世界間落下フライト

音崎 琳

1.

 鈍色の空を見上げて、柚香ゆずかは顔をしかめた。

 こんな風に空が重い日は、何もかもが嫌になる。

 ……いや、天気のせいではないのかもしれない。特にこれと言った何かがあったわけではないのに、ひたすらに憂鬱だった。

 雲は今にも雨を降らせそうだったが、とりあえずまだ降ってはいない。

(いっそ降ってしまえばいいのに)

 厄介なお荷物にしかなっていない傘を持ちなおす。柚香が渡る歩道橋の下を、車が次々と、流れるように走り去っていく。

 通学路の途中にある歩道橋。四年もここを行き来しているものだから、ちっともおもしろみがない。

 九月にしては涼しい風が、プリーツスカートとハイソックスの隙間の膝を撫でていく。柚香は、今日何回ついたかしれないため息を風に乗せた。今日は中身もたいして入っていないはずなのに、リュックが肩に食いこむのはなぜだろう。

(なんか嫌な事があったわけでもないんだけどなあ。学校もいつも通りだったし。ここんところ寝不足だったからかな。あーやだやだ、嫌い嫌い大っ嫌い)

 なんだか知らないけど自分が嫌い。

 そんな調子で、階段を半分くらい下りおえたところだった。柚香は、不意に足を滑らせた。

 あっと思う暇もなかった。柚香の身体は大きく傾いで──

 そして、コンクリートに叩きつけられることもなく、どこまでも落ちていった。

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