終章 ある少女の手記

「ねえ、おねえちゃん。続きは?」


 弟に続きをせがまれて三歳ほど年上の姉は、困ったように笑う。


「うーん、あたしもまだ聞いてないんだあ。だから、一緒にお母さんに聞こう!」


「うん!」


 弟は、伸ばされた姉の手をとって夕闇の道を進んでいく。


「ゼノビア、シリル。いま、かえり?」


 二人の母親が偶然とおりがかって、二人に問いかける。


「うん、そうなの! それで、シリルにお姫様と騎士のお話を聞かせてたんだよ」


「そっか、ゼノビアもすっかりお姉さんね」


「だけど、お母さん。あの続きって、どんなお話なの? あたし、聞いてない気がする」


「そうねえ、まだ話してないわね」


 ゼノビアとシリルが、母親のスカートをつかむ。


「じゃあ、聞かせて! つづき、気になるの」


 ふふ、と母親は笑顔を浮かべた。


「そんなに聞きたい?」


「聞きたい!」


 ふたつの声がかさなって、薄闇の景色に響いた。にっこりと微笑むと母親は、「どこからだったかしら」とつぶやいてから口をひらく。


「あの後の話だから……」


 記憶をたぐるように遠い空を見上げる。せつなげな表情を二人の子はみつめて、目をまたたいた。


「どうかしたの、お母さん」


 娘に問われ、母親は困り顔で笑う。


「ううん、なんでもない」


 そう答えたとき、夫もちょうどここに通りがかった。


「あ、お父さん!」


 娘が声をとどろかせて呼ぶと、父親の顔になって駆け寄ってくる我が子をだきあげた。


「二人も帰りか?」


「うん、そうなの。お父さんは?」


「ああ、お父さんもだよ。それでお母さんと何の話をしていたんだい?」


「お話の続き。まだ聞いてなかったから」


「そうか、話していなかったか」


「どこから話そうかと考えていたの」


 母親が告げれば、父親は少し悩んだ後「そうだなあ」とつぶやく。


「もうぜんぶ、話してしまえばいいんじゃないか」


 さも名案とでも言いたげな夫に妻は、あきれ顔だ。


「なにを言っているのよ、だめに決まってるじゃない」


「冗談だって、怒るなよ。せっかくのきれいな顔が台無しだぞ」


 妻は頬をまっかにそめて、「もう」とぼやいた。


「よし、じゃあ聞かせてあげよう」


 父親の語りを聞きながら、夕闇の道を進み始めた。

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