1-11【新しい朝 16:~魔道具づくり 後編~】
それから、私達はルシエラの指示通りに、本当に簡単な機能しか持たない・・・というかそれ単体では絶対に発動できないような魔法陣を、杭の中に刻み込んでいった。
魔道具では最終的に機能すればそれでいいので、こういう形に組んでいくのが基本らしい。
杭の中に作った内容を要約すると、中心に魔力を受け取る回路とそこから使うだけの量を取り出す回路を置いて、その周りにこの魔道具の”機能”となる回路を配置していった。
今回は魔力に反応して”動き”が発生する魔道具だそうだ。
「それじゃ、回路は全部置けたわね」
「うん」
「ああ、次はこれを繋いでいくんだろ?」
「そう、どこと、どこをつなぐかはわかる?」
「なんとなく」
魔法陣について簡単に勉強しているので、今では魔力がどう流れれば機能するか薄っすらと理解できていた。
「まあ、わからなくてもこれ見れば分かるんだけれどね」
そう言って取り出したのは、手のひらに収まるくらいの小さな紙。
中にはきれいな線で簡単な絵の様なものが描き込まれていた。
よく見れば幾つかの丸の間を線が繋いでいる形になっている。
「これがこの杭の回路図か?」
「そう、でも”回路図”なんて言葉よく知ってるわね」
ロンの答えにルシエラが少し感心したような声を漏らす。
「モニカの家にあった本でいくつか見たことがある、これより遥かに高度で複雑だがな」
「ああ・・・なるほど・・・」
あれ、そんなものあったっけ?
そういえば変な図形がいっぱい書いてある本がいくつかあったような気がするな、あれがそうなのだろうか?
「まあ、その図のとおりに線を繋げば間違いないと思うわ、やり方はこうよ、まず回路の位置を確認します」
私は先程までもやっていたのと同じように、薄い魔力で杭を覆って自分で作った魔力回路の位置を探る。
そして次にルシエラが指示したのは、その回路の縁の円の途切れたポイントと、それとつなぐ予定の回路の円の途切れたポイントを意識して、そこに魔力を集中させる。
そして正確に場所を確認すると・・・
「一思いに、魔力を流して!」
「ふん!」
すると、”キュッ”っというような独特の感覚が戻ってきて、2つの回路の間に魔力がつながるのを自覚できた。
そしてほぼ同時に、もう一つの同じ感覚が発生する。
見ればどうやらロンが繋いだときの感覚が伝わってきたようだ。
『あ、ごめん・・気持ち悪かったか?』
「・・・ううん、でも、ちょっとびっくりしちゃった」
回路を繋ぐときはロンが行っている杭の感覚も少し離れたところで行われたのにも関わらず、はっきりと認識できたのだ。
「繋いだ? じゃあ確認してみて」
私が再び杭の周りに魔力を漂わせて回路を確認すると、たしかに杭の中で回路どうしが接続されている様子が確認できた。
「繋がってる!」
なんでだろうか、たったひとつ繋がっただけなのに、まるでそれが凄い事のようでなんとも痛快だった。
ひょっとして魔道具作りってすごく楽しいのかもしれない。
それをきっかけに、私は一心不乱に、回路図に従って回路と回路を魔力で繋いでいく作業を行った。
そして、杭の中で簡単な回路を繋いで複雑な魔力回路がちょっとづつ出来上がっていくに従って、私の中に”快感”とも呼べる感情が膨らんでいくのを強く感じた。
そして・・・・
「できた!!!」
最後の一本の回路を繋いだとき、思わずそんな声が漏れてしまった。
だが完成した杭を眺めていると、そう叫ばずにはいられない喜びがあったのだ。
もちろん全部内側に作ったので、杭の様子に変化はない。
だが、今でははっきりとこの杭が先程までとは明らかに別物の、”高度”な存在のオーラのようなものを纏っている様な気がした。
「ちょっと、貸してみて」
ルシエラがそう言って手を伸ばしてきた。
そしておそるおそる、杭をその手に渡す。
冷静に考えれば、初作品だけあって内部の魔力回路は高さがずれていたり、不均等だったりと結構不格好なのだ。
「・・・うん、大丈夫、回路に問題はないわ」
だが、そんな状態でもお墨付きはもらえたようだ。
やっぱりそこは一番簡単な魔道具ということだろう。
「それじゃ、今度はここから魔力を抜いていくわね」
「魔力を抜く? なんで?」
「今、この杭には私が練り込んだ魔力が充満してるの、それがモニカの魔力に反応して回路を作るんだけれど、このままだと魔力を流しても新しい回路が出来るだけで使いものにならないわ、だから一旦魔力を全て抜いて触媒として機能を失わせることで、回路を機能させるようにするの」
なるほど、つまりこの状態だとまだ完成ではないのか。
でもいったいどうやるのだろうか?
「魔力を抜くのは簡単よ、色々方法はあるけれど、よく使うのは簡単な魔法陣を作ってそれに吸わせる方法だけど、ロンだったら自力で吸い出せるんじゃない?」
「ん? ちょっとやってみる」
すると、ロンの感覚器が持っていた杭が一瞬だけ光った。
「おお、抜けた抜けた、結構簡単に抜けるんだな」
「そんなに量は練り込んでないからね、モニカは魔法陣の方でやってみる?」
「うん、そうする」
ロンに頼めばすぐではあるが、一応これからのことも考えて魔法陣での処理も覚えておきたい。
といってもルシエラの手本を見る限りやることは簡単だ、魔法陣の魔力流入部を通常なら自分にするところを、設定せずに杭に当ててやればいい。
ただ注意しないと、無意識に設定を自分にしてしまいそうになるので、気をつけないといけない。
ただ、今ではロンのアシストが正確に動作するので、そこまで難しくはない。
杭の上に魔法陣を作って、杭の中の魔力を小さな光に変えてあっという間に空にすることができた。
想像以上に少ない魔力しか練り込んでいないようだ。
これで、あんなに複雑に操作ができるようになるのだからすごい。
「これで完成?」
「ちゃんと出来ていればね」
ちゃんとできてるかな・・・ちょっと心配だ。
見た目はロンが手伝ってくれたのでそれなりの形をしているが、中身は私が作ったのでちゃんと機能するのか自信がなかった。
だが、間違いなくこれは私が最初に作った魔道具だ、だから機能してくれればうれしいな。
「使ってみてもいい?」
「ええ、もちろん、杭の頭に魔力を流して地面に立てれば使えるようになるはずよ」
えっと、杭の頭に・・・手を当てて、魔力を流す・・・っと
すると、先程までと違い明らかに魔力回路に沿って魔力が吸われるような感覚があった。
さらにブーンというノイズと、同時に僅かに杭が動く感覚がある。
ここまでは正常に動作しているようだった。
そして指示通りに地面の上にまっすぐ立てる。
「この状態で、手を離すとどうなるかはわかるわね?」
えっと、中に入れた回路は魔力を検知して動きに変える内容だったはずだ、だから・・・
「一番強い・・・魔力の方に向かって倒れる?」
「そう、この場だと多分モニカかロンのいる方向に向かって倒れるでしょうね」
「この感覚器にはそんなに魔力は流れてないはずだが?」
「基本的にこの魔道具はとても簡単な構造だから、内に秘めた魔力量なんて感知できないわ、だからこの近辺で一番魔力が漏れている方向というのが正しいかもね」
「そうなんだー」
私はそう言いながら、私の方向に倒れてくれと念じながら杭を掴んでいた手を離した。
すると支えを失った杭は、内部の魔力回路の機能に押されて、ゆっくりと傾き、途中から一気に速度を上げて草原の地面に倒れた。
私とは反対方向に。
「あれ?」
「・・・おかしいわね」
すぐにルシエラが倒れた杭を拾って、その様子を確認する。
だが何も変な所は見つからなかったのか、さきほど私がやったのと同じように魔力を入れて地面に置いて倒した。
だが今回も私の方向とは逆方向に倒れ込んだ。
「回路の方向、間違った!?」
うっかり置き間違えたのだろうか?
・・・ありえる。
だが、それは意外な方向から否定される。
「そんな訳はないと思うぞ、モニカの回路の構造は俺のと変わらない、ルシエラが二人分チェックを間違うなんて考えられない」
「・・・そうね、さっき見たときは問題ないと思ったけど」
ルシエラがそう言って、今度はルシエラが自分で作った杭を同じように地面において手を離すと驚いたことに、こちらも私とは反対方向に倒れた。
さらに横でもロンが同じように杭を倒し、同じ結果が出る。
それを見る限り、わたしやロンどころか、ルシエラにも反応していないようだった。
どういうことだろう?
最初から回路を間違えていた?
いや、そんなことはないはずだ、何度も作られているはずだし、回路の動きも問題ない気がする。
ということは・・・
気がつけば、ルシエラが厳しい目で杭が倒れた方向を睨んでいた。
なにかあるのだろうか?
その時、わたしにも”その感覚”が伝わってくる。
昨日まではなかった感覚・・・杭が倒れた方向・・・その先、地平線のさらに先に・・・街がある?
もちろんそんな訳はない。
だがこの膨大な量の”何者”かが動く気配は、ピスキアの街以来の感覚だ。
「・・・ロンは気付いた?」
『・・・ああ、多すぎて数はハッキリしないが、大量の”何か”がこっちに向かって進んでいるのは分かる』
なんだろうか・・・
流石にわたしでも、それが好意的な存在とは思えなかった。
すると、地平線のすぐ上に数羽の鳥の集まりが並んで飛行している様子が見えた。
「とり? 昨日まで見なかったのに・・・」
他の動物同様、鳥たちの姿もここに来てから今まで一度も見ていなかった。
「いや、鳥じゃないぞ!?」
ロンの焦りの篭った指摘が聞こえてきた。
だが、鳥じゃなければ”あれ”はなんだ?
間違いなく自然な感じに羽ばたいている。
「モニカ!」
ルシエラの声が飛ぶ。
そこには隠せぬ緊張が含まれていた。
「どうする!?」
そこから事態の緊急度を察した私は即座にルシエラに指示を求める。
「すぐに移動するわ!! 荷物は全部テントの中?」
「うん!!」
「じゃあ、時間がないから全部私の”収納魔法陣”の中に入れるわ、ロン!! フロウだけはテントから取り出しておいて!!」
「了解した!!」
ルシエラが目の前を猛スピードで走ってテントに向かい、そのすぐ横を私の体から伸びたフロウの枝が同じくらいの速度で伸びていく。
そして伸びた分のフロウを補給するために、ロンが”転送スキル”で次々に荷物置き場からフロウの塊を転送して身につける。
だが、まだ棒状の”高性能”なフロウは転送できないので、直に取りに行くしか無い
周囲に緊張が充満する中、私もテントの周りに散らばった椅子やテーブルといった様々な物品をすぐに魔法陣に収納できるように集めていく。
急いでいたせいもあってか、ロンがフロウをテントから取り出して、ルシエラがテント畳んで収納するまでほとんど時間が経過したような感覚がなかった。
だがその間も、地平線の向こうの謎の気配は威圧感を増していた。
いったいあの向こうに何がいるというのか?
全ての物品をルシエラの魔法陣の中に三人で押し込んだあと、ふと気になってその方向を向いた。
するとわずかにだが地平線の縁にうごめく影のような動きが目に入ってきた。
その瞬間、思わず息が詰まってしまう。
それは今まで見た、どの存在よりも”圧倒的”で”不気味”だったのだ。
「モニカ! 急いで!」
ルシエラのその声で我に返る。
どうやら足が竦んでいたようだ。
振り返ると、そこにはユリウスの巨大な体が鎮座していて、既にその手にはロメオが握られていた。
どうやら、私が怖がっている間に準備が終わってしまったらしい。
私は慌ててユリウスの足元に駆け寄り、そこからよじ登ろうとした。
『モニカ、俺が引っ張りあげる!』
するとロンが背中を登る時間も惜しいとばかりに、フロウを使ってユリウスの背中の鞍を掴むとそのまま一息に私の体を引っ張り上げた。
そして私が空中を持ち上げられているのと同時に、ユリウスがその巨大な翼を大きく広げて一気に下に振り下ろし、アレス高地の大空へ飛び立った。
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