2-3【激突! ライバル! 2:~制限~】
頭のすぐ横を猛烈な速度で何かが通過し、モニカがそれを間一髪で躱す。
「っ!?」
モニカの口から思わずそんな声が漏れる。
今のは、もしまともに喰らえば間違いなく俺達の負けだっただろうという威力だったのだ。
戦闘訓練の授業では、まだ俺達の戦いは続いていた。
まだ1組の中でも比較的順位の低い相手ばかりだが、それでもアルスに勝ってから3連勝と勢いに乗っている。
ただ対戦相手の順位が上がるにつれ、その強さや厄介さが格段に上昇していた。
そして今俺達が相対しているのは、この街ならではの”人外”の生徒で、見た感じは巨大な狐だ。
だがその体は炎に包まれ、筋肉に秘めた力は人間の比ではない。
なにせ彼は血統書ならぬ”手配書付き”の魔獣なのだ。
「うっわぁ!?」
スレスレのところでモニカが後ろに飛び退き、そこを巨大な爪が通り抜ける。
魔獣とあってその身体能力は桁違い。
巨大な体を魔力でブーストしながら凄まじいスピードを確保していた。
しかもその上、身に纏っている炎がかなり熱い、ただでさえ夏真っ盛りだというのに。
その熱さでモニカの体から剥がれ落ちた汗が、燃え盛る狐の表面に当たって”ジュッ”っと音を立てて蒸発している。
だがモニカは冷静に相手の動きを読み続けていた。
そして相手が地面に着地する瞬間、俺に向かって瞬間的に指示を飛ばし、地面の組成を変えて液状化させる。
「!?」
火狐が驚きの声を上げる。
硬いはずの地面は、ボコボコと音を立てて波打ち、泥のように柔らかくなってしまったのだ。
ここまでの戦いの中で、すでにこの区画の地面は残らず俺達の制御下に置かれていた。
それをどのように変化させるかは思いのまま。
そしてそこに高速で突っ込んだ火狐の脚は、本体の重みも手伝ってズボリと泥の中に埋まってしまった。
しかもモニカは火狐が4足で受ける瞬間を狙ったため、今や全ての足が泥の中に埋まっている。
こうなっては罠にかかった、ただの狐と一緒、逃れようと藻掻いている間にトドメを刺せる。
もし普通の”獣”ならば決着は付いていただろう。
だが残念ながら相手は普通の獣ではない。
火狐の全ての足が泥に取られた次の瞬間、驚いたことにその火狐はこちらを”キッ!”と睨みつけ、その足が黄色に輝くと、
足の周りの泥が跳ね飛ばされるように押しのけられ、その中から黄色の魔法陣が現れた。
そうだった。
相手は魔獣であると同時にこのアクリラの”生徒”なのだ。
魔法陣を履いた火狐は、その魔法陣を足場に泥の中から飛び出すと、そのまま次の攻撃に移ろうと身構えた。
だがそれでも、泥に足を取られた隙は火狐にとって致命的なものになっていた。
その僅かな一瞬の”遅れ”のせいで火狐の防御が間に合わなかったのだ。
「あああああ!!!!」
気合の籠もったモニカの叫びが木霊する。
今できる限界まで強化した脚力によって砲弾のように打ち出された俺達の体が、巨大な火狐の脚の間に潜り込むと、それと同時にモニカが腕を突き出した。
十分に加速され体重の乗ったモニカの腕には、装甲付きの篭手とその先端に取りつけられた鋭い爪がある。
そこにさらに相手の巨大な体重と勢いが乗り、その爪は必殺の一撃と化していた。
俺達の腕に、ガラスのような火狐の結界を突き破る感触と、その向こうにある頑丈な”本物”の結界に弾かれた衝撃が感じられた。
そして次の瞬間、巨大な火狐の形に結界が弾け飛び俺達の勝利が確定した。
「そこまで!! 勝者モニカ!!」
立会人の先生のその声の直後、再び固く戻した地面に着地するとモニカの体からフッと力が抜け、同時にどっと疲労が噴き出してきた。
そして後ろを振り返ると、そこにはやや不満顔の火狐が優雅に着地し身に纏っている炎を収めて消すところが見えた。
そこで俺は初めて知ったのだが、アクリラの制服はどうやらかなり強力な防火仕様だったようだ。
火狐の着ている”4足歩行用”の制服は、結構な時間炎に包まれてたというのに、燃えるどころか煤けてすらいない。
「いやはや、負けた負けた」
火狐がこちらを見つめながら、そう言って大らかに笑った。
その様子はとても知的で、先程までの猛獣の気配はどこにもない。
そして、やはり歳のせいかどこか少し大人びているな。
彼は他の生徒と違って10歳でも11歳でもない。
なんと既に200歳を超えているのだ。
だが魔獣になってまだ11年目なので、この学年にいるのだ。
彼の種族は本来知能を持たないが、魔獣化して炎を纏うようになると急速に頭が良くなる。
こういった場合アクリラでは、その者の知能と経験から算出した”推当年齢”を使うか、知能が発達するキッカケを0とする”知能年齢”を使って学年を決定する。
彼の場合は後者だ。
「名前はなんていうの? 対戦表の”あれ”名前じゃないでしょ?」
モニカのその言葉通り、対戦表には名前ではなく、”シャルティ山脈の火狐”と書かれていた。
「拙者はまだEランク故、名前はござらんのだ」
「Eランク?」
「魔獣のランクでござる、Cランクまで上がると”名”をもらえると聞いておるので、それまでは名無し。 今は早くCに上がって名を貰うのが夢でござる」
うわぁ・・・
出たよアクリラ名物、”カルチャークラッシュ”。
ようやく慣れたと思ったのにこれだ。
まさか魔獣が討伐ランクをステータスにして、あまつさえ周知のための”呼び名”を貰うのが夢とか・・・
「ところでモニカ殿はDランク魔獣の討伐経験がお有りというが、拙者の戦いぶりは如何であった?」
「君の方が・・・全然強い」
モニカが肩で息をしながらそう答えると、火狐は自嘲気味に笑う。
「そう言っていただけるとありがたい。 だが拙者はまだEランク、モニカ殿にはまだまだ余裕がお有りのようですし、世辞と受け止め精進してまいります」
「ははは・・・」
・・・いや、本当に君の方がグルドより強いから。
なんならCランクのバルジや超巨大サイクより全然強いからね?
それでEランクとか、査定し直したほうがいいよ、ホント。
というか討伐依頼の難易度を自慢するって、君は海賊か何かかね?
それに試合は勝ったが、終わってみれば向こうの方が余裕は多い。
最後の一撃も相手の結界を破るには十分だったが、
もし仮に・・・
「もし、本当の殺し合いだったら、今のは私の負けだった・・・」
モニカが若干の悔しさを込めてそう言うと、驚いたことに相手の火狐が鋭い目でモニカを睨みつけた。
「もし”本当”の殺し合いだったなら、拙者は何もできずに
その瞳の色はまるで俺達の中身を全て見透かすように深く、その迫力にモニカが体をビクリとさせた。
だが火狐はすぐに表情を余裕のある優しげなものに切り替え、こちらに軽く一礼し、戦闘区画から外へと歩き始めた。
そしてその途中でこちらを向かずに続きをなげてくる。
「拙者はモニカ殿の”本気”と戦いたいとは、思わないでござる」
バレテーラ
さすが本物の魔獣、俺達が自分の能力に制限を掛けていることを一発で見抜きやがった。
たしかに俺の冷静な戦力評価は、仮に本気でやった場合30秒以内に仕留められると”結論”を下していた。
彼の最大の武器は圧倒的な運動能力と魔力であり、それが有意に上回っている俺達を相手に勝ち目はないからだ。
火狐はそこまで見抜いていた。
おそらく獣の本能か、魔獣としての特殊能力か、それとも11歳の知能と200年の経験の組み合わせがなせる技か。
『モニカ、気にするな。 悪意があって、手を抜いているわけじゃない』
「うん」
『それに勝ったのは俺達だ』
そう、俺達は制限下でもあの魔獣に勝ったのだ。
これはかなり大きい。
今俺達にかけてる”制限”は大きく3つ。
1つは総魔力量の制限。
といっても使う総量を限定しているだけだが、隠れ蓑である将位スキルの平均的な魔力量しか使わないという制限を課しているのだ。
もう一つは、その”出力”。
俺達は巨大な魔力を当たり前のようにホイホイと扱うことができたが、実はそんな人間はこの街を探しても片手で足りるくらいしか居ないので、そのままやれば間違いなく目立つ。
なのでこちらも他の将位スキル保有者の平均値程度に抑えているのだ。
そして最後に、俺の”調整間隔”の制限。
こちらも現状だと普段の30分の1程度の割合まで抑えているが、実はこれに関してはここまで制限しても尚平均値よりもかなり高い。
それは俺が一応”魔力操作スキル”として認知されているため、多少秀でているくらいの方がいいからだ。
まあイメージとしては、いつもよりボンヤリと状況を眺めている感じか。
と聞けば怠けているようだが、その実いつもより遥かに頭を使っている。
出来ることが少ない分、一つ一つの動作の意味が重いのだ。
だからこそ、これまで漠然と使ってきた魔力や、行ってきた行動を見直して、より強固で効率的な
それが有ったからこそ、フランチェスカが覚醒する前よりも弱体化するレベルの制限の中でさえ、その時は勝てなかった強さの相手に勝つことすら出来るようになったのだ。
そしてその経験は、当然ながら”本気”の時にも応用が効く。
正直、高性能フロウが揃ってない現時点でさえ、この街に来る前の高性能フロウが全部揃ってた頃の俺達くらいなら、確実に勝てると言い切れる程の差を感じる。
モニカもそれを感じたのか、自分の力を確認するように体の中を魔力を巡らせながら、次の対戦相手を確認するために掲示板に向かって歩いていた。
掲示板には既に次の組み合わせが発表されていた。
この掲示板もかなり高度な魔道具で、生徒達の試合結果を即座に反映し、すぐに次の試合の組み合わせを自動的に算出してくれる。
『次の相手はちょうど30位の子か、残念だが休みは無しみたいだ』
基本的には近い順位同士で試合を組むのだが、同じ相手とはその日には2回以上当たらないなどの制約があるので離れた順位でも当たることがある。
その組み合わせの関係などで休むこともあるが、今回は普通に次に戦うらしい。
「・・・勝ってもいい?」
『ちょうど狙いの辺りだな、勝ってもいいし負けてもいい、何も考えずに行け』
俺がそう言うとモニカが頷いた。
ちなみに先程の火狐は48位・・・・今の敗戦で53位なので結構なステップアップになる。
しかし本当に俺達と同年齢にCランク魔獣を倒せる者が二桁もいるんだな。
なんという魔境か・・・・
そしてもっと恐ろしいのは、そのレベルに制限付きで行けてしまうという事実。
それを考えると改めて俺達の力に薄ら寒いものを感じてしまう。
これまで”やばいやばい”と他人から言われても実感はできなかったが、今はそれが理解できる。
このまま俺達がこの街で学び続ければ、最終的に出来上がる”バケモノ”がどれほど危険か。
いつの間にか”それ”に恐怖している自分がいた。
おっと試合に戻らないと。
既にモニカは次の試合の場所に着いて準備運動を始めていた。
次の相手は、この制限が
いや、この街での学んだ時間の”差”的に勝てる見込みはどちらかといえば薄いだろう。
つまりは出来る限りのことをしなければならない。
「・・・・タイグリス・・・有名だよね」
モニカが腕を伸ばして肩を解しながらそう呟く。
タイグリスは次の相手の家名だ。
『有名なのは姉だけどな』
この街でも有名な生徒の話は他の学年に伝わる。
”
6人全員が戦闘訓練で1組所属、長女は
現在次女が、最高学年の総合4位、戦闘訓練では3位・・・つまり全生徒の中で3番目に強いといっていい位置につけており、その名前の影響力は途轍もない。
ここに来て日が浅い俺達でもその名前は何度も耳にしていた。
そしてその末っ子がこの学年にいて、彼女も1組の上半分に位置する実力者で、俺達の次の試合の相手である。
さて、そんな大層な肩書を背負っている相手だけあって、俺もモニカもどんな厳つい奴が出てくるのかと思っていたのだが・・・・
周囲の生徒の中から、こちらに向かって1人の生徒が歩み出す。
その生徒は予想通り、巨大で筋肉質・・・・でもないか・・・・
「・・・・・・」
その者が近づくにつれ、反応に困ったモニカの目線がどんどん下に向かう・・・・
「どうした? 背が高いのをそんなに自慢したいか?」
「あ・・・いや・・・・」
”そいつ”がツンツンした声で、そう言いそれにモニカが気圧される。
本来なら試合前に相手に気後れするのは良くないが、それも仕方ない。
だって、この子・・・
「か、かわいい・・・」
「なんだとコラ!? もういっぺん言ってみやがれ!!」
「かわいい!!」
「バカにしてんじゃねえぞ!!」
だってこの子、むちゃくちゃ可愛いのだ!
”ドワーフ”とは聞いていたが、背はモニカより低く若干ガッシリしてる。
だがそのせいで”コロン”とした丸っこい印象が強く、まるで大きなぬいぐるみのようだ。
しかもかわいい!
そしてドワーフでも、まだ子供で髭も生えていないので、本当にただ単純にかわいい。
こうなってしまうと目つきの悪さも、汚い言葉遣いもツンツンした態度も”チャーミンポイント”でしかない。
周りを見れば男女問わず沢山の同級生に声援を貰い、それに怒声で応えていた。
あとは薄い赤色の髪を三つ編みにして、背中には不釣り合いなほど巨大な斧を背負っているのが目につくか。
よく見ればその斧には複雑な魔力回路が彫り込んであり、ドワーフらしい手先の器用さが随所に覗えた。
あ、そういえばドワーフの”正しい”名称が分かって今はそれを”ドワーフ”と訳してる。
意味としては前のが”泥の人形”といったニュアンスだったのに対して、今度のは”器用な人”という印象が強い。
「アレジナ! モニカ! 双方準備は出来てるか!」
「はい!」
「いつでもいいぜ!」
立会人の先生の質問に、俺達が応える。
ちなみにアレジナはこの子の名前だ。
アレジナ・タイグリス。
だがこの授業では家の名は関係ない。
だから呼ばれないし、遠慮もいらない。
まあ、タイグリス姉妹と聞けば遠慮よりも気合が入るのがうちのモニカだが。
その証拠に、
「・・・”Gセット2” あと”3番ロッド”」
『Gセット2スタンバイ、3番ロッド・・・って殴り合うの!? あっち見るからに近接特化だよ!?』
モニカが注文したのは、どちらも近接用の装備。
「私も近接主体だから、打ち合っておきたい」
そんな事をさらっと言ってのけたモニカは、構えるように右手を下に下ろした。
そしてアレジナもそれを察したのか、挑発的な笑みを浮かべてこちらを見つめる。
「始め!!」
その号令が出たと同時に、モニカが地面に手をついてそこから”棒”を引き抜いた。
これは槍作成スキルから刃の作成を抜いて、強度とバランスに特化したものだ。
フロウと違って変形も魔法も使えないただの棒だが、モニカが一番訓練に時間を割いてきたのが”棒術”とあって、やはり安定度が高く、経験で押し負けない。
そしてモニカはその棒を両手に握りしめると、ほとんど本能的に迫ってきた斧を受け止める。
「へえ、これを受けきるか! スッゲー強度の棒だな!」
アレジナのその言葉通り、腕にかかった衝撃は凄まじく、かなり強度を上げて作らなければ簡単に棒が折れていただろう。
だが、その衝撃を受けきったモニカは、そのま弾くように押し返すと、その場で棒を一回転させながら逆に打ち返した。
「うぎっ!? あっぐ!」
アレジナが声を上げながら嵐のように打ち込まれるモニカの打撃を斧で受けていく。
棒術の命は変幻自在の打撃と、その速度。
2mに及ぶ身長よりも長い棒全体を利用して、様々な角度から相手に息もつかせぬ攻撃を行える。
だが相手も一筋縄ではいかないようで、巨大な斧を巧みに使い、盾のように往なすとその一瞬の隙を付いて強烈な一撃を叩き込んできた。
攻守が逆転し、今度はこちらが受けに回る。
アレジナの斧もモニカに負けず劣らず巧みで、彼女がその技術に捧げた時間を感じさせるものだ。
そして手元の武器に対する信頼度も向こうが上。
だってこっちはついさっき作ったばかりの武器だ。
信頼もクソもない。
だがそれでもモニカは持ち前のセンスと”嗅覚”でもって勝負のポイントを見極め、即座に攻守を再び逆転させた。
小人同士の長物の打ち合いは、次第に苛烈さを極めていく。
何度も攻守が逆転し、その度にお互いが見事に相手の攻撃をいなし切るため、攻めあぐねていたのだ。
今身に着けているのは、動きを阻害しない簡単なゴーレム素材の装甲だけ。
相手も軽装で、お互いに今の速度の攻撃が命中すれば一撃で勝負が決まることを察していた。
ひたすら続く棒と斧の打ち合い。
それは傍から見れば”どこが魔法の授業だ?”と思うかもしれないが、その実使われてる魔力の扱いは高度を極める。
お互い、生身では絶対扱えない大きな武器を使う以上、その動きには多量の魔力を必要とする。
その証拠に俺の操作画面に映る”魔力残量”の表示がみるみる減っていく。
制限して初めて知ったが、魔力による強化というのは決して燃費の良いものではないのだ。
そしてそれは相手も同様で、アレジナのかわいらしい”おでこ”には、冷や汗のようなものが浮かんでいた。
だがそれでも身体強化を使わなければお互い一瞬で撃ち負ける。
いわばこれは殴り合いに見せかけた、補助魔法の戦いだ。
「あたしに! ついてくるとは! 制御系! のスキルってのは! 随分と! 便利なんだな!」
アレジナが斧をぶつける度にそう言うように、ドワーフであるアレジナの身体強化は俺の魔力制御に比肩するほど見事だった。
おそらく種族の特徴として、筋肉と魔力の相性が良いのだろう。
彼女の二の腕や膝、はためく制服の裾の向こうにチラチラ見える腹筋はどれも激しく大きさを変え、さらに彼女自身が巨大な1つの筋肉のように連動していた。
一方のモニカも、全身の筋肉が餌を求める雛鳥のように激しく俺に魔力を求め、俺がそれにペースを考えながら配っていく。
これはモニカと俺の連携が少しでも乱れれば破綻する綱渡りの状況だが、なんとか互角には持ち込めている。
2人共、先に魔力が尽きた”時”が負ける”時”と理解していた。
そしてどちらが先に尽きるかも・・・
だが、お互いにいつまでもこの激しい打ち合いを楽しんでいたいという感情が、攻撃の全てから発せられていた。
もっと試したい、もっと受けてみたい、そうすればお互いにもっと高みに登れると感じていたからだ。
それでも、それを回避することはできなかった。
「ぐっ!?」
突然アレジナの力が弱まったかと思うと、流れるような動きでモニカが相手の斧を弾き飛ばし、そのまま棒をアレジナの喉元に突きつける。
だがモニカはそのまま結界を突き破るような”無粋”な真似はしなかった。
「・・・あたしの負けだ」
「そこまで! 勝者モニカ!」
立会人の先生の声が響き試合に決着がつく。
モニカの突きつけた棒の先ではアレジナが少し悔しそうな表情でこちらを見つめていた。
「ああ・・・まいったぁ・・・”将位”相手に魔力勝負とか、バカなことしたよ」
そう言って頭をかいた。
その仕草が子熊のようで・・・
ああ、もう・・・可愛な本当に。
このまま持って帰って、部屋に飾りたい!
ちなみに飾りたいと思ったのはモニカです、俺は”子熊みたいで可愛な”までしか思ってません、本当です。
「どちらも殴り合いに意識を使いすぎだ、2人とも距離を取って戦えるのだからもう少し考えたほうが良い」
立会人の先生が俺達の試合についてアドバイスを述べる。
「その棒術が使えて遠距離戦が可能とか、勘弁してくれよ」
「アレジナもなんでしょ?」
アレジナの悪態にモニカがそう答えると、ドワーフの少女はにやりと笑う。
どうやらお互い、まだまだ引き出しがあるようだ。
「でも、次も打ち合いたい」
「あたしもだ、お前には斧で勝ちたい」
アレジナはそう言うと落ちていた斧を拾い、その穂先をこちらに向ける。
さらにモニカもそれに応えるように、棒の先を斧に軽くぶつけた。
そして2人はお互いに”挨拶”を済ませると、2人ともくるりと背を向けて反対に戦闘区画から歩み出る。
だが、その様子を周囲の生徒や先生は、少々呆れた様子で見つめていた。
その視線どおり、どうせ掲示板に行くので反対向きになる必要はないのだが、なんとなくそういう”気分”だったのだ。
モニカが結界を破らなかった時点で、アレジナとの戦いは”そういうもの”になっていた。
『次に戦うときが楽しみだな』
俺がそう言うとモニカから強い肯定の感情が流れ込んできた。
後方視界を見る限り、アレジナも機嫌良さそうなので同じ考えだろう。
彼女とは良い関係になれそうだ。
掲示板の前に行くと既に新たな対戦表が張り出されており、俺達の次の対戦相手が決まっていた。
お! 俺達の順位が29位になってる。
ようやくこれで目標の20位から30位までの範囲に収まったな。
先程の試合の感じだと、”制限”もこれくらいでちょうど良いだろう。
さて、次の対戦相手は誰だろうか、欲を言えば解析でコピーが期待できるスキル保有者とそろそろ戦いたいな。
ええっと次は一旦試合無しで・・・・その次に・・・・
おいおい・・・マッチングおかしくないか・・・・一応希望通り、スキル持ちだけどさ・・・
「・・・・・」
その表示を見つけた瞬間、モニカの目の色が明らかに変わり、全身に緊張と興奮が伝播した。
まるでその”相手”と戦えることを恐れ、同時に喜んでいるかのようだ。
そして、それと同時にこちらを見つめる強烈な視線を感じる。
わざわざ、後方視界で確認するまでもない。
”次の対戦相手”が俺達に強烈な”闘志”をぶつけてきたのだ。
その凄まじいまでの重圧は、魔獣や”エリート”と比較しても劣るところはない。
モニカはそれを全身で感じると、意を決して後ろを振り向き、その相手を見つめ返した。
と、同時に後方視界に入れ替わるように掲示板の文字が大写しになり、まるで運命の様に俺の意識にその文字が染み付いて離れなかった。
1番ブース ルーベン(1位) 対 モニカ(29位)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます