第12話 突然の旅立ち

2つの下半身がくっつて直立している写真、腕と足のパーツが逆に写っている写真、身体中に幾つもの頭部がついている写真、右半分が男性、左が女性になっている写真、更にはただ単純にバラバラにされて野原にばら蒔かれた写真もある。

 幾つもの写真が並ぶギャラリーで全ての作品の被写体はどれも歪な形で接合されたwaxworkで一つとして、まともな物は無い。

『狂気』全ての作品で統一してタイトルを付けるならば、その単語がしっくり来る。


「よう。どうだ?俺の作品は、美しく撮れているだろ?」


 不意に声を掛けらてパーサーが振り向くと後ろにはハンスが立っていた。


「ミスター・ベルメール」

「ハンスで良い。これを見てどう感じた?正直、狂ってるとか思ってるだろ?」


 側に近づいたハンスにパーサーは返答に窮した。

確かに恐ろしいくらいの狂気を感じる。

しかし、どうしてか美しさを感じる自分が居た。

だからこそ、パーサーはハンスの作品に評価が付けずらかった。


「これでも東の果ての国には評価が高いんだぜ。来いよ、物はロビーに置いてある」


 ハンスとパーサーはギャラリーから出てロビーに戻ってきた。


「ほら、これだ」

「何ですか、これは?」


 ロビーに置いてある机には大きな旅行鞄とスーツカバーが掛かった服が置かれていた。


「何って、ウィルに言われていた物だが?」

「ハンス、何か間違いがあったのでは無いですか?僕は教授から、クラーディの部品を貰う様に言われているのですが?」


 何だと、ハンスは眉をひそめて頭をかきはじめた。


「いや、そんなはずは、待て。お前は何処までこの件を知らされているんだ?」

「この件?一体、何を言っているんですか?」

「何も聞いてないのか?」


 ウィルの奴と天井を仰ぎ見た。


「わかった。とりあえず、後でウィルに連絡しよう。たしか、彼奴は講義中だったよな?」

「講義?いえ、教授は学会で球体間接を発表している筈です」

「学会だと?あいつからは一言もそんな事を言って無いぞ!」

「ちょっと待って下さい!僕と貴方で何故、話が食い違っているんですか?」


 次第に混乱してきたパーサーはハンスに詰め寄った。


「もしや、奴はわざとクラーディに損傷を負わせたのか?動きがぎこちない方が通常のゴーレムと変わらないから?撹乱するつもりか?」

「ハンス!説明して下さい!何が、どう、なっているんですか!?」

「待て。今、頭を整理している。・・・何を考えてるんだ、ウィル。もし、パーサーが言うように学会で発表するなら、クラウスも一緒の筈だ。多くの人の前でクラウスいや、球体間接を見せる。そうか!クソ!あいつ、自分を囮にしやがったのか!」


 あの馬鹿と吐き捨てるハンスを目の前にパーサーは何を言えば良いのか分からなくなって来ていた。


 撹乱?


 囮?


 ただ、クラーディの修理をするための部品を貰いに来ただけなのに全く訳が判らない話になって来ていた。

 突然、ハンスはパーサーの両肩を掴んで真剣な表情で向き合わせた。


「こんな事に巻き込んで、すまないとは思うが良いか、パーサー。これから言うことをしっかり聞いてくれ」


 あまりの鬼気迫るハンスにパーサーは思わず、頷いてしまった。


「そうか、ありがとう。先ずは何も知らないお前を此処に来させたという事は説明するだけの時間が無かったからか、ウィルの周囲を探っているネズミが居たからだ。恐らくは両方だな。これはウィル自身が囮になった事から推測される」

「待って下さい!撹乱とか囮とか一体何の話をしているんですか?」


 思わず、パーサーは質問をしたが今は黙って聞いてくれとハンスは取り合わない。


「結論だけ言うと今から、お前はそこのクラーディと国外に出て貰う」

「国外!?」

「良いから、聞け!国から出たら、東の果ての国、日本を目指すんだ。そして、そこから新大陸、アメリカへ行くんだ」

「何故です?何故、僕がそんな所に?」

「それは、今は言えん。しかし、日本にヨシダというラビが居る。そいつに聞くんだ」


 何故、言えないのかパーサーにはもはや、このやり取りが何かのジョークではないのかと疑い始めていた。

 しかし、パーサーの頭の中でこのやり取りがジョークの類では無い事を直感が働いているのか本気の物だと理解していた。


「ハンス、せめて教授と貴方が何と闘っているのか教えて下さい。教会ですか?」

「教会・・・。まだ、そっちの方が良かったよ。俺達が相手している奴は本当に世界を破壊する真の化け物だ」


 まるで、相手が人間ではない様な言い方だった。


「良いか、心して聞けよ。俺達が相手にしている奴、それは『最初のゴーレム』。俺達はアダムと呼んでいる」

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