第2話.若作りってレベルじゃねーぞ!
「…………ハッ!」
あの、「衝撃の告白」の後、どうやら俺は、しばらく意識がフリーズしたまま身体だけが黙々と動いていたらしい。
気がついたら、家の中に入り、座敷のちゃぶ台前にあぐらをかいて座っていた。
「んー? タカ坊、どないしたん?」
で、すぐ目の前には、ノゾミちゃん──もとい、希ばぁちゃんが、俺の顔を覗き込んでいるワケで……。
「ひゃい! い、いや何でもない何でもない」
一瞬奇声を発したものの、すぐに俺は平静を装った。
「そうか~? せやったらエエんやけど……」
勝手知ったる他人に家と言うべきか。冷たい麦茶の入ったグラスを、お盆から俺と自分の前に置いて、希ばぁちゃんもちゃぶ台の前にキチンと正座して座る。
「ほんま、今日は暑いなぁ」
そう言いながらサラリと扇風機の風に髪をなびかせる様子は、やっぱりどこからどう見ても、俺より3、4歳年下の美少女にしか見えない。
しかも、いつの間にか、希ばぁちゃんは先ほどまでの白いワンピースから、紺色の浴衣に着替えている。
「あぁ、コレか? 余所行きのときは、ワンピースとかの洋装は動きやすいし便利やけど、やっぱり家にいる時は、和服の方が落ち着くしな」
「なにせ古い人間やさかい」と言って口元を袂で押さえてコロコロと微笑う彼女は、やっぱりどこからどう見ても、ようやく中学に上がったくらいのロリータフェイス&ボイスなワケで……。
「ゴクッ……」
そんな「美少女」とふたりきりで家の中にいる(しかも、すぐ隣に座っている)となると、童貞男子高校生としては、よからぬ妄想が湧いてくるのも無理ないコトなのデスよ。
「ドゥ・ユー・アンダスタン?」
「何や、タカ坊、いきなり? ウチ、あんまり英語には詳しいないんよ」
眼の前のきょとんとした顔に癒されつつ、雑念をふり払う。
「あ~、その……今更なんだけど、本当に、希ちゃんが「東原のばーちゃん」でいいの?」
「うん、そうや。まぁ、タカ坊と顔合わせるのんは、十数年ぶりやし、お互いわからんでもしょうがないよ」
イヤ、そういうレベルの問題じゃねぇから!
そもそも、俺の記憶にある「東原のばーちゃん」と言えば……言えば……アレ?
前に言ったとおり、「東原のじーちゃん」に関しては、俺は色々世話になったし、よく覚えている。そのじーちゃんの家に一度だけ遊びに行った時の記憶を掘り起こすとだな……。
あれは、確か俺が幼稚園の年長組になったかどうかという年頃だったはず。当時は、ここ数年以上にハッスル爺ぃだったじーちゃんに、山で「修行」と称していろいろシゴかれたんだよな。
とは言え、町育ちの俺には物珍しくてあまり苦にならなかったから、夢中になってじーちゃんの「修行」につきあってて……でも、やっぱり幼児の体力では限界があって、疲れてブッ倒れていたところを、優しいお姉さんが介抱してくれて……。
──アレ?
今の
脳内の「記憶の走馬灯」を巻き戻して、今度は注意深く細部にわたってイメージを検証してみる。
ヘロヘロになって、じーちゃんに背負われてじーちゃん家に帰って来た俺を、客間に敷いた布団に寝かせて、傍で優しくうちわで扇いでくれる女性。
たぶん、当時の俺から見たら、年上のお姉さんだったその人の顔は……。
改めて、今目の前でグラスに口をつける「少女」の顔を見つめる。麦茶をコクコクと白い綺麗な喉が嚥下する様が、(二重の意味で)年齢に似合わず妙に色っぽい……じゃなくて!
「そっくりだ……」
「ん? ようやく思い出してくれたん?」
グラスを片手に嬉しそうに笑う「浴衣美少女」と、思い出の中の「お姉さん」の顔は……完全に一致!!
ジーザス! 童顔とか若作りってェ、レベルじゃねーぞ!
──そして、じーちゃん、アンタには世話になったけど、敢えて言わせてもらう。もげろ!!
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