1-4【シリバ村のぬくもり 3:~村長との面談~】
村長からの突然の感謝の言葉に俺の思考まで固まる。
モニカは既に固まっているので変更なしだ。
「グルドには多くの仲間がやられてきた、この村には奴のせいで身内を失ったものは少なくない」
どうやらあいつは相当厄介だったようだ。
やっぱり図体より頭使うやつの方が危険度が高いということか。
「嬢ちゃんがグルドを倒したって?」
テオが驚いたように声を上げた。
「それは本当なのか?」
そしてリコに問う。
「本当だ、俺がこの目でちゃんと見た」
「はあ、俺はちょっと信じられないな、確かにすごい力持ちらしいが、こんなかわいい女の子があのグルドをやっちまうなんて」
テオがそう言っておどけながら意見を述べる。
ただ別にそこには悪意なんてなく、ただ単にこんな小さな少女が倒したとは信じられないといった感じのようだ。
まあ無理もない、俺だって同じ状況なら信じないだろう。
むしろなんの疑いもなく信じた村長の方にびっくりする。
『モニカ、村長になんで信じたのか聞いてくれないか?』
「そ、村長さん、なんでわたしが倒したなんて信じるの?」
「ん?なんでって、そんな黒い目をしていれば、”アクリラ”か”ルミオラ”あたりの生徒だってすぐ分かる」
そう言ってどうだ当たっているだろうとばかりに胸を張る村長。
だが残念ながらその2つの固有名詞には関係ない。
持っている資料を当たってみると、どちらも魔法師育成機関ということらしい。
ちなみにルミオラは北部中心の国立学院で、アクリラも国立扱いだがこの資料の書かれた少し前まではなんと驚くことに”世界立”の学校だったそうだ。
それにしてもやはりこの目が決め手だったか。
そんなに凄い魔力を感じるんだろうか?
そしてそこの生徒であればそれだけで怪獣クラスの魔獣を倒しても驚かれないなんて、アクリラやルミオラというのはどんな人外魔境なのだろうか。
ちょっと興味が湧いてきた。
「村長、アクリラはともかくルミオラの生徒じゃグルド相手はキツイぞ」
そう言ってリコが補足した。
それでもアクリラの生徒ならいけるんだ・・・
そういえばリコは昔、魔法学校を受験したと言っていたな、ひょっとしたらそのどちらかを受けたのだろうか?
「じゃあ、アクリラだ、そうだろ嬢ちゃん?」
そう言って村長がどうだ正解だろうとばかりに見てくる。
一方モニカはその視線にタジタジになって答えるどころではない。
「アクリラの生徒じゃないぞ、魔法知識が足りなすぎる」
「おや、それじゃなんで勝てたんだ?」
「知識がなくても魔力で殴れるだろう?そういうことだ、ものすごい魔力を叩きつけてそれでバラバラ」
リコがグルドの最後を簡単に説明した。
詳しくは分かってないようだが要約すればそういうことだろう。
実際、最後は圧倒的魔力で以って殴り倒したようなもんだし。
「はあ、長生きはするもんだな、、、あの頭のいいグルドがそんな最後を迎えるとは面白い因果だ・・・」
村長がそう言いながら近くにあった椅子に深く腰を落とす。
気のせいかその目が少し潤んでいるような気がした。
「ピスキアに討伐依頼を出してから、はや5年、ようやくこの村にも討伐の流れがきたのかとも思ったが・・・」
村長がそう呟いた。
「・・・なんで今まで討伐されなかったの?」
そうだ、学生でも討伐できるならなぜ今まで放置されてきたのかわからない。
というかこの世界の学生という生き物はこんな辺鄙なところまで魔獣を狩りに来ることがあるのか?
「それは簡単な話さ、この地域の価値が低いんだ」
「・・・・価値が低い?」
「グルドを倒せるような奴はたしかに国を見渡せば大勢いる、だがここみたいな木っ端な村やその付近に住む魔獣の数はもっと多い、とても全てを倒しきれん、そういう奴が皆魔獣を退治しているわけでもないしな、そうなれば価値の高い地方が優先される」
「・・・価値の高い地方って?」
「単純に大都市の周りとか重要施設の近くだとかな、あとは他国との国境の近くとかだ、だからここみたいなところは対処できない魔獣が出ても、小遣い稼ぎの魔法学生や賞金稼ぎがたまにふらっとやってくるのをひたすら待つしかない」
「ふーん」
『ところでモニカ、村長が言ってること分かるか?』
「わかんない、あとで教えて」
俺にだけ聞こえるようにそんなことを平然と言うモニカ。
どうやら途中からまともに聞いていないらしい。
「それで・・・・学生じゃないなら、そのモニカ嬢ちゃんはどこから来たんだ?」
村長が一拍置いて聞いてきた。
さて、どう答えたものか?
「き・・北から・・・」
「ここの北っていうと・・・・まさか山脈を越えてきたのか!?」
「そう・・・」
驚いた村長の勢いに押されてモニカがシュンとしながら答える。
「リコ、それは本当か?」
「いや、俺も今初めて聞いたもんで、、てっきり近くの街とかから来たのかと・・」
「おいリコ、サイカリウスってもっと寒い地方にいるんだろ?それ持ってる嬢ちゃんが何でもっと北から来たって思わなかったんだ?」
「お前は山脈に入ったことないからそんなこと言えるが、あそこの寒さを知っていればそこから来たなんて思えん」
「ちょっと待てサイカリウスだと!?」
「ああそうだ親父、嬢ちゃんの毛皮見てやってくれ、俺じゃ値段がさっぱりわからん」
「待て待て今はモニカ嬢ちゃんから話を聞いている最中だ、見てみろビックリして固まってるじゃないか」
そう言って村長がモニカを指し示した。
ちょうど皆が一斉に喋り始めたのでどうしていいのか分からず動けなくなっていたところだ。
「それでモニカ嬢ちゃんは北のどの辺から来たんだい」
村長がそれに続いて声を上げようとした二人を制しながら再び聞いてきた。
「ええっと、大っきな山と、氷の海を越えたもっともっと寒い場所?」
『モニカなんで最後は疑問形なんだ?』
「だってよくわかんないんだもん」
モニカが俺のツッコミに対して口を動かさないようにして反論する。
この子ひょっとしたら腹話術の才能があるかもしれない。
「もっと寒い場所って、ここよりもか?」
「ここは暑い」
それを聞いてモニカの格好を見る村長。
ちなみに今現在モニカは雪国には不釣り合いなくらいの薄着をしている。
そしてそれが何よりの証拠と受け取ったようだ。
「テオ、リコ、シリバが暑いとさ、世界は広いな・・・」
しみじみと語る村長。
一方のリコは”今朝まで震えてたじゃねえか”と言いたげな表情をしている。
それは言わないであげて。
「で、まさかそこに一人で?親は?」
「死んだ・・・だから来た」
端折ったなおい!
どうやら緊張がきつすぎて全部言えなかったようだ。
だがそれで三人共、何か納得したようで、ハッとしたような表情をして固まっている。
表情から察するに、彼らの中で極寒の世界で生きる北方民族の少女が両親を失って、生きるために魔力片手に決死の旅をしてきたという感動的ストーリーが組み上がっていくのが手に取るようにわかった。
「それは、辛いことを聞いたな・・」
「・・・」
モニカが緊張で黙るのを肯定と受け取ったようだ。
まあ、実際に親代わりの存在を失って出てきたので、大筋ではあっているのだが・・・・
あれ、モニカって結構可哀想な子なのか?
今更ながらビックリしている自分にビックリしている。
「よし、ならば俺が力になろう、この村にいてもいいし、何なら街で里親を探すよう手配してもいい」
「親父にそんなコネあったっけ?」
「なあにモニカ嬢ちゃんなら、引き合わせてやれば欲しいというやつは多いさ、それくらいの顔つなぎはできる」
そう言って村長があらためてこちらを向いた。
「勝手に話を進めて申し訳ない、グルドを倒すほど強いんだ、一人がいいというならもちろんその助けもするよ」
「お願いがある」
「君は我が村の恩人だ、ワシにできる事ならなんでもすると約束しよう」
「それじゃゴーレム技術者はいる?」
「ゴーレム技術者?」
「腕のいい人を探している、そのために来た」
モニカが一思いに吐き出すように目的を告げた。
そしてそれを聞いた村長が下を向く、どうやら彼のコネにはいないようだ。
「流石に俺は古い人間なんでな・・・・ゴーレム扱っているような知り合いはいない・・リコ!お前の弟の友人にそういうのいないのか?」
「さあ、俺もゴーレムについてはさっぱりで、弟も多分専門外じゃねえかな」
「ああ、そうかアルコは”魔無し”枠だったな」
どうやらこの中にゴーレムを扱える知り合いがいる者はいないようだ。
「それじゃ、どこを探せばいい?」
「まずゴーレムを使っている所に行かないとな、だがこの辺の村には入ってきてないからな、となると・・・」
村長が顎に手を当てる。
「ピスキアか・・・・」
「そこにいけばゴーレム技術者が居るの?」
「でけえ街だからな、居るには居るだろうが・・」
「じゃあ、そこに行く」
モニカがここまでで一番強い眼差しで村長を見た。
「なるほど、だが悪いが少し待ってくれ、ピスキアまでだと今は人は出せない」
「それでいい、行き方だけ教えて、今すぐにでも行きたい」
「まあ、待て、子供一人を何もせずほっぽり出したとあっちゃ村の名折れだ、せめて旅に必要なものを用意させてほしい、一晩で手配する」
「わかった、ありがとう」
モニカが心からの感謝の言葉を述べた。
それにしても次の目的地はピスキアか、たしか北部最大の大都市だったはずだ。
そこでならゴーレム技術者も見つかるだろうし、無理だとしてもモニカの魔法教育についてなにか方策が見つかるだろう。
目的地とするには妥当なところだ。
だが村長の方はその決意を聞いて少々落胆したようだ。
「はあ、来てすぐに出ていくとは、この村のショボさを嘆くよ」
「? 素敵なところだよ?」
「そう言ってくれると助かるよ、そうだ、毛皮だっけ?見せてみな」
どうやら次の話題に行くようだ。
モニカが持ってきた毛皮を村長に渡す。
受け取った村長は傷付けないようにゆっくりと毛皮を広げていった。
「この独特の手触り・・・たしかにサイカリウスの物だな、懐かしい、昔一度だけマシャの市場で見かけたが、たしかにこのような肌触りだった」
「・・・高い?」
「モニカ嬢ちゃん、まず断っておくが、これはこの村では取り扱えない品物だ、なにせ現在の相場がわからん」
「・・そう」
「だがこの村が懇意にしているピスキアの商会なら値段がわかるだろう、紹介状を書こう」
「ねえ」
モニカが小声で聞いてきた、つまり何か俺に聞きたいらしい。
『なんだ?』
「”しょうかいじょう”って何?」
『俺達の事を村長さんがその商会に教えるんだ』
「なんでそんなことするの?」
『ええっと、俺もよくわかんないけど、俺達は変な奴じゃないよって、村長さんに保証してもらうんだ』
「わたしって変?」
『変かどうかなんてすぐにはわからないだろう?だけど自分が知ってる人が知っている人なら安心できるということさ』
「うーん」
『まあ、貰って損はないよ』
「わかった・・・ありがと、村長さん」
「礼には及ばん、ただの紙切れだ、それとこれは昔の話だがだいたい同じ大きさのレイヒムの毛皮の2倍、アントラムの3倍だったと思う」
「そんなにするのか!?」
テオが驚きの声を上げる。
かくいう俺も驚いていた、なにせ普通の毛皮の倍以上とは。
「なにせこれだけフワフワのモコモコだからな、普通の毛皮よりも暖かい」
「うん、サイクの毛皮はフワフワ、包まれて寝ると幸せになれる」
モニカが力強く村長の言葉を肯定した。
今はあまり緊張していないのでどうやら少しは慣れたようだ。
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