異世界式のメントスコーラやってみた 其の二
その日は準備をするため一旦帰宅することになった。
元々俺のクソ狭い部屋に三人が雑魚寝すると一際狭く、春だというのに無性に蒸し暑かった。
これが成功したらまずはクーラーを買いに行こう、もちろんYouTubeの広告収入でと密かに決意を固めた。
日が昇り、周囲が明るくなった頃、三人ともほとんど同じタイミングで目を覚まし。
口数が少ないまま身支度を整えていく。
これから戦場だ、男を語るのは口でも背でもない。
そう、YouTuberは動画で全てを語ればいい。
「あー、それだと結局口で語ってることになるか。まぁいっちょ行くとしますか」
その一言で俺達は玄関の扉を開け、異世界へと再び足を運んだ。
今回は昨日より少しばかり荷物を増やして。
まず向かった場所は昨日オタがコラーを買った店、そこで希釈されていない純度100%のコラーの買い付け交渉を開始した。
交渉相手は店を開ける準備をしていたおばちゃんだ。
「あんた達昨日この辺で聞き込みしてた子達だろ?そっちの子はうちの商品買ってくれたから覚えてるよ。え?希釈してないコラーが欲しいって。そりゃ売れないこともないけど、残り少ないもんだから」
「いや、その心配は今日でなくなるよ。俺達が飛竜を退治してくるから」
ぽかんと口を開けたおばちゃんは、何を馬鹿なことを言ってるんだとばかりにこちらを見つめた。
「はぁ……そういう危ないことはやめなさい。これまで何人も被害にあったんだから。この都市の冒険者達も随分頼りになんないのはわかるけどね、まぁ、コラーについては高くてもいいなら売ってあげるから。とにかく命は大切にしなさい」
おばちゃんはそう言うと店の奥にいた亭主らしき人物を引っ張って来た。
おばちゃんの尻に敷かれてそうな、穏やかそうなおじさんである。
おじさんに事情を簡単に話し、金貨1枚で原液を10リットルほど譲ってもらう。
店主曰く、原液は飲み物じゃなく危険物みたいなものだから気を付けろ、あれをそのまま飲むのは飛竜くらいなもんさ。と言われ俺の確信はさらに強固なものと相成った。
まぁ、やってはダメだと言われるほどにやりたくなるのは、異世界にいても変わらないようだ。
「本当ならこの金で剣とか買うつもりだったんだけどなぁ。まさか大量のコーラを買う羽目になるとはな」
カメラが回っていないため、そんな愚痴をこぼしながら歩くこと30分。
ついに目的地の泉が視界に入った。
町を出てしばらく歩くと荒野が延々と続いたのだが、その荒野のど真ん中が飛竜の住処であった。
「よしっ、なかつカメラ回して。。。はいっ、というわけでですね。今からやっちゃうぜ飛竜討伐。まず今回用意したものなんですが……えっと。まずコーラの数十倍の強炭酸のコラー、そして500mlの空のペットボトル、あとはメントスを用意しました。たったこれだけであそこにいる飛竜を倒せるのかっ⁉︎為せば成る為さねば成らぬ何事もっ!」
"決め台詞をいい加減統一すべし"
と書かれたカンペを尻目に、キャップがはまる部分をカッターで切り落とし、飲み口を広げたペットボトルにコラーを注ぐ。
まぁ、確かに代表的な台詞の一つはあったほうがいいのはわかるが、どれもしっくり来ず現在試行錯誤の真っ最中なのだ。
流石に一人では時間もかかるし地味なので、三人がかりでペットボトルを黒い液体で満たしていく。
注ぐ時の衝撃で炭酸が減らぬように割り箸を使い丁寧に入れていく、しかし地味すぎるので動画ではカットだろう。
そしてペットボトルの上部にある仕掛けを施し、あとは抜き足差し足で飛竜の元へと歩み寄る。
聞いていた通り、飛竜達はまだゆっくり眠っている。
爬虫類のワニなんかを彷彿とさせる鱗のある皮、軽量化された巨大な羽で体を包むように睡眠を取っている。
数も聞いてた通り20体おり、まるでジュラシックパークの世界の中に迷い込んだ気分だった。
もちろん生きた心地もしないし、一言も発することはできなかった。ユーチューバーなのに。
とはいえカメラマンのなかつは遠くに突っ立って構えているので、喋るだけ無駄ではあるが。
しかし何もしないというのは少し悔しかったので、去り際に勇気を振り絞りコメント用に飛竜の皮膚を触ってみる。
見た目通り爬虫類みたいな触り心地で冷んやり冷たかった。
そして一旦なかつのいる岩陰へと向かう。
「罠の仕掛けが完了いたしました。あとは飛竜達が起きるのを待つだけです。しばらく見守りましょう」
少し離れた岩場で息を潜め、小声で囁くようにカメラに音を入れる。
「話によれば飛竜達の目覚めは陽が昇ってすぐではなく、9時とかそれくらいらしいです。ちなみにこっちの世界とみんなのいる世界、って言っても日本時間なんですがね、大体同じなんです」
飛竜が目覚めるまでの時間、なんとか時間を繋ごうと喋り続けている。
まるで寝起きドッキリを仕掛けている気分である。
すると後方から足音が響いてきた、それも鉄と鉄の擦れる音が多数。
振り向くとそこには昨日冒険者組合の前で俺達を通せんぼした男達を先頭に、五十人ほどの武装集団がいた。
「っと、どうする。あいつら来ちゃったぜ、下手すると巻き込みかねないぞ」
「寝ているところを襲撃するつもりだったみたいだな、俺としたことが計算に入れるの忘れた」
そんな相談をしている間にも男達は近付いて来て、俺達に気付いてしまった。
「おいっ!なんでてめぇらがここにいんだ。邪魔だからどっか行ってろ」
竦みあがるような声で呼ばれ、びくりと体が跳ねる。
しかしだ、こっちだってこいつらに邪魔をされては困る。
なんとか相手の目を見返し、言い返すことにした。
「わっ、わるっ、悪いなあんた達!あ、あいつらは俺達の獲物なんでな。そっちこそ邪魔をしないでもらえるか?」
ただでさえ強面の男の顔がさらに凶悪になっていく。
「隊長、そんな奴ら無視して早く行こう。あいつらが目を覚ましちまう」
「そうだな、こんなところで隠れてたやつが何かできるとも思えねぇ。しかも武器すら持ってねぇんだ、魔法使いでもない限り何もできやしねぇな」
そう言って飛竜に向かおうとする男だったが、俺の体は勝手に男の前へと立ち塞がっていた。
昨日冒険者組合の前で通せんぼされた意趣返しではないが、この男達をこの先へ行かせるわけにはいかなかった。
「あくまで邪魔するつもりか?こっちだってこの町の冒険者の威信が───」
「たっ、隊長奴ら目覚ましやがった」
剣の柄に手を掛けた男の手が止まる、ギリッと歯噛みし睨まれるも、男の視線は飛竜へと向いた。
一番最初に目を覚ました飛竜が、甲高い奇声のような声をあげ他の飛竜達を起こす。
幸い岩の陰に隠れていたおかげでこちらにはまだ気付いていない、それに多分相手は鳥か爬虫類かは知らないが目が悪いのも幸いした。
そして目を覚ました飛竜達が向かったのは、さっき俺の設置したコラーの入ったペットボトル。
寝起きに喉が乾くのは飛竜でも変わらないらしい。
「てめぇら、後で覚え───」
しかしセリフを言い終わる間も無く、大爆発が起きた。
花火の炸裂音を間近で聞いたような異様な爆発音である。
「なかつ撮れてるか!」
「当然」
「目を覚ました飛竜が飛び付いた大好物のコラー。しかし飲もうとすると上部に乗せていたメントスが中へ!見てくださいこの光景……」
一斉にコラーに飛び付く飛竜達はよほどあの飲み物が好きらしい、そして振動で落ち混ざったメントスとコラー。
その威力は想像の遥か彼方、成層圏のずっと遠くまで飛んで行った。
「……まるで……まるで……紛争地帯の地雷源的な……」
連鎖的に起こった大爆発は顔を近づけていた飛竜達の頭をことごとく吹き飛ばしていく。
ほんの一分足らずの出来事だった。
しばらくして爆発音が消えると、砂塵の未だ舞う荒野には頭を失った飛竜の残骸だけが残っていた。
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