中年(独身)と妖精が生活を共にするという日常

三久太郎

第1話 居候生活

ピピピッ、ピピピッ、ピピピッ



12月18日 AM7:00



スマートフォンにセットしたいつもの目覚ましアラーム音。


その音で曖昧な意識のもと、俺は今日も意識を取り戻す。


(朝だよ!今日も会社でしょ!起きよう!)


あぁ、鬱陶しい。


「分かってるよ。でも、あと10分寝れるんだよね。」


(だって、7時にセットしてるじゃん!もう7時だよ!)


「わざと早くしてんの。スヌーズで10分後にもう1回鳴るから、それで起きる予定。」


(意味分かんない)


「あと10分寝れるって思うと、何となくお得でしょ・・・Zzzz」


(そんな生活してるから、アンタはダメなんだよ!)


俺の名前は村木 光一。年齢は37歳。


高校を卒業してすぐ就職し、何度かの転職を経験して今日に至る。


どこにでもいる、ごく普通のサラリーマンである。


職業は所謂IT系だ。


別にやりたくてやってる訳じゃない。


たまたま進んだ道がそれだったという理由で、今に行き着いた。


何となく給料が良い所へ、と転職を数回繰り返した結果の賜物でもある。


(起きるだけなのに、お得感って何なの?全然意味分かんない。)


そんな、ごく普通の生活を送っている俺なのだが、


一つだけ、普通の人の生活とは違う一面を持ち合わせている。


いつ頃からだろうか、気が付いたときには既に”居候”が住み着いていたのだ。


とても口うるさい居候だ。


(いーみーがーわかんなーい!)


うろつきながら、いちいち耳に障る大きな声を発する居候。


この居候の名をタナーという。


タナーの容姿は可愛らしい女子高校生というところなのだが、


どういう訳か、身長が世間一般でいうところの妖精サイズ。


妖精とは言っても、羽が生えている訳ではなく、


いつも部屋の中を、ウロチョロと歩き回っている。


何故、こんな非現実的な生き物が存在していて、俺のもとにいるのかは分からない。


ただ、不思議とそれを深く考えることをしたことはない。


「鬱陶しい」


(あたしから言わせれば、アンタのその考えが鬱陶しいよwww)


いつものやり取りが勃発。


「別にいいじゃねーか。そのくらいのお得感が俺にあっても。」


(そんなお得感で満足してるから、いつまで経っても偉くなれないんだよ!?)


朝から上司にでも説教されてる気分だ。


ピロロロロロロロ


「あーあ、10分経っちゃったよ。」


(ほら、起きてご飯食べようよ!)


「あー、面倒くさ。マジで働きたくない。働いたら負け。」


センスのない言葉を朝から発したものだと感じながら、


正月の休み明け初日かのように、鬱々と布団から起き上がる俺。


12月ともなると、部屋の中はピンと空気が張るように冷え切っていた。


ましてや、キッチンに至っては日蔭ということもあり、我が家の極寒地帯。


そんな極寒地帯でタバコに火をつけ、数分間の放心状態を楽しむ。


さて、何か食べ物でも探そうか。


と、手足ではなく、目を動かす。


冷蔵庫の上に無造作に置かれた、昨日スーパーで安売りしていた菓子パンが視界に入る。


これを胃袋に収めつつ、同じく安売りしてた缶コーヒーでも飲むことにしよう。


「昨日スーパーで買ってきた菓子パンしかないけどオーケー?」


(うん、いらない!)


「いらねーのかよ。」


すっとぼけたかのような返事を返してきたタナーは、


俺のスマートフォンに、俺がインストールして遊んでいるゲームを起動していた。


(うわー!こいつ3日前にも出たよ!)


1日1回無料ガチャ!


スマートフォンのゲームにはよくある、その類のイベントをこなすのが彼女の日課だ。


ピロピロピロピロピロピロ


「あ、悪い。スマホの目覚まし切るの忘れてた。切っておいて。」


(自分のスマホでしょ!?自分でやろうよ!)


スマートフォンのゲームの結果にご立腹だった彼女は、俺の布団に小さい腕でパタパタと八つ当たりしていた。


「鬱陶しい」

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