第2話

 ピーッという、電子レンジのような音が聞こえた気がして、俺は目を覚ました。少し、肌寒い。けど、体の芯は熱い気がする。

「……今、何時? っていうか、ここどこだ……?」

 ぼんやりとした頭で、寝惚けた声で呟いた。

 真っ暗だった。そして、少し空気が籠っているような感じがする。

 何も見えないけど、これだけはわかった。

 ここは、俺の部屋じゃない。俺の部屋とは、空気がまるで違う。

 何なんだ? どこなんだ? 急速に、記憶が蘇る。

 たしか俺はUFOを追い掛けて、実際にそれを見た筈で。そこで記憶が途切れている。つまり、UFOを見たところで気を失ったという事で。

 漫画の読み過ぎと言われても良い。あとで笑われても良い。そんなシーンで気を失ったなんて、どう考えてもヤバい展開としか思えない。

 けど、今のところ体にそれほどのヤバさは感じない。……という事は、これからか。これから何かあるのか? 今、ヤバい事の準備中なのだろうか。だとしたら、早く逃げないと!

 手探りで周りに危険物が無いか確認して、立ち上がった。そして、思い切り頭をぶつける。ゴッという鈍い音がした。どうやら、天井が相当低いらしい。

 そして、この音で気付かれたのだろうか。プシュッという空気の抜けるような音がして、辺りが一気に明るくなった。

「あ、起きたんだね! オハヨー!」

 妙に可愛い声が聞こえてきて、俺は条件反射でそちらを見た。そしてそこには、声のイメージに違わず、可愛い女の子が立っている。

 白くて華奢で、さらさらとした薄ピンク色の髪が腰まで垂れている。耳は髪に隠れていて、頭頂部に白い猫耳。同じ色のしっぽも腰に見える。

 服装はフリルとリボンがいっぱいで、ひらひら。胸元の大きなリボンには金色の鈴が光っている。アイドルのステージ衣装のような、機能性よりも可愛さを重視した服だ。

「……いや、可愛いけど! 可愛いけど色々あざと過ぎるし盛り過ぎだろ!」

 思わず、声に出してツッこんだ。すると、女の子は予想に反して特に驚く事もなく、「わぁ」と明るい顔と声を俺に向けてくる。

「思ったよりもずっと元気だね! 良かったぁ。解凍したは良いけど弱ってて死にそう、なんて事になったら、ボク達じゃどうにもできないもん!」

「……解凍?」

 その言葉に、俺は背中にひやりとした物を感じた。……いや、別に〝解凍〟という言葉にかけているわけではなく。そう言えば、さっき電子レンジのような音が聞こえたような……?

「うん、解凍。君さぁ、攫われて、実験か何かのためにコールドスリープさせられてたみたいだよ? それをボク達が見付けて、そのままにしておくわけにもいかないと思ったから解凍したんだ。幸い、解凍装置は船に積んでたからね」

「コールドスリープ? 俺が……?」

 ちょっと待て。コールドスリープっていうと、たしかアレだろ? 凍らせて、普通に考えたら有り得ない時間を眠ったまま過ごして、遥か未来で目を覚ますっていう、SFとかで出てくる……。

「……待った。今、何年だ? 和暦……だとわかんねぇかもしれねぇから、西暦で……」

「セイレキ? ……あぁ、地球の標準的な時の流れを表す単語の事?」

 心臓がいやに早く鳴り始めた。

 嫌な予感がする。嫌な予感がする。

 この女の子、さっきから微妙に会話がかみ合ってない。西暦が即座に通じない? 解凍? 何で地球規模の話になってる? 船?

「今って、セイレキで何年になるのかなぁ? えぇっと、地球が滅びて大体千年ぐらいでしょ? その時のセイレキがたしか……」

「……は?」

 そんな反応しか返せなかった俺を、誰が責める事ができるだろう。ちょっと……いや、かなり。言われた言葉の意味がわからない。わかりたくない。

「……滅びた? え、どこが? 地球が? ……は?」

 混乱する俺に、彼女は「あ、そっか」と呟いた。

「ずっと寝てたんだから、その間何があったかなんて知らないよね。いきなり地球はもう滅んでるなんて言われても、混乱するだけだよね」

 今までの言葉で何となく話が掴めてきてしまった上に、今追い打ちをかけられたような気がする。

「こっちに来て! 全部説明してあげるから!」

 そう言って、彼女は俺の手を引いた。こんな状況じゃなかったら嬉しくてしかたなかったろうな。

「あ。足下と天井、気を付けてね」

 そう言われて、さっき頭をぶつけた事を思い出した。少しだけ何とか気を静めて、周りをぐるりと見てみると、俺は今まで蓋付きのバスタブみたいな場所に寝ていたんだって事がわかる。

 そっか、コールドスリープとか解凍とか言ってたけど、こういう事か。今まで俺は、コールドスリープから目覚めさせるための機械の中にいたってわけだ。……何で理解して納得してるんだ、この状況で。

 思考があらぬ方向へと向かい始めている事に薄々気付きながらも深く考えない事にして、俺はただ可愛い女の子に引っ張られるままに、歩みを進めた。

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