The Golem (旧パーサーとゴーレム)

@wair2

第1話 講義場

講義場は摺鉢の様に円形で360度、どの方向に座っても中央下の教鞭をとる教授の講義を見る事ができる形になっていた。

 そして、その教授は講義開始のベルが鳴っても中々現れて来ない。

 それを良い事に学生たちはヒソヒソと雑談に花咲かせていた。

 そんな静かな喧騒の中で彼、パーサーは一人加わる事なく昨日の講義の復習をしていた。


「なあ、パーサー。ちょっと頼みたいことがあるんだけど、良いよな?」


 不意に彼の隣に座っている少年が話しかけてきた。

 パーサーは小さくだが、彼に聞こえる様にため息をつくと、鞄からヒラリと一冊のノートを取り出した。


「これを見せてほしんだろ、ジェームズ?」


 午後に提出するレポート。

 ジェームズは助かると言って手を延ばすが、パーサーはサッとノートを下げた。


「君、これで何回目かわかってる?今回は流石にタダとは言えないな」

「げっ、良いだろ?友達のよしみで!教授が来ちまうじゃないか!」


 文句を言うジェームズの顔にパーサーは指を4本立てて、にんまりとして口を開く。


「昼の学食4日って言いたいけど、友達のよしみで3日で良いよ」

「足下見やがって!」

「どうする?今からだと、ウィルソン教授の講義中と休み時間でやれば間に合うと思うよ」

「くそ、2日だ!2日にまけろよ!こっちだって金が無いんだ!」

「良いよ。交渉成立」


 さぁ、どうぞとパーサーはノートをジェームズにやると講義場のドアが開いて初老の男性が入って来た。


「やぁ、諸君。待たせたね。急な来客があったものでね」


 初老の男性、ウィルソン教授は中央に来るとさぁ、講義を始めようと声をかけた。

 雑談をしていた声も収まりだし、静かになる前にパーサーは小声でジェームズに話し掛けた。


「日にちは決めても、僕がいくらまでのランチを頼むかは交渉して無かったよね」

「!?」

「2日間は贅沢なランチが食べれそうだ」













「さて、諸君。今日の講義を始める前に前回の復習と行こう」


 ウィルソン教授はそう言って周りを見渡しだした。

 自信がない学生は自分に当てられないように目をそらしたり、自信がある学生は生意気にも見返したりしているが、程なくウィルソン教授は一人の学生を指名する。


「パーサー・フロイス君」

「はい」


 ウィルソン教授に指名され、パーサーはサッと立ち上がる。


「初期のゴーレム製造過程について説明してくれたまえ」

「はい。製造過程は、いくつかの方法がありますが、最も単純に製作が出来るとされるのは初期型で、四人のラビ(ゴーレム製作者)で頭、胴体、腕、足と順番に泥で形成して頭から各部に時計回りで、部位に応じた命令文オーダーを刻みます。そして、額もしくは胸の中央などに〈emeth〉を刻み起動キーを唱える事により、製造されます」


 パーサーの解答にウィルソン教授は満足そうに軽く拍手をする。


「素晴らしい解答をありがとう、パーサー君。着席してくれたまえ。では、その隣のジェームズ君」

「えっ!」


 パーサーが座った後にまさか、自分が指名されると思って無かったジェームズは慌てて立ち上がった。


「ジェームズ君には、初期型の欠陥を答えてもらおう」

「欠陥、欠陥ですね。え~、初期型は脆いです。その、素体が泥とかなので、え~硬度が非常に脆く、近代のゴーレムが持ち上げられる重量を持っても腕が崩れてしまいます。あと、戦争等に用いられてもすぐに破壊されてしまいます」

「確かに耐久性という面でも欠陥と言って良いだろ。私の講義中に他の教授のレポートをしていたにしては中々の目の付け所だった。座りたまえ」


 しどろもどろに答えたジェームズはバレていたかのかと耳を赤くして大人しく席に着いた。


「さて、先程ジェームズ君が言った欠陥の他に初期ゴーレムは暴走しやすい、乾燥で身体にヒビが入って劣化していくと言った欠陥がある。しかし、最大の欠陥とはと聞かれたら私なら、こう言うだろう。ゴーレムの欠陥とは成長する事だとね」


 静まりかえった講義場でウィルソン教授の講義が続く。


「ゴーレムは成長する。まぁ、人見たく日々の情報から知識を得ていくというのではないが、ゴーレムは個体差はあるが一日で約5から6メートルは成長していく。過去に記録された最大の物は身長が約25メートルまで成長してしまった実例がある。実際、そのゴーレムを破棄する時に事故で人命が失われたケースもある。現在のゴーレムはそうならないような使用になっているが、諸君ら次代を担うラビに肝に銘じて欲しい。彼らは決して万能な召し使いでは無い」


 さてとと、ウィルソン教授は話を切り替える為に手をパンと鳴らして本日の本題へと入っていく。


「では、今日はそんな初期型のゴーレムの起動して動くまでの動作を見てもらおう。素体を此方に持って来てくれ!」


 ウィルソン教授が講義場のドアに命じるとドアが開き、蝋でコーティングされた不自然に肌が白い細身のゴーレム2体が、ストレッチャーに載せた泥の人形を運び込んで来た。

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