ウェザーリポート

キツノ

くつを飛ばす

「宇宙の外側って、どうなってると思う?」

「外側?」

「そう、外側」

よく宇宙の広大さには思いをめぐらしたことはあったけど、外側なんて考えたこともなかった。

「……無の世界とか」

「四次元ポケットみたいな感じ?」

「まぁ、そうかな」

深雪はもう二度と開かないようなシャッターにもたれかかり、雨音がうるさい、薄い赤色の屋根を見上げる。「肉屋 村上」って表には書いてあったはず。僕と同じ苗字だ。

「昔、手で地球を回している男が描かれている絵を見たことがあるの」

「うん」

「もしかしたらそういうことなのかもしれないって思った。宇宙の外側にもちゃんと世界はあって、わたしたちが壮大と思っているこの宇宙も、もしかしたら雨粒みたいなものかもしれない」

薄い屋根から雨粒がつくられては落ちていく。少し収まってきた雨は乾いた地面を侵食するのをやめていた。

「この雨粒が出来て、弾けるまでが宇宙の一生……」

雨粒を追いながら深雪は言う。

「ね、今わたしかっこいいこと言えてる?」

「うん、きっと百年後には名言になってると思う」

「本当に?」

雨は小降りになっていた。深雪はかばんを頭にのせて屋根の外側に出る。

「雨って嫌じゃない?」

「哲学?」

「今度のは感想だよ!あと別にさっきのも本当に悩んでいるやつだから!」

「僕は好きだけど」

「雨?」

「うん、雨の音とか結構好き」

「でもさ、暗くない?学校とか夜みたいに暗くない?」

「まあ、そうだけど」

僕もかばんを頭にのせ、外に出る。僕らは小走りで帰宅を再開する。

空を少し見上げてみると、灰色で暗い。しばらく見ていると目がチカチカする。

「ね、見て」

結構歩いて家が近くなってきたとき、深雪は僕に話しかけた。

「あの子」

カッパを着た男の子が公園にいる。必死に、足を振っている。

「くつを飛ばしてるんだ」

小さいころ、よくやっていたやつ。でも雨か晴れかくもりかなんてこと、あんまり興味がなかったような気がする。

「晴れになってほしいのかな」

「それだったらてるてる坊主つるすのが普通だと思うけど」

「うーん」

僕らはまた歩き出した。雨はもうやんだも同然になっている。かばんを下ろし、濡れた地面を歩く。

深雪の家まで来た。「じゃあ」と言って僕はあと少しの帰宅という作業を再開させるる。

「ちょっと待って」

振り向くと深雪は右足のくつを脱ぎかけの状態にしてスタンバイをしている。

助走をつけることもなくそのままくつは飛ばされた。

ふわりと宙を舞い、電柱に当たって、ころころと転がる。

けんけんでくつを取りに行った深雪は大きな声で言った

「明日は雨!」

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