第24話 [幕間][パラス]盾に護られた少女

-- パラス


私が産まれたのは、無菌室の中。

私が死んだのは、無菌室の中。


生まれつき、病気に抵抗力が無かった。

生まれつき、傷の治りが悪かった。


栄養は管から送られ、食事は取れない。

親も、親戚も、知らない人も、ガラスの向こう。


色々な話を聞いた。

世の中には美味しい物が沢山あると。

世の中には美しい場所が沢山あると。


聞いただけじゃない。

自分から、色々な情報を探せた。

インターネット。

管に繋がれたまま、ガラスの中からも、世界中に行ける。

食べ物の感想を見れば、あらゆるものを食べられる。


私の防備は最高だ。

完全に滅菌された部屋、傷つかないよう柔らかい素材で敷き詰められた壁や家具・・・

私は最高の盾に護られている。


私に注がれる愛情は凄い。

両親は、私が生きているだけで希望になるそうだ。

両親だけじゃない。

沢山の人が私を訪れ、希望を貰って帰る。


命に価値があるとすれば、私の命は素晴らしい価値があった。


**たい *にたい


気付くと口から出る口癖。


私は幸せだ。

私は愛されている。


にも関わらず、私は死んでしまった。

神に殺されたのだ。

多くの人が嘆き悲しんだ。

多くの人が絶望した。


*っとした。

*しい。


死んだ私を迎えた聖神は言った。

私には役目があると。


役目があるなら私はやる。

役目を果たすことは私の存在意義であり、私の価値なのだから。


私には健康な体が与えられた。

私には高い魔力が与えられた。

私には高い自己治癒能力が与えられた。

私には高い身体能力が与えられた。


私には聖女の力が与えられた。


私にはお役目が与えられた。

聖戦が始まったら、有力者の妻として、人類の導き手として。


私が産まれたのは、神都アルカディアの資産家の家。

父はやり手の商人で、多くの富を持ち・・・そして多くの人に分け与えた。

父も母も、私に愛情を注いでくれた。


12歳の時、父と母が病気で倒れた。

私には魔力があった。

私には聖女の力があった。

私には多くの力があった。


何も出来なかった。

魔力があっても魔法が使えない。

聖女の力と言っても、盾を出すだけの意味がない能力。

知恵もなければ・・・転生前の知識も使用を禁止され・・・いや、そもそも、禁止されていなくても何も分からなかった。

ただ、直感で分かった。

父と母は殺されるのだと。


父と母が築いた財産、商売・・・そういったものは、親族が引き継ぐ。

私の体と供に。

私のすべてと供に。


神からは言われた。

私は聖女であると。

魔族は私を狙ってくると。

魔族にその身を奪われたら、一生自由を、全てを奪われ続けると。


もし魔族がその時、その場で取引を持ちかけてきたら。

私は迷わず頷いたであろう。

何も出来ないのが悔しかった。

全てを奪った者に全てを奪われるのは悔しかった。


父と母は死んだ。

その晩、私は逃げた。

全ての責任と、これから訪れる全ての事から。


それから各地を旅した。

色々な物を食べた。

色々な物を見た。

それは遙か昔に聞いた、美しい景色だった。

それは遥か昔に聞いた、美味しい食べ物だった。

・・・味付けは無い為、ジャンクフードと言う類いの美味しさは味わえなかったけれど。


多くの人を助けた、と思う。

その身体能力で。


多くの人を助けられなかった。

何故私は出来る事が少ないのか。


後1年。

聖戦が始まる。

私はきっと戦乙女となるだろう。

盾しか出せない私が、何の役に立つのかは分からないが。


あの親族達は私に気付くだろう。

そして多額の褒賞を得るだろう。

素晴らしい地位を得るだろう。


転生前、私は何も持っていなかった。

しかし、私は多くの物を与えられた。

自分が何も考えなくても、何もしなくても。


魔族に捕まれば、意思を剥奪され、全てを奪われ続ける・・・

それは、常に与え続けられる、という事・・・

それは・・・楽なのではないだろうか。

しかし、それは人の敵となる事で・・・


聖女は、簡単には死なない。

食事を一切断っても、水を飲まなくても、かなりの間生きている。

しかし、その分を取り戻すように、食べられる時に食べ、飲めるときに飲む必要がある。


村で、少しの食料を分けて貰うつもりだった。

食べて・・・驚いた。

それは、遙か昔に聞いた話だった。

それは、美味しい料理だった。

中には、ジャンクな美味しさの物があった。

食べた事がなくても、なるほど、ジャンクだと分かった。


その人達は、本当に楽しそうにしている。

温かな空気に満たされていた。


沢山食べ物を貰い、温かさに触れ・・・この人達と一緒に居たい、と思った。

彼らが魔族と聞きびっくりしたが・・・


むしろ、自分の血が役に立つ。

自分の体質が役に立つ。

自分の無駄な魔力を役立ててくれる・・・


そして・・・目の前の男に、魂が惹かれている・・・


そして自分は告げる。

自分が役に立てる事を。

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