第10話 閉じ込められる

 ラブホとは防犯上、すぐに鍵が掛かる。

 各ホテルによって違うだろうが、ルール通りに動かないと閉じ込められるのだ…。

 実は、フロントへの問い合わせで多いのが鍵が開かないんですけど…。


 今夜も、一度退室した部屋に戻った客がいた。

 部屋清掃が多いと、いちいちフロントへ戻らない、部屋から部屋へ移動するのだ。

 ドアを開けるとブーツが片方だけある。

 忘れ物?片方だけブーツ?

 部屋に入ると、暗い部屋でゴソゴソ動く男。

「なにしてるんだ」

「あの…忘れ物して…」

「土足で入ってんじゃネェよ」

「……すいません…もういいんで…すぐ出ます」

「なんだ、このゴミ、調子乗ってんじゃねぇぞ」

「すいません」

「おい、待て」

 ブーツを持ったまま走って逃げる、頭の悪そうな若い男。

 10分ほどして電話が鳴る。

 とりあえず1回無視する…しばらくしてまた電話が鳴る。

 そう、閉じ込められたのだ。

 ラブホとは、簡単に閉じ込められる場所なのだ。

 フロントから解除操作しないと開かないわけで…僕が部屋掃除している以上、誰もフロントには居ないわけで…開かないわけで…。

「あ~部屋清掃終わらないと開けられませんから(嘘)…はい、これだけ汚されるとね~時間掛かるの解るでしょ自分で、あと、忘れ物、手作りのクッキーですか?はいはい在りましたけど、食べ物は捨てる決まりですので捨てました、ホワイトデーのお返しでしょ?女性の方、要らなかったんじゃないですか?鍵?先ほど言いましたが、清掃終わるまで開けられません、時間40分以上掛かるんじゃないですか部屋汚してるから、自分で解るでしょアナタが汚したんだから」


 結局、泣きが入って20分後に開けてあげました。

「すいませんでした」

 この男から何度聞いただろう…。



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