珂瑠皇子即位
讃良の「本日は散会します」との言葉に、人々はざわつきながら大極殿を出て行った。
珂瑠を天皇にする道筋を付けることができました。
皇位継承権者が多すぎて珂瑠を天皇にすることなど無理だと思われたのに、有力者が多すぎたことが幸いしたのです。人間万事塞翁が馬とはよくいう。大津を陥れたことが効くとは思っても見ませんでした。
大極殿に満ちていた熱く淀んだ空気と入れ替わりに、藤原不比等と柿本人麻呂が讃良の前に来た。二人は会議が無事に終わったことを祝った。
「天皇様のご威光で珂瑠皇子様を皇太子とすることができましたが、長皇子様、弓削皇子様、舎人皇子様や穂積皇子様を推す氏族、さらには、高市王子様に近かったものたちは、本日の決定に不満を抱いているでしょう。不穏な企ては芽が出る前につぶしておくべきです」
「本日の会議で明らかになったように、皇族方で皇位継承を主張するのは数人です。忍壁皇子様、磯城皇子様、施基皇子様、葛野皇子様や皇女様は最初から皇位を望んでらっしゃいません。丹比朝臣様、石上朝臣、中臣朝臣様など有力な氏上は皇位に関して静観しています。皇位を望む人以外に褒美を与え懐柔し、長皇子様や弓削皇子様に合力することは得策ではないと皆に知らせたらいかがでしょうか」
「冠位を上げ、食封を増やすことで懐柔するというのですね」
「差を付けて褒美を下賜されることで、皇子様や近習の連帯を阻むこともできます」
「よろしいでしょう。丹比朝臣に褒美を決めさせます。解決のきっかけを作った葛野には手厚くしましょう」
讃良は大極殿をゆっくりと見渡した。
四方の太い柱がしっかりと天井を支えている。
珂瑠は、大黒柱として国家を支えてゆくには幼いが、珂瑠が成人するまでに、国創りを終えれば問題ない。
「浄御原令の見直しは大詰めを迎えています。
「さっそく珂瑠の立太子に向けて準備に取りかかりましょう」
大極殿の外に出ると、強烈な夏の日差しが讃良を照らした。
白い玉石を敷き詰めた中庭からの照り返しも激しい。日差しを手で遮る。
目が慣れてくると、掃き清められ、きれいな筋が付けられた中庭が見えてきた。
澄み切った空は青く、どこまでも高い。
中天の太陽がすべてのものを照らし影を作ることはない。
乾いたさわやかな風が、夏の香りを運んできてくれた。
六九七年二月。讃良は譲位し、珂瑠皇子は天皇に即位する。十五歳での即位は倭国・日本国を通じて最年少である。讃良は
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