2-5【少しの進歩 5:~魔力ロケット改良計画~】



 アクリラの街に夕暮れが訪れ、茜色の光が街を染めていく。

 そしてちょうどその光が途切れ始めた頃。

 ピカティニ研究所の大きな建物に、大量の荷物を背負ったオオカミの顔の少年が入っていった。


「お久しぶり!」


 その少年は中にいる者たちに向かってそう言うなり、勝手知ったる我が家とばかりに背負っていた巨大なリュックを近くにあった机の空きスペースに下ろす。

 そのドサリという重量感のある音は、とてもそれが人間に背負えるものだとは思えないが、獣人ならではの強力な筋肉と高度な筋力強化があるのでそれが可能なのだろう。

 するとそれを見た小人のように背の低い、耳の尖った女性が軽く目を見開いた。


「おや、ライリー君じゃん」

「ルビウスさんお久しぶり、先生はまだ寝たきりですか?」

「今年はずっと調子悪いからね。 まあ本人は結構元気なんだけど。 ”武者修行”は終わったの?」

「おかげさまで、行った10箇所の工房全てで”合格”が貰えました」


 ライリーはそう言うと自慢げに両手を広げた。


「おめでとう、よくやったわ」


 その”武者修行”の難易度を知るルビウスは、そう言って若干目頭を熱くする。


 ライリーの種族は特に手が不器用で有名で、彼がここに来たときもその例に漏れてはいなかった。

 その彼が己の弱点を克服するために、手を使う”工房”を巡る旅に出たのはちょうど1年前。

 不器用な彼が工房で”合格”を貰うというからには、きっとかなりの苦労があったのだろう。

 だが、それでもやり遂げたのだ。

 それでも、ちょくちょく手紙や旅先で見つけた”荷物”を送りつけていたので、ルビウスはそんなに離れていた実感はなかったが、こうして顔を見ると中々感慨深い。


「ベル先輩は?」

「そこで寝てる」


 ルビウスがそう言って、親指で後ろを示す。

 そこには油と魔力潤滑剤に塗れて、農業用の大型ゴーレムの頭の下で眠る灰色の大柄な男の姿があった。


「相変わらずみたいですね」


 ライリーはそう言ってから笑いをした。


「昨日からずっとこの子にかかりっきりでね、禄に寝てなかったのよ」

「大型ゴーレムは繊細になりやすいですからね」

「だから”声掛け”は明日にしてあげて」

「分かりました、それじゃ先生のところに・・・の前に噂の”新人コンビ”を見ておきたいですね」

「あら、気になるの?」


 ライリーの言葉にルビウスが意外そうな顔をした。


「そりゃ顔を知らない”仲間”はできるだけ、早く見ておきたいですよ」

「だったら上の実験場よ、2人とも今は”自由研究”やってるわ」

「自由研究?」

「結構ビックリするわよ」


 ルビウスがそう言っていたずらっぽく笑うと、ちょうど上の階から謎の振動が伝わってきた。





 ピカティニ研究所 2階


 その倉庫と実験場を兼ねた広大な空間で、2人の少女が作業用のエプロンと大きなゴーグルを付けて怪しげな空気を纏いながら佇んでいた。


「フフフ・・・」

「フヒヒ・・・」


 モニカとメリダは2人揃ってそんな怪しげな笑いを浮かべ、それを見たロメオが後ろで若干引いている。

 ロメオは、この実験場で”夕稽古”を行っているので普通に建物の中に入っていたのだ。


 不思議なことに、どういうわけかこういう格好してこういう雰囲気を纏っていると、口から出てくるのも謎の”マッドサイエンティスト感”漂う笑いになるんだな。

 てっきりあれはそういうキャラだからだと思っていただけに、モニカとメリダみたいな女の子でも環境次第でこうなるというのは、中々新鮮な経験だった。

 まあ、この2人を普通の女の子とするのは少々問題あるし、ゴーレム研究者的な意味で成長していると思うことにしよう。

 

 さて、そんな風に2人が”マッドサイエンティストごっこ”に興じている前には、これまた”それっぽい物”が鎮座していた。

 

 魔法が幅を利かせている世界の代物とは思えないほど”メカメカしい”その代物は、大きめの筒に入った円柱を横に倒したような見た目をしていた。

 そしてそこから伸びる大量の黒い線が、様々な検測用の魔道具やモニカの体につながっている。

 こいつはこんな見た目だが、その正体は魔力ロケットだ。


 実はメリダに”空を飛びたいんだけど騒音がひどい”と相談した所、メリダもその改良に協力してくれることになったのだ。

 彼女は”2.0強化計画”にも最近はノリノリで参加してくれているので、本当にありがたい。

 若干、”実験動物”的な扱いではないかとも思うが、既にしっかりとした魔道具の知識を持っている彼女が関わってくれるようになったおかげで、ノリと勢いと魔力のゴリ押しだった俺達によりスマートな視点での改善が行われるようになったのは大きい。

 そして今日は、魔力ロケットのマイナーチェンジ版の評価試験を行っている。

 ここは実験場なので強度も十分だし防音も完璧で遠慮なく吹かせるとあって気合が入っていた。

 

 それじゃ早速見ていこう。


 まずは標準的な魔力ロケット。


  出力:高 応答性:優秀  燃費:極悪  総評:致命的にうるさい


 空中戦を考えるなら1番優秀だが隠密性の”お”の字もなく、普段遣いしようものなら苦情の山に圧死しかねない。

 まあ、これはわかってた。


 次に魔法陣を組み込んだ改良型。

 バージョンとしては現行型といっていい。

 よほど機敏な相手じゃなければ戦闘で使うのもこの型だ。


 出力:高 応答性:中 燃費:悪 総評:鼓膜が破れる。


 こっちは継続戦闘力を重視して、燃費は若干改善したものの、依然として騒音は論外レベルのまま。

 改めてこんなうるさいものを背中に付けてたのかと思うほどうるさい。


 そしてこっからが今回の”実験機”達だ。



 モデルナンバー 041


 ”完全魔法陣型魔力ロケット”


 見た目はロケットエンジンというよりか、ドラム缶に近い。

 魔力臨界式の燃焼室の代わりに、内部に魔法陣を抱えて同じ効果を狙った仕様だ。

 だが結果としては、


 出力:低 応答性:無 燃費:優 総評:ゴミ 失敗作 しかも煩い。


 という散々なもの。

 燃費に優と書いてるが、俺達からしたら無駄なほど低燃費だし、それでもまだ一般的には悪い部類に入るという”誰が使うんだ?”状態なだけである。

 次行こう、次!



 モデルナンバー 106


 ハイブリット魔力ジェット


 今回の本命その1

 小型、低出力の魔力ロケットを呼び水に、外の空気を取り込んでそれをロケットの熱で加圧して推力として噴射するロケットとジェットエンジンの間の子みたいな奴。

 別に狙ったわけではないが、見た目は思いの外普通のジェットエンジンっぽい。


 出力:中 応答性:中 燃費:まあまあ 総評:なかなか だけどやっぱりうるさい


 正直言うとかなり良い。

 全てがそれなりの性能で、見た目もかっこよくどこに出しても恥ずかしくない仕上がりだ。


 うるさく・・・・なければな!

 次!



 モデルナンバー 203


 ターボ魔力ジェット


 さっきのハイブリッド魔力ジェットの派生型。

 もういっそ全部ジェットにしちまえよということで、魔力ロケットは推力ではなくファンを回すための回転力を生み出すことに特化している。

 エンジン中央の軸自体に小型の魔力ロケットを若干斜めに埋め込んでいる。

 更に螺旋状にノズルを配置することで、ロケットを吹かすと僅かな推力と強力な回転力を得られ、その回転力で以って大量のフィンの付いたファンを回して推力を得るのだ。


 だが詳しい方なら” それってもう”ジェット”じゃなくて”ロケット動力式ファンエンジン”とかになるんじゃないの? ”と言うかもしれないが、

 見た目は完全に飛行機の羽についてるやつなので”ジェット”でいいんだよ!


 出力:中 応答性:低 燃費:エクセレント! 総評: 素晴らしい! でもこれじゃないし、やっぱりうるさい


 見た目だけでなく、動きや音までジェットエンジンだ。

 性能や使い勝手も、まさにジェットエンジン。

 本当に燃料が魔力なだけのジェットエンジンといっていい。

 これで厳密には”ジェット”じゃないと言うんだから、もはや意地悪なひっかけ問題である。

 これはそのまま飛行機に付ければ、航空革命が起こせるのではないか?

 もしくは産業用の発電機として使うか。


 だがハッキリしてるのは、”俺達の求めていたのと違う”ということだ。

 パワーは安定しているものの物足りず、何らかのボトルネックがあるらしく一定以上の出力にはならない。

 そして驚いたのはロケットのパワーを上げると、あるところから逆に出力が下がるのだ。

 更に応答性に至っては無いも一緒で、俺達のエンジンとして使うのは不安すぎる。


 まあ、ものは非常に良いので別の研究テーマとして開発を続けていこうとは思っているが、今回の実験枠でのテストは失敗扱いだ。

 

 ちなみに一部の空気をロケットの排気で温めて加圧した、”本当にジェット”なバージョンも作ってみたが、

 騒音の悪化以外は多少出力特性が変わる程度の違いしかなく、データだけ取って速攻お蔵入りした事を追記する。


「まあ、こんなとこだね」


 メリダがそう纏める。


「こんなものか・・・」


 それに対しモニカが露骨に肩を落とす。

 実は数日前、ルシエラに教えられて飛行許可を取るために”教習所”的な所に飛行法令の受講の申請に行ったのだが、

 ”どうやって飛ぶんですか?”と聞かれて魔力ロケットを吹かした瞬間、即”お断り”とあいなった。

 やはり音が駄目らしい。


 あと普段使いするには出力が高すぎるという指摘もあった。

 この街で飛ぶにはただ飛べるだけじゃ駄目なのだ、他人の迷惑も考えなければ。

 公道でF1が走れないのと同じである。

 いや、むしろ燃費とパワーと騒音的にはドラッグカーとかが近いかもしれないので、余計駄目だ。

 そう考えるとむしろよくこれを審査に持ち込んだとも言えるな。


「やっぱり噴射にこだわってる限りは、どうしても音の問題がつきまとうね」


 メリダが当たり前といえば当たり前の結論に達する。

 もちろん先に挙げたのは代表的な試作で、本当はもっと微妙な変更を加えた”マイナーバージョン”が存在するのだが、だいたいどれも見るも無残な結果に終わっている。


「他はどうしてるんだ?」


 俺がふとそんな疑問を述べた。


「さあ、”環境変動系”とか”ベクトル制御系”とかだと思うけど、そういうのは音が出ないからね」

「ルシエラは”ベクトル制御”だって」

「ルーベンは環境変動系だと思うよ」


 ”ベクトル制御”とは魔法で力の方向を制御して飛ぶ方法で、シンプルかつ機敏なので高度な魔法士は大概こちらを選択する。

 しかしシンプルな分ピーキーなので、専門知識を大量に必要して免許が降りづらいという特性があり、俺達もまだまだ知識不足で手出し出来ない手法だ。

 一応ルシエラに聞いて試してみた時は、飛ぶというよりは”空に落ちる”に近い印象だった。


 ”環境変動系”は周りを変えたり、自分の”扱い”を変えたりすることで行うものの総称で、スキル保有者等はこちらを使っていることが多い。

 こちらも一応コピーはしてあるが、非常に独特の制御を必要とするために制御魔水晶の中に専用の回路をつけていることが多く、そこを解析できないと危なっかしくて使えない。

 あとガブリエラも飛べるが、あれは飛ぶというより強引に浮かぶ感じだ、強いて言うなら”ゴリ押し系”?


「でもこの方式を続けていきたいよね」


 モニカがしみじみとそう言う。

 既に俺達にとって魔力ロケットはアイデンティティと言っていいので、他の手法に行く前にどうしても足掻いておきたいのだ。


「やっぱり静音回路があんまり効果なかったのは痛いなぁ」


 メリダが頭を斜めにしてそう呟く。

 実は研究所にあった静音結界用の青写真を組み込んだりしたのだが、ほとんど効果がなかったのだ。

 いや正確に言おう。


 効果はあった。


 使ってる本人にはかなりの減音効果があったのだ。・・・・ロケットがジェットに変わったくらいだけど。

 だが肝心の周囲の音量が全然減らなかったのだ。


「その原因について、なにか思いいたるところはあるか?」


 俺がメリダに今日の検測結果を問う。

 俺達で分からなくても彼女なら何らかの引っ掛かりを見つけられるかもしれない。

 するとメリダは検測用の魔道具に近寄り、魔法陣型の制御画面を開いてその内容を読み始めた。


「うーん・・・見た感じ単純に容量不足ってのが大きいと思う」

「回路を大きくすればいけそう?」

「うーん・・・と、どうも空気の揺らぎが大きすぎて、減音効果がそもそも届いてない感じかな」


 メリダは何ともいえない表情でデータを見つめている。


「静音魔法は音を消すだけだから、それの元になってる空気の揺らぎがここまで苛烈で複雑だとちょっとやそっとじゃ対処できないよ」

「でも外の結界装置は結構音を消せてるでしょう?」


 モニカがそう言うと、メリダが腕を組んで悩みこむ。

 基本的に同じ機構なので同じ効果なはずなのに、そうはなっていないのが不思議だ。


 するとその時、背後のエレベータの方でガチャガチャと音がした。


「・・・うわあ、すっごい音だな、また・・・」


 それと同時に見たことのないワンコ頭の人物が現れる。

 誰だろう?

 制服着てるから生徒だと思うけど。

 だがメリダはその顔に覚えがあるらしい。


「ライリー先輩!?」

「ライリー先輩?」


「ピカ研のもう1人の男子生徒だよ」

「あの、今”武者修行”してるっていう?」


 前からピカティニ研究所にはベル先輩とメリダの他にライリーという男子生徒がいることは聞いていたが、まさかこんな犬のような顔をしているとは思わなかった。

 するとライリーはこちらを向いて仰々しく頭を下げた。 


「そう。 自分がご紹介に預かったライリーだ。 君が噂の新人君だね? それとメリダも正式にピカ研に入ったんだね、中等部の制服似合ってるよ」

「ほんと!?」


 褒められたメリダが嬉しそうな声を出した。

 彼女がピカ研に入ったのはライリー先輩の武者修行を始めた後なのだが、メリダは本格的に入る前からここに入り浸っていた、ということなので面識があるのだろう。


「ええっと・・・はじめましてモニカです、あと青写真ありがとうございます」


 そう言ってモニカが頭を下げる。

 実はこれまでも何度かライリー先輩は修行先で見つけた面白い青写真を送ってもらい、その恩恵に預かっているのでその御礼だ。


「君のことは手紙で聞いてるし、思ってたとおりの姿で少し驚いたよ、後ろのは君の実験?」

「あ、はい、メリダと一緒に作ってます」


 その言葉と同時にモニカから大丈夫であるかを問うような感情が流れてきた。

 ライリー先輩に魔力ロケットを見せて大丈夫か心配らしい。


『良いんじゃないか? 直接俺の存在に触れるものでもないし、今後もよく使うつもりだから』


 俺がそう答えると、モニカがちょっと気恥ずかしげ感じに身を引いて、現在実験台の上に置かれている魔力ロケットの姿を見せた。


「さっきエレベータの中で聞いたけど、すごい音だね」

「あはは・・・」


 それ、これでもかなり静かなんですよ・・・

 するとメリダがエンジンの上に付けられた静音回路を指さした。


「ライリー先輩、ここに静音回路付けてるんですけど、うまくいかないんですよ。 なにか分かります?」


 どうやら先輩に意見を求めるようだ。

 その目には確かな信頼が見て取れる。

 メリダがそこまで信頼するということはその腕は確かなものと見ていいだろう。


「ふーん、普通のグルセア減速式の静音回路に見えるけど、特に問題はなさそうだね・・・試しに動かしてもらっていい?」


 ライリーがそう言ってこちらを見る。

 地味なことだが、この一瞬で制御をモニカ自身が行っていることを見抜いたようだ。

 流石ということか。


 俺達は僅かな期待とともに、エンジンを起動してその出力を上げていく。

 するとすぐに轟音と突風がノズルから噴き出した。

 そのあまりの音量にライリー先輩の犬の顔が若干歪むが、驚いたことにそれ以上の反応がなく特に耳を塞いだりもしていない。

 そしてその瞳はまるで獲物を狙う狩人のように油断なく、真剣な様子で魔力ロケットの動きを追っていた。

 それから10秒ほどして、ライリー先輩が手を上げて止めるように合図すると、俺達はそこでロケットの噴射を打ち切る。


「聞いてはいたけど・・・凄い魔力だな、こんなの初めてみたよ」

「あ、ありがとうございます・・・」


 一応実験の為なのと、即それで不審に思われることがないように、最も燃費のいいターボ魔力ジェットを低出力で稼働させたのだが、これでもまだ多いらしい。


「で、問題の静音効果だけど・・・・たぶん原因は分かった」

「本当に!?」

「本当ですか!?」


 さすが先輩、一回見ただけで問題が分かるのか。


「まず、そもそも”使う場所”が間違ってる」

「使う場所?」


「この回路は設置型を想定していて、遠くから来た音を正確に消すことに特化している」

「「うん」」


「だがここまで音源に近いと、モデルになる”静かな音”が分からなくなってしまうんだ」

「「静かな音・・・」」


「この回路は”壁”のイメージで使った方が良いよ、それに音量が大きすぎて処理が飽和してるね、もう少し離しておかないと」

「「なるほど・・・・」」


 確かにこの回路は本来”静音結界”で使うための物だった。

 さすがに”モデル”になる音が必要というのは盲点だったが、魔力ロケットにそのまま組み込むのは無理があったか。

 これはもう一度、回路の設計から勉強しなおしかな。


「それともう一つ、この装置は一方向に大量のエネルギーを放出してるけど、そのせいで”音源”が非常に長くて複雑な形になってるね、それが高速で離れていくから追いつかないんだ」

「ほへー」

「そーだったんだ・・・・」


 その言葉を聞いたモニカとメリダが、魔力ロケットのノズル部分に視線を集中させる。

 今は動いていないが、その話を聞いた後では見えるものが違っていた。


「参考になったかな?」


 ライリー先輩がそう言うと軽くウインクしてきた。


「はい! なんか見えてきたような気がします!」

「次の実験機の設計図が浮かんできた」


 モニカとメリダがそう答えると、近くの机に一気に飛んで行って図面を書き始めた。

 そのペンの走りは先ほどと比べると雲泥の差だ。


「それじゃ、自分はこれからピカティニ先生のところに顔を出してくるから」


 そんな様子のモニカとメリダを見たライリー先輩はそう言うなり、静かに回れ右するとエレベータの方に戻っていった。

 その言葉通り、どうやらこれでここから立ち去るようだ。


 だがその足が途中で止まり、こちらに振り向いて注意するように声を放った。


「2人とも! まだ中等部だから遅くまで残ってちゃだめだよ!」


 だが改良に夢中になった2人は、そんな声など聞こえなかったとばかりに返事はなく、それを見たライリー先輩はやれやれと首を振りながら実験場を後にしたのだった。




 ちなみにこの後に作った”改良型”であるが、結論から言うとあんまり効果がなかった。

 やっぱりこの程度の思い付きは上手くいかないらしい。

 ただ、そこから得たデータで次の試験機の草案がいくつか思い浮かんだので、完全に無駄だったわけではない。


 なにより、その試行錯誤と失敗の繰り返しは、とっても”魔道具開発者”っぽく、楽しいので全く気にならなかった。


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