遠くて、近い。
はるとん
第一話 幸せで、辛い。
「篠沢くーん、おはよー!!」
「あ、おはよ...」
俺は篠沢遼。
朝から女子に挨拶される高校2年生はそういないだろう。
クラス替えから3日。まだクラスにぎこちない雰囲気が流れているが、イケイケ系の女子にとっちゃそんなものは関係ない。クラスでの立ち位置をしっかり確立させて思うがままに言葉を発し、自己満足する。自分勝手だと言えばそれまでだが、賢いかと言えば賢いのかもしれない。いや、ずる賢いのかな...
すると、クラスの女子数人がこっちにやってきた。
「篠沢くんだよね!?」
「そうだよ」
「朝挨拶返してくれてありがとね!!」
「え、いや、普通だよ。」
「篠沢くんって優しいんだね!」
「そんな事ないってー、あははははー」
「これからも宜しくね!」
そう言うとクラスの女子は去っていった。
やはりああいう類の奴らとの会話には距離感がある。そして、当然クラスの男子にとって俺だけにしか喋りかけない女子というのは面白くないのだろう。睨むようにこちらを見つめてくる。
あーあ...
こうなることはわかってた。
普通いきなり女子から挨拶されたり話しかけられたら嬉しくなるものだが俺の場合は違う...
金目当てなんだ...
俺の父親は大手企業の篠沢ホールディングスの会長で、母親は某有名ブランドのデザイナーをしている。
両親は忙しく、中々家にはいない。ずっとお手伝いさんに遊びの相手をしてもらっていた。両親の教育方針でおぼっちゃま学校には行かず、普通の都内の学校に通う事になった。それは、俺の将来を思っての事だろう。小学校、中学校と上がり、みんなと同じように受験して高校に入った。家庭環境は特殊かもしれないけど、みんなと同じ学校生活を送るつもりだった。
でも中学校の入学式の日、両親が高級外車で学校に来た事で俺の夢は壊された。入学式の前から篠沢ホールディングスの会長の息子がこの学校に入るという噂は立っていたのだが、両親の行動でその噂は事実になってしまった。当然俺には注目が集まり、中にはあの子と仲良くしなさいよ、と娘に言い聞かせる親もいた。
学校が始まった初日からいきなりハーレムだった。その人気は自分の人柄でなく、「篠沢」というネームバリューにあるのだと理解していたから悲しかった。進級する毎に女子も行動がエスカレートしていき、体をわざと擦りつけてくる奴もいた。そんな俺に男友達なんかできるはずもなく、女子の相手をしている内に中学が終わった。それが今もつづいているといった感じだ。
でも中学からクラス替えがある毎にとこうなるから慣れているが、やはり辛いものは辛い。
もし仮に両親が蒸発して居なくなってしまったとしたら女子達は別段顔が良いわけでもない俺のことなんか見向きもしないんだろうなーとか思う。
そんなことを考えていると授業が始まった。
あーめんどくせーまあでも頑張るかー
そう思ってノートを開けた瞬間、椅子の足元に白い物体が転がってくるのを気配で感じた。反射的に拾って持ち主であろう隣の席の姫野という女の子の机に置いた。
するとその女の子はこちらに見向きもせず、まるで興味がないように、まるで独り言のように、ありがとう、と言った。
新鮮だった。ゾクゾクした。俺がMに目覚めたとかじゃなくて、なにかいつもと違う、えも言われない感覚だった。
篠沢、の俺じゃなくて、遼、の俺と接してくれている気がした──
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