2-15【流れ行く日常 2:~進路相談~】
モニカ・シリバ・ヴァロア(後ろ2つはあと付け)
辺境貴族の娘として生まれた(事になった)彼女は、アクリラに入学してもうすぐ1年。
その間、学園でもトップクラスのファイターとして急成長を遂げていた。
既に魔力量だけならば学園内に並ぶ者はなし、魔力出力にしても5指に入り、変換後出力にしても15位以上には入る・・・ってアクリラやべえな!?
と、とにかく、彼女は入ってきた時とは色んな意味で比較にならないほど強くなっている!
上の十数人だって、全員が高等部のトップクラスばかりなので、今比肩してる方がおかしいのだ。
このペースなら、卒業時にはガブリエラ以上に強くなるの夢ではない!
「・・・けど、戦闘の授業には出たくないと?」
スコット先生が読んでいた資料をパタンと畳みながら結論のようにそう述べた。
久々に見たということもあってか、夕焼けに赤く染まる窓の枠に腰掛けながら佇む彼の姿は、雑多に物が溢れている研究室の中にあっても妙なまでに決まっている。
今日の予定を一通り済ませたあと、俺達は今後の進路と今年の授業計画について相談するため、俺達の”バッジの先生”であるスコット先生の研究室を訪れていた。
先生は去年出した論文に関連してかなり忙しそうにしていたが、やってきた俺達を嫌がることなくいつものように招き入れ、作業しながらではあるが相談に乗ってくれていたのだ。
モニカの相談の内容は、もう既に決まっている物も含めて”戦闘系”の授業を全部キャンセルし他に当てたいというもの。
それこそ基礎や順位戦に関わるものや、果ては”体育”に相当するものまで残らず
それは単に選んでいないというだけではない。
去年築いた”1組2位”という実績を失い、その特権を失い、”校内ヒエラルキー”から外れるということでもある。
「俺としては、順位戦に籍を残すくらいはしてもいいと思ってるんですが・・・」
俺が自分の意見をスコット先生に伝える。
別に籍を残しながら全ブッチしたって良いのだ。
流石に全部休むと2組に転落するだろうけど2、3回出て上位の生徒を捻れば大丈夫だろう。
何より”1組の生徒”という肩書がもたらす恩恵は色々なところで便利である。(主に審査や提出書類が少なくなる等で)
だが、モニカはそれすらも捨てたがった。
「でもそうすると、”その時間”に他の授業は入れられなくなる。 わたし、もっと時間の長い、専門的な授業も取りたいんです」
そう言って力説するモニカ。
順位戦に関する授業はアクリラでは最優先であり、他の授業と重なっていた場合でも優先される。
それはわずかに掠っていた場合でも。
つまり順位戦のある日は、それだけで1日がかりの授業は出席することが出来ない。
そして、そういった授業というのは高等部の順位戦を回避しているパターンがほとんどであるため、中等部の順位戦に参加していればその時点で参加不可能になるのだ。
とはいえ、
「君の年齢や取得している単位から鑑みて、そんな授業にそもそも参加する事はできないぞ?」
スコット先生がその問題を指摘する。
そう、俺達はまだ”途中編入の中2のガキ”で、そんな”超アカデミック”な1日がかりの授業なんてお呼びじゃないのだ。
「君の希望からして、狙いは”高度魔力回路”か、”微細魔道具”の授業だろ?」
スコット先生が、俺達の目標に掲げている2つの授業の名前を上げる。
どちらも”ゴーレムコア”の設計に関わるアクリラでも最高難度の授業だ。
ウチの”ピカ研”のメンバーだとベル先輩が、ようやく去年の秋頃に参加を認められて快挙だと祝った程の、参加することすら難しい授業。
”製造”だけならば見様見真似でもなんとか辿り着くが、”設計”となればこのクラスの知識が求められる。
そして”あの2人”の複雑怪奇な構造を理解するのにも・・・
「だが、君の課程は既にそこを目指して組んであるし、私の専門ではないが君達の能力なら辿り着けるだろう。
それに去年の”基礎魔道具”の成績はかなり良かったはずだ」
スコット先生がそう諭す。
その言葉通り、今の俺達は結構順調なペースで行っていた。
だがモニカは引かない。
「わたしの”目的”は、その2つの授業を取る事じゃありません」
モニカはキッパリとそう言い切った。
「戦闘系の授業に出たくないわけじゃないです・・・ただ、その時間を別に使いたいというか、長い授業だけじゃなくて、その時間に少しでも沢山他の活動をしたいんです。
”おうち”の事もしないといけないし、外にも出ないといけない。
これから、どんどん時間がなくなっていく」
それを見たスコット先生が資料を机に置いて腕を組む。
「そんなに
「去年アクリラで学んで、、魔道具に詳しくなればなるほど、どんどん難しく感じて・・・
それなのに強さばっかりどんどん膨らんで・・・」
モニカは抑えていた気持ちを吐露するようにそう言う。
「たぶん・・・これは一生かかってやっと届くかどうか・・・いや届かないのかもしれない」
そして”次元収納”から、”2人のパーツ”を取り出した。
壊れたその表面は複雑な凹凸を示すように虹色に光を反射している。
「これ・・・明らかにアクリラで見たどの魔力回路より複雑なんです。
だから・・・」
「だから早くアクリラの水準を超えないと?」
「・・・はい、そのために、わたしの好きにできる時間は全て使いたい」
そう言いながらモニカが俯く。
世界一の先進研究都市を超えねばならないという事の意味と難しさを、ここで過ごす内に刻み込まれていた。
自分が、いかにとんでもない技術の中にいたのかを。
・・・そしてそれが”意味するところ”を。
「ということは、”もう一つの道”は完全に諦めてるのだな」
「・・・はい。 誰もこれを直せる人はいないと思います」
モニカが結論のようにそう言った。
もう一つの可能性・・・すなわち2人を直せる人を探して直してもらうという案だ。
これまでそれは、それだけの”信用”が持てないという理由で保留してきたが、ここで一年学ぶに連れ、専門的な資料に触れるに連れ、それよりももっと根本的に、現状のゴーレム技術の”水準”がカシウスに対してまだ大きく劣っていると感じざるを得なかった。
この掌に乗る程度の”小さな部品”ですらだ。
「もうこれ以上の”強さ”なんて、なんの役にも立たないと思います。
というか、放っておいても強くなると思います。
だから、今年は本気でこれに繋がる勉強がしたい」
モニカがそう言いながら拳を握る。
実際俺も、勇者すら打ち破る以上の強さが必要な場面って何よ? と聞かれたら、なんとも答えがたい物がある。
それにあれから数ヶ月でさらに強くなってる実感があるし、”放って置いても”は流石に語弊があるが、特段何もしなくても強くなるのは事実だろう。
スコット先生もそれには同意なのか、珍しく”たしかになー”的な表情で上を向いた。
「ただ、別に戦闘系の授業は強さを磨くだけでのものではないからな。 友人と手を合わせ、触れ合わせる事で学ぶことは、言葉にできるものだけではない」
スコット先生はそう注意する。
だがそれは”建前”といった感じでこちらに向き直った。
「だが戦いを介さずとも学べる機会はいくらでもあるし、それを求めずに”道”に打ち込む者もいる。
君の場合、力の制御も含めて少々複雑だから戦闘系の教師と相談してみるが、君の考えと希望はしっかり伝えておこう。
それと魔力回路の授業についても、専門的な授業に参加できないか掛け合ってみる。
もしかしたら見学だけでも出来るかもしれない」
「ありがとうございます」
モニカがそう言って感謝する。
スコット先生がなんとなくではあるが同意してくれたことで、モニカの中からホッとしたような安心感が流れ出して俺達の内側が暖かくなった。
相談が一段落ついたことで、スコット先生が”ティーセット”の方に歩み寄る。
思えば、この1年で彼のお茶も本当に美味しくなったものだ。
おっと、忘れない内に。
『モニカ、”あの件”、スコット先生に投げるぞ?』
『”あの件”って?』
『ほら、”パーティ”の前衛』
『ああ』
忘れてたな。
「先生、俺達”パーティ申請”をしたんですが、入ってくれませんか? それか来年だけでも・・・」
とりあえず俺はその提案を投げてみた。
別に生徒のパーティに教師が入っちゃダメという決まりはない。
スコット先生なら万全の信頼が寄せられるし、何よりこれ以上無い”前衛”だ。
イリーナより硬いんじゃないの、この布陣。
「氷の大地に行きたいという話か」
「はい」
モニカがそう答えながら期待に満ちた視線を送る。
だがスコット先生は首を振った。
「やめておくよ、この足だ」
そう言いながらズボンの裾を少しまくる。
そこにあったのは驚くほど無骨で簡素な義足の骨組み。
それを見たモニカから”あちゃぁ・・”的な感情が漏れた。
「助けてやりたいのは山々だが、短時間ならともかく長期間となると私は確実に”荷物”になる。
全てが凍りつく極北の彼方となれば尚更だ。
それに君の社交性を鍛えるいい機会にもなる。
流石に来年の今頃になってもメンバーが出来ないなら、旅に長けた者を数人紹介するが」
「いえ、大丈夫です。 わたし達で見つけます」
モニカが慌てて丁寧な感じで答える。
やっぱりスコット先生に頼むのは無理があったか。
そりゃそうだわな。
”前衛”はそう簡単には見つからないようだ。
だが、それで俺達が失敗したかとソワソワしていると、今度はスコット先生の方から思わぬ言葉が飛んできた。
「先程の話と関連してるかもしれないが・・・実は校長とスリード先生から今年の授業計画について”提案”がある」
スコット先生が、丁度頃合いになったティーポットからお茶をカップに注ぎながらそう言ったのだ。
「提案ですか?」
モニカが不思議そうに聞き返す。
さっきと関連があるというが、じゃあなんでさっき言わなかったのだろうか?
「そろそろ”専門”について考えてもいい頃だろうとの事だ」
スコット先生が難しい感じと困ったような感じの中間みたいな顔でそう言った。
「でも”専門”って言っても・・・」
「”ゴーレム機械”っすよ?」
俺が確認するようにそう伝える。
少なくともそれを目指したいという意志に変化はない筈だ。
「向いてないかもしれないけれど・・・それは譲れない」
アクリラの”そこの所”から考え直せと言わんばかりの提案に、モニカが念を押すようにそう言う。
だが僅かに漂った不穏な空気にスコット先生は首を横に振った。
「違う違う、勘違いしている。 アクリラは
と若干慌て気味に補足する。
だが、既に目指す専門が決まっているのに新たに考えるとはどういうことだ?
その答えに俺達は驚く。
「
「え?
予想外の答えに俺達は一瞬、反応が止まった。
「ああ、そうだ。 もうすぐ1年、モニカと一緒に学んで魔法について基礎的な知識は出来ているだろう?」
「えっと・・・でも」
「せっかく2つの人格があるんだ。 2人共同じ道に進むのも一つの答えだが、違う道に進みながら協力することだって出来る」
「でも俺達は同じ体で・・・」
「君のことだ。 別々の場所の情報を得ることは可能なのだろう? 道が決まれば教師の対応含めて、アクリラで手はいくらでも打てる。
それよりも可能性を伸ばすべきだろう」
そう言ったスコット先生を俺達はポカンと見つめる。
”俺の授業”という発想がすっぽり抜け落ちていた事もあるが、まさか本気でアクリラが俺を別人格として育てようという計画を立てているとは夢にも思わなかったのだ。
「で、でも、去年はモニカとずっと一緒だったんで・・・」
「去年はあくまでこの街に
「でも、俺の存在はできれば隠したいし・・・」
「正体を公にしてない生徒は君1人ではないよ」
スコット先生がそう言いながら、椅子を俺達の目の前持ってきてそこにドカリと座った。
「実はアクリラに存在を知られず通う生徒は少なくない。
元々、隠れ家的な場所でもあるからな。
それに関するノウハウだってある。
もちろん、君がまだモニカと別の授業を同時に取ることが難しいというなら待つが」
そう言って”俺”の目を見るスコット先生。
するとモニカがそれに賛同した。
「わたしも、できればロンには別の”得意”を持ってほしい」
「モニカ?」
「そりゃ、ロンがゴーレム系に進んでくれれば嬉しいけれど、”別の目”がほしいとも思う。
ロンだってそう思ったから、”あれ”を作ってるんでしょう?」
モニカがそう言って俺が庭で個人的にやってる実験のイメージを送ってくる。
「”あれ”はなぁ・・・確かにずっと作ってるけど、あまりモノにはなってないからなぁ・・・」
「授業を受けるだけなら、そんな大それた機能は必要ないよ」
「その会話からして、やはり何らかの手段はあるのだな」
スコット先生が感心したように問う。
「まあ、あるっちゃ、あるんですけど・・・来月まではかかるかな、と」
俺がその概算を先生に伝える。
すると先生は小さく笑いながら肩をすくめた。
「それで十分だ、こっちは来年辺りを想定していたというのに」
「あ、そうなんですか」
意外と先の話だったらしい。
その事に俺は少しホッとすると同時に、頭の中の”計画”に必要な変更を書き加えた。
「専門を決める時間も必要だしな。
現時点で何か希望はあるか?」
「希望というか、ゴーレム機械を目指してたから・・・」
「それは、わたしがやる」
俺の答えにモニカが頑とした口調で言う。
「それはわたしの”願い”だから、ロンは自分が向いた道に進んで」
モニカの言葉は、彼女の中で何かしらの”結論”が出ているかのようだ。
それとも覚悟というべきか。
「モニカがそう言うなら・・・まあ、モニカの授業も全部見てるし、俺は他の専門を見つけたほうが効率的なのかもな。
・・・ただ、そうはいっても何を学ぶべきか・・・」
いきなり別の道を考えろと言われて思いつくものなどない。
一応、色んな魔法を自己診断にかけると、やはりチマチマとした魔法に秀でてる気がするが、それは俺の個性というよりスキル全体の傾向で、それで言えば俺は大雑把な方だと思う。
だがそんな事を俺が言うと、スコット先生が珍しく待ってましたと話を切り出した。
「今日のこれからの予定は?」
突然掛けられたその言葉に、モニカが不審に思いながらも指を折って数え始めた。
「えっと・・・もう、今日の予定は・・・」
「回る所は全部行ったはずだぞ。 後は帰還祝いということで、6時に中央区のレストランでルシエラとベスが待ってる」
ちなみにこの世界の6時なので、地球基準だと7時半くらいのノリだ。
「それなら、まだ2時間はある。 君達の足なら余裕があるだろう」
スコット先生がそう言うと、研究室の奥へと歩み寄りそこに置いてあった雑多な荷物をどけながら、その奥から比較的真新しい木箱を取り出した。
「どうかね、”適性検査”を受けてみないか?」
「適性検査ですか?」
「ああそうだ。 実は生徒の進路相談に使う簡易的な物があってな」
そう言いながらスコット先生が腕力だけで釘ドメされた木箱を開け、中からいくつかの魔道具と紙の束を取り出した。
「ペーパーテスト?」
「ああ、だから本当に軽く参考にする程度のものなんだが、これくらいの方が君も気が楽だろう?」
「まあそうですけれど」
するとスコット先生が、机の1つを片付けそこに問題と答案を並べだす・・・全ての用紙を
「全部いっぺんにやるんですか!?」
まさかね、と思いながら俺がそう聞くと、スコット先生が何を今更と言いたげな表情でこちらを見た。
「時間がないだろう? それに君の能力に負荷をかけるにはこれくらいしないと」
負荷って・・・
まあ、でも確かにインテリジェントスキルの能力を考えれば、これくらい妥当なのかもしれないが。
スコット先生が答案を並べ終わると、モニカが盆にお茶と茶菓子を乗せて机の前に座る。
これは”俺の検査”なのでモニカは座ってるだけだ。
まあ、しかたない。
諦めた俺は”次元収納”からフロウの塊を取り出し伸ばして”腕”をいくつも作り、その全てにペンを持たせた。
モニカの背中や腹から生えた何本もの細長い黒い腕が、一斉に答案に向かう。
そういや”入試”の時もこんな事をしてたな。
ただ、入試の時と違うのはあの時はモニカも解答に参加していたが、今回は参加しないことだ。
「じゃあ、わたしは別のことしているね・・・ズズッ」
そう言いながら、お茶をすすり甘い茶菓子を頬張るモニカ。
そして勝手に腕の一本のコントロールを持っていくと、持ち込んだ魔力回路の参考書を開いて読み始めた。
どうやら、適性検査の中身には興味すら湧いてないらしい。
そりゃ戦闘系の授業を全部キャンセルしたがるくらいだから、他のジャンルには興味ないのだろうが。
なんというか・・・
モニカの進路相談に来たはずなのに、いつの間にか俺の進路相談になっていた。
不思議なもんだ。
「それでは、私も作業に戻るから、終わったら教えてくれ」
スコット先生もそう言って行ってしまう。
どうやらカンニング対策はしないらしい。
まあ、適性検査でカンニングしてどうすんだって話だけれど。
仕方ないので俺は、一人寂しく大量のペーパーへと意識を移した。
1時間後・・・
「・・・ある意味では予想通りの結果か」
スコット先生が予め仕込まれていた魔法で採点された大量の答案を前にして、若干困り気味に唸った。
適性検査の答案は、殆どの分野に対して満点かそれに近い数字を示している。
まあ、スキルの特性考えたらペーパーテストはこうなってしまうわな。
ただ、何事にも例外はあるもので。
「”概念魔法”が33.6点・・・」
「それだけ低いね」
「いやぁ・・・お恥ずかしいかぎりで・・・」
概念魔法に関する問題って、水に泥を一滴垂らしたらそれは何かとか、温めたらどこからがお湯だとか、なんか雲をつかむような話ばっかりで意味がわからないのだ。
当然、俺自身が真剣に考えて答えるしかなかったのだが、なんと書いて良いかも分からない問題の連続だった。
哲学と言っても良いかもしれない。
「少なくとも”概念魔法”だけは向いてないですね」
俺は苦笑気味にそう言った。
だがスコット先生は顎に手を当てて答案を睨みつけたまま。
俺としては、出来の悪かった答案をそこまでマジマジと見られるのが恥ずかしいのでちょっと止めてほしいのだが・・・
「いや・・・そうとも限らんぞ」
「スコット先生?」
「他の回答は、どちらかと言えば君の”機能”といった方が近い。 適性の参考にするのは少々問題がある、むしろそれらが働いていないこれの方が信憑性があるだろう」
「でも、点数悪いですよ?」
俺が自虐気味にそう指摘すると、驚いたことにスコット先生は首を振った。
「概念魔法は難しい上に適性が物を言う分野だ。 優秀な生徒でも0点は珍しくない。 驚くほどというわけではないが、これでも高い方だろう」
「先生は俺は概念魔法に向いてると?」
俺がそう言うと、スコット先生が腕を組んでまた唸った。
「私も完全に門外漢だからな、ハッキリとしたことは言えない。 だが現在使われている全ての魔法に少なからず関わっている分野だし、ゴーレムでも応用出来るだろう。
なにより”次元魔法”と並ぶ魔力効率の悪さで魔力量が物を言う分野でもある。 その意味では向いてると言えるんじゃないだろうか」
なるほど、魔力量が物を言う分野か・・・
たしかにその理屈なら俺達ほど魔力持ってる奴もそうはいまい。
そういやガブリエラも”次元魔法”が専門だったな。
するとそんな俺の考えを読んでか、若干消極的な俺を無視してモニカが食いついた。
「”概念魔法”やろうよ、きっとすごいこと出来るようになるよ」
「とはいえなぁ・・・」
俺が口籠る。
正直なことを言うと、あからさまに途轍もない”次元魔法”と違い、概念魔法に巨大魔力を突っ込んだところで何か出来るようになるとは想像できなかった。
だがモニカが求めたのはそこではなかった。
「概念魔法なら、魔力回路を省略したり、別の所と繋げたり出来るでしょ?」
「あ、そういえば”アクリラ祭”でそんな展示してる研究所があったな・・・たしか」
俺はその記録を掘り起こし、そこに書いてあったことに絶句する。
「”ロン・アイギス研究所”・・・」
そう、あのモニカが一字一句聞き漏らすまいと真剣に聞き、発表の映像を何度も
その研究員の発表に、確かに”概念魔法”による制御の拡張の話が出てきていたのだ。
つまり、カシウスのゴーレム制御には”概念魔法”の理論が組み込まれている。
「きっと”すごいこと”ができるようになるよ」
モニカが再度、力強い口調で俺にそう迫る。
まったく・・・そんな感情をぶつけられてしまえば、俺の選択肢などなくなってしまうではないか。
「スコット先生・・・とりあえず基礎の授業を受ける事って出来ますか?」
「出来る。 どこの授業に入るかは調整次第だが・・・いつがいい?」
「授業に必要な機能に絞れば・・・半年以内には」
俺は”あれ”の進捗状況から運用可能時期を見立てる。
だがそれをモニカが食い気味に否定した。
「”中2の頭”からお願いします」
「・・・も、モニカ!? 頭からって1ヶ月ないよ!?」
モニカの答えに俺が狼狽える。
だが彼女は引かない。
「まだ今は時間があるから、ロンは”あれ”の実験に使って。 もし間に合わなかったら、わたしも出るから」
「それじゃモニカが授業に出れなくなる、なんのために戦闘の授業をキャンセルしたんだ」
「ロンが”概念魔法”に進めるかは、それくらいの価値があると思う」
モニカは躊躇なくそう言い切った。
と同時に、彼女の中で俺が概念魔法で強力な魔力回路を作り出す光景が組み上がっていくのを、俺は感じ取る。
どうやら逃げ場はないらしい。
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