも、まるで同情する気にならない。


「ふふふ、俺ができるのは命の相続だけですよ。

 いったん入ったものを取り除くことはできません」


「ひ、人でなしぃ」



「自分の命のために、誰かの命を搾取する奴よりずっとずっとマシだ!!」



かくして、命相続税はのちに無くなった。

当時、法律にかかわった政治家も動物化していなくなった。


命の相続は、誰かのために献身するもの。


それを私利私欲のために使うなんて最低だ。

そんな奴は、命の番人である俺が絶対に許さない。


そして、命相続税がなくなって、俺のもとにまた人がやってきた。


「私はもう老い先短いからねぇ。

 そこで寿命を孫に残したいんだがねぇ」


「わかりました、命相続ですね」


「いくらですか? お金なら準備していますよ」


「いいえ、お金は一銭もいただきません。

 どんなに貧しい人でも命相続させるのがモットーです」


「本当ですか。あぁ、あなたは噂通りのいい人だ」





「料金をお金では一銭もいただきません。

 ただ、相続する命の99%を手数料としていただくだけです」

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