『魔女の城のメイド-接待-』
朧塚
魔女の城に招待されて。
リコットは悪魔族の少女だった。
自らの主人である大悪魔の命令によって、魔女の城の偵察に向かう事になった。彼女は元々、魔女のメイドであるメアリーから招待されていたので、正面玄関から入る事が出来た。
魔女は、色々な城をデザインして建築しているみたいだったが、今回の趣旨は、燃える城だった。外観は人間や動物、亜人達の死体を燃料にして燃え盛っていた。肉の焼ける匂いがする。燃える者達はアンデッドとして、未だ生きているみたいだった。
彼女は背中の蝙蝠の羽を折り畳み、城の中へと入っていった。
「あら、リコット。待っていたのよ」
リコットは、少女は12歳くらいの容姿だった。
彼女はメアリーを、何だか姉のように慕いたくなった。
リコットは客室に案内される。
そこには、贅沢なお茶菓子が並んでいた。
「マッド・ティー・パーティーにようこそ、貴方は私の好みの子よ」
リコットは、苺タルトやチーズケーキを口にする。
温かいハーブ・ティーも口にした。
全部、メアリーの手作りだという、とても美味しかった。
いつの間にか、強い睡魔に襲われていた。
気付けば、リコットは手術台の上に寝かされていた。
両手両足は拘束されていた。
メアリーはとても嬉しそうな顔で、こちらを見ていた。
「ごめんね、私は貴方と普通に友達になりたかったのだけれども、ルブルがどうしてもって言うから」
此処は、鏡張りの部屋だった。
拘束されている自らの姿が映し出されていた。
メアリーの手には、アイスピックのような道具が握られていた。
喉の部分も、ゴムのバンドで止められている。
そして、メアリーは麻酔無しで、リコットに手術を施した。
眼窩の奥に、それは刺し込まれていく。リコットは苦痛で発狂しそうになる。何度も叫んで哀願するが、魔女のメイドはその行為を止めなかった。
やがて、その棒状の凶器はリコットの脳の部位、前頭葉にまで達する。手術は数時間に及んだ。メアリーは少し困った顔をすると、アイスピックのような道具をリコットの眼窩から引き抜いていた。その後、メスを使って、彼女の頭蓋を切り開いていく。鏡を見ると、自らの頭蓋骨が露出していくのが分かった。頭蓋骨に別の道具で孔を開けられていく、灰色の臓器が見える。人体で一番、繊細な場所。思考を司る部位。リコットは自らの脳が露出していくのが分かった。
その後、どれくらいの時間が経過したのだろうか。
気付けば、リコットはベッドの上に寝かされていた。
「あ、あれ、僕、僕様……、どうしちゃったのかな……?」
リコットは、ぼんやりとしたまま辺りを見回していた。
彼女は酷い苦痛を負った事だけは覚えているが、それが何だか思い出せなかった。なんだか、何もかもが気だるくて、どうでもいい。
メアリーは彼女の下へやってくると、彼女の頭を優しく撫でた。
「ごめんね、眼からの手術は、途中で失敗しちゃったから、頭蓋に孔を開けちゃって。でも、良いデータが取れたって、ルブルは言っていたわ。協力、ありがとう。今、どんな気分?」
この部屋にも鏡はあった、自分の顔が見える。
頭には縫い後があった。
「ぼ、ぼ、僕……さま、……、何された……の……?」
「大丈夫よ、リコット。比較的、優しい事したから。命に別状は……無いと思う。ねえ、今の気分はどう? 吐きそうだとか、気持ちが落ち着かないだとか。心は安定している?」
「なに、……した、の……?」
メアリーはとても、とても嬉しそうな顔で答えた。
「前頭葉切除。所謂、ロボトミー手術と呼ばれているものね。ごめんなさいね、私、貴方に危害を加えるつもりは無かったのだけれども、ルブルがどうしてもやって欲しいからって」
そう言う、魔女の召使はとてつもなく楽しそうだった。
「ねえ、リコット。どんな気分? 手術が成功していれば、貴方からもう、苦しいだとか、怖いだとか、腹立たしいだとか、そういったものが無くなっているらしいけれども、どんな気分?」
リコットは何かを言葉にしようと思ったが、なんだかとてつもなく気だるかった。
メアリーは研究ノートらしきものに、文字を書き綴っている。おそらくは、彼女の主人にそのデータを渡すのだろう。
ぼんやりと、リコットは部屋の中を見渡す。
そういえば、この城は死体を素材にして作られていて、このベッドも見えている壁も、何もかも、死体で出来ている。聞くと、自分は頭の一部を奪われたのだと言う。どんどん頭がおかしくなっていくのだろう、それだけは分かる。
自分も、もう彼女達の世界の住民になってしまったのだろう。元の自分で無い事だけは確かに分かる。全部、奪われたら、アンデッドと同じものになるのだろう。でも、自分は一部だけ。でも、これまでの自分では無い、何かへと変わってしまっている。……。
多分、今回はメアリーは本当にリコットを傷付けるつもりは無かったのだろうが、魔女の方が何らかの理由で、リコットを使いたかったのだろう。
メアリーは、リコットの背中の悪魔の翼を優しく撫でる。
ごめんなさい、と、謝罪の言葉を述べながらも、魔女の一番の下僕は、とてもとても嬉しそうで、楽しそうな満面の笑顔で、脳の一部を切除されたリコットを優しく介抱するのだった。
了
『魔女の城のメイド-接待-』 朧塚 @oboroduka
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