黄色の花

錯羅 翔夜

【短編】黄色の花

薄い青空と湿ったアスファルトの間にいる。

ビルの3階にいる現状は、そうやって認識してもいいんだろうと思う。

頬杖をついて外を眺めるが、ビルの間から洗い立の空と公園の緑が見えるだけだ。

強い風が吹いて、遠くの枝が大きく揺れ、湿気た重たい空気をかき混ぜていく。

500mlペットボトルくらいの大きさに見えるスーツがカバンを持って進む。

それを見ている私。要は暇なのだ。

私は健康診断のために着替えた服の裾を引っ張った。

この妙に体に合わない服はやっぱり落ち着かない。

「血圧測定しますので、掛けて順番にお待ちください」

張りのある看護師さんの声が響く。

また1人待合室に増える。そして呼ばれては1人どこかへと行った。

誰も話をしない待合室では、環境音楽が控えめな音量で緊張感をごまかしている。

ドアでさえも静かに閉まり、そこそこに防音処置がされた部屋に隔離されていく。

何もせずに過ごすしかない数分の待ち時間。

こういった時間は嫌いでは無いけれど、つまりは暇なのです。


眺めるにも飽きてきた頃、窓の外に変化があった。

にぎやかな色使いの小型バスが視界に入った。それは減速し、公園近くの歩道に横付けした。

「なのはな幼稚園」と書かれた車体から、先生が2人と、たくさんの黄色い帽子が飛び出す。

列を作りなさいとか指示を出しているのだろうけれど、あまり上手くいっていないように見える。

先生が大きく手招きし、子供たちの注意を集める。

それはすぐ近くに観光バスが停まろうとしているからだろう。

一度は集まった幼稚園児だが、数秒後には徐々に散り始めている。

そして、先生がしゃがんでいる隙に1人の園児がどこかへと走っていく。

つい注意が向いて目で追いかけると、後方の観光バスからちょうど人が降りてきたところだった。

黄色い帽子は、そこを目指していたようで、バスから降りてきた女性に突撃した。

女性もそれを受け止め、手を繋いで他の園児たちの元へ向かう。

保護者つきの遠足だろう。

昨夜は雨だったけれど、この子たちのてるてる坊主のおかげで回復したのか。

「ねぇママ、明日晴れるかな!」

良く聞くフレーズがどこかの家庭で言われたのだろうかと思うと微笑ましい。

ペットボトルくらいの保護者とそのキャップくらいの園児たちが合流しつつある。


「かみはな、さん」

読み方に自信が無さそうな看護師の声を聞いて、立ち上がる。

この苗字が変わることは無いのだろうか。


配偶者を得て、子供を得て、それらを養って育てて、家庭を作っていく。

独身で、色々と拗らせた女である私にとっては羨ましかった。

私は下を見て、改めて大きすぎるスリッパを履きなおした。

こんなところに座っていては何も進まない。

幼稚園児の遠足に背を向け、顔上げて歩き出した。

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黄色の花 錯羅 翔夜 @minekeko222

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