3月6日「竜葬」

一日一作@ととり

「竜葬」

死んだ人のおくり方には様々な方法がある。土葬、火葬、風葬、鳥葬。だがこの島には竜葬というものがあると聞いて、私は興味を惹かれた。島の名はドラゴニア、古くから竜と共に人々が生活する島だ。


竜には様々な大きさがある。手のひらに乗るものから、見上げるほど巨大なものまで。竜の多くは人里から離れて住み、人と関わらない。だけど、この島は例外なのだ。


島に降りた私は、島の人が小さな竜を携えていることに驚いた。彼らは竜と生活している。飼っているのではない、共に暮らしているのだ。野鳥に餌を与えるように、野生の竜に餌を与え、巣や卵の世話をして、竜にとって心地いい暮らしを提供している。


私は彼らに聞いた。なぜ竜と暮らすのか、恐ろしくないのか?と。彼らは答えた。大人の竜はたしかに恐ろしい。大地を揺るがし、町を焼き、人々の生活を奪うこともある。しかし、竜は幸福も運んでくる。竜は人間よりもはるかに長い時間を生きる。子ども時代に人と過ごした竜は人を恐れない。人を仲間だと思う。そして、自分より先に死んだ人を天国に送ってくれる。


私は竜葬を見ることができた。ある年おいた男性が亡くなり、竜に空へ送ってもらう所だった。送る竜は160歳だという、その家で代々世話をしているのだ。竜で160歳はまだ若いという。人間でいうなら10歳そこそこということだった。それでも、馬くらいある竜は見るだけで圧巻だった。竜使いという職業の青年が、竜になにか囁く。竜語というものが伝わっており、それで竜と会話するのだ。


竜は、死の概念を持っているという。私は竜の表情を見た。悲しんでいるのか、他の感情があるのか読み取ろうとした。竜は若い草のようなグリーンから、桃のようなピンク色に変わった。あれは喜んでいるのですと、誰かが教えてくれた。


死は竜にとって喜ばしいことなのだ。人が地上での役目を終え、天に還る。それは、喜ばしいことなのだと。もちろん、その死に方は大いに関係がある。病気や寿命で自然に死んだ人間だけが竜によって葬られる。自殺は最も唾棄すべき死に方で、竜に送られないことは、この島の人間にとって、恥ずべきことなのである。


素晴らしい人間は多くの竜が送ってくれる。どれほどの竜を従えて天に昇るかで、その人の人生の格が決まるのだ。この老人は3匹の竜が送ることになっていた。3匹というのは、ごく標準的な数であるという。彼は幸せに人生を送り、生まれてきた意味を見つけ、やり遂げたのだと。そういって残された家族は泣いた。


竜は彼の死骸から何かを受け取り羽を広げた。七色に輝く鱗が、夕映えを反射して、美しい。一匹の竜が飛び立つと、後の二匹もそれに続いた。西の空に向かって竜は飛ぶ。島の外の海には太陽が沈もうとしていた。私は温めたワインをもらった。それを呑みながら、人々は亡くなった彼に思いを馳せるのだ。(2018年3月6日 了)

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