第3話 焼きそば『ツン4』 -夏-

「焼きそば……食べたくなってるんじゃないですか?」


 部室でぼうっと扇風機にあたっていると、笠原に声をかけられた。


「言われてみれば……」


 俺は自分のお腹へと手をあて、深くもない考えを巡らせる。


「食べたいな……焼きそば」


 すると、笠原は「やっぱり」と言ってイスから立ち上がった。


「先輩、今いくら持ってます?」

「急に何だよ?」


 質問の意味が『財布の中身』をさぐる内容だというのはわかったのだが、何故彼女がそれを訊いてきたのかがわからない。

 しかし、俺の抱いた疑問は彼女が取り出した『物』のおかげですぐに解決した。


「今日も学食は休みですから」


 笠原の手に握られているのはカップ焼きそばだった。


「これ200円で買いませんか?」

「200って、ちょっと高くねぇか?」

「そんなことないですよ? 人件費を考えれば妥当です」

「人件費?」


 首を捻る俺に、笠原はにこやかに答えた。


「はい。このカップ焼きそばを買ってきたのは私ですし、それに今からこれを作ってあげるのも私ですから」

「買ってきたのはともかく……作るってお湯注ぐだけじゃないか?」


「お湯を沸かすことが簡単だと思っている現代人ならではの発想ですね」

「その返しは予想しなかったな」


 笠原は俺の反応を楽しんでいるように微笑むと、ベリッとカップ焼きそばのフタを開け、かやくの袋に指をかける。


「あ。先輩、お湯沸かしてくれます? 先週持って来た電気ケトルで」

「って、結局俺も手伝うのかよ!」

「手伝うも何も、お湯を沸かすだけじゃないですか」

「…………お湯を沸かすことが簡単だと思っている現代人ならではの発想だな」

「あら。先輩もたまには良いこというんですね」

「…………」


 返す言葉が浮かばず、俺は静かに電気ケトルのスイッチを押した。

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