異世界式のメントスコーラやってみた 其の一

「えー、んー、さてさてどうしましょうかね。まずは飛竜の聞き込み……じゃなくて。そうだなぁ……」


 勢い良く来たものの何をすればいいのかわからない。

 飛竜を見つけて討伐するのはわかるが、あとは何もわからないのだ。


 しかしそんな時頼りになるのが相方二人。

 オタがすかさずスケッチブックに何やら書き出す。

 そう、カンペだ。

 "異世界なのにケモミミいなくね?"

 うん、そういうボケはカンペにいらないよね。


 本人は至って真面目なのだろうが、後で注意が必要だろう。


「……うん、確かに村人全員普通の人だな。最初の村にありがちな質素な服……あとは武装した冒険者みたいな人もちらほら。ってか俺らすげぇ見られてるけど、やっぱり目立つよなぁ」


 そして新たなカンペが書かれる。

 "まずはRPGらしく適当な村人に聞き込みすべし"

 確かにゲームならそれがセオリーなわけだが、ちゃんと考えてみよう。

 俺達は一体何者なのか?そう、俺達はYouTuberなのだ。

 行き当たりばったりで無茶苦茶な誰も予想できない展開を俺は望んでいるのだ。


 俺はカンペを出すおたに小さく首を振った。


「んー、とりあえず飛竜見に行ってみよう。狩れそうならサクッと一狩りしてやろうぜ」


 俺はカメラに向かって拳を突き出す。

 ここはYouTuberらしく奇抜な発想で、視聴者の度肝を抜くのが正解なのだ。


「よし、じゃあ武具屋を探そう。たぶん準備に使ってくれって金はこのためだろ?俺は剣と|SS(スリングショット)かなぁ。小さい頃はSSのケンちゃんなんて呼ばれてまして、一度も的を外したことないんすよ。それで二人はどうする?」


「俺は盾で」

「某も盾で」


「えっ?ちょっ、なかつはカメラあるからいいけど、オタは剣とか使おうよ。俺一人で立ち向かうの?」


「その方が面白いぞ」

「間違いなく人気出るっしょ」


 またしても2人の言葉が重なった。

 しかしそう言われれてしまうと弱い、面白いとまで言われ一人でやらなかったらYouTuberの名折れである。


「じゃあ、武具屋行って、店主に飛竜のこと聞いてから一狩り行ってみたいと思います」


 辺りを見回しそれらしい建物を探す。

 日本建築とは違う木製の建物が並び、露店なんかも結構出ている。


 皮のトゲトゲしたドラゴンフルーツのようなカラフルな果物だったり、骨つきのデカイ肉だったり、食料品以外にもペンダントだったりカラフルな謎の石ころだったり。


 この辺もそのうち動画にしてみたいが、まずは派手な動画を一本撮る必要があるので後回しにする。


「あっ、あれじゃね。修学旅行先で買って先生に怒られちゃうアイテムナンバーワンの木刀みたいのが店先に置いてある。俺も昔木刀買って新撰組ごっこやって怒られたことあるんですけどね。とりあえず行ってみましょうか」


 そこで再び"その話し方だとテレビの街ロケみたいじゃね"とカンペが出たので、少し話し方を改めることにした。


 歩いて数十秒ほどの距離の武具屋らしき場所へと向かう。

 途中白い目を一身に集めながら。シャツにジーンズという服装とかがここでは異質だからだろう。

 ともかくそんな視線を耐えつつ武具屋の前に来ると、顔にいくつも刀傷のあるごつい店主が出迎えた。


「いらっしゃい……ん?見ない顔だな」


「えっとさっき来たばかりでして。とりあえず武器見せて欲しいんですけど、剣と盾、あとはなんか投擲系のやつがあれば」


 しかしこの店主無愛想な顔を作ったまま、値踏みするように俺達三人を見つめる。

 そしてしばらく間を置き口を開いた。


「お前らリドネル冒険者組合の人間か?」


「いやー、なんというかファンからの依頼を受けて来たんすけど、まぁ、言うなればYouTuber兼野良の冒険者ってとこです」


「ゆーちゅーばー?まぁとにかく野良の冒険者なら武器は売れねぇ。組合に行って神の眷属として認められたやつにしか売れねぇ決まりなのよ」


「組合?神?ほぇ?」


「つまり公認の武具屋ということですか?それで冒険者組合ってのはどこに?」


 俺の思考がフリーズしている間に、カメラマンのなかつ店主と会話を始めた。


「衰退著しいとはいえ、お前らみたいに戦いを知らなそうな奴らが流れて来たってのは、実に悲しいことだ。いくらこの町の組合だからって誰でもオーケーしてくれるとは思わんがな、組合ならこの通りの奥にあるでかい建物だ」


 とりあえず組合に行けばいいということだろう。

 一旦店を出て店主の指差した方向を見ると、確かにこの辺りで一番立派そうな建物が居を構えていた。


「じゃああの冒険者組合とやらに乗り込んできます。俺は今からYouTuber兼冒険者という肩書きだぜ!」




 ───とは意気込んでみたものの。

 まさかまさかの冒険者組合とやらの前でいきなり門前払いを食らってしまった。


 たまたま入口から出てきた冒険者らしき人物が、飛竜退治の話をしていたもんだから飛竜の話を聞こうとした。たったそれだけだ。

 しかしお前らなんかに飛竜は倒せねぇよド阿呆、舐めとんじゃねぇぞ。と通せんぼされてしまった。

 剣を持った大男数名にそれ以上言えるわけもなく、俺達は一旦退散することを余儀なくされたのだった。

 仕方なく俺達は扉のみ存在する最初の空き地へと戻ってきていた。


「さーて、いきなり躓いてしまったよ。武器は買えないし、冒険者にもしてもらえない。どうすんの俺達?」


 二人からの返事はない。

 一つ得られたこととすれば、通せんぼした冒険者の言っていた情報である。

 飛竜がいるのはここからさほど遠くないコラーの泉という場所にいるということ。

 静けさがしばらく続いた後、ようやくなかつが口を開いた。


「さっきの奴らが飛竜討伐するって言ってたろ?あれを後ろから撮影して今回は終了でいいんじゃないか。それに五十人ぐらいで狩りに行くらしいし、俺達三人で対処できるとは到底思えん」


「確かに五十人で行くなら相当でかいか、かなりの群れじゃね。某はなかつ氏の意見に賛成」


「わかるけどっ!でもそれじゃあつまんねぇ動画になるだろ?せめて一匹くらいお零れを倒さないと、動画として上げれないだろ」


 しばし見つめ合い、無言で意地の張り合いをする。

 こういう時大抵先に折れるのはなかつ達である。

 というか負けず嫌いの俺に対し、2人が大人な対応をするといったほうが正確かもしれないが。


「……はぁ。わかったよケン。とりあえず聞き込みして飛竜の情報を集めよう。数とか弱点、もしかしたら向こうの世界にある物で対抗できるかもしれないし」




 それから俺達は別れて町を歩き回り、聞き込みを行なうことにした。

 服装やら何やらで白い目を向けられたものの、飛竜討伐の情報収集と言ったら快く話してくれたのは幸いだった。

 必要そうな情報を集め終わり、俺達は再び空き地へと戻って来たのはちょうど一時間経った頃である。

 取り敢えず互いの得た情報を交換し合い、情報を精査していく。

 もちろん纏め役はもちろんなかつである。


「まず飛竜の数は20体くらい。コラーの泉に住み着いてる。コラーの泉は甘い液体が湧いてるとかで、この町の名産品だから取れないのはかなり困る。冒険者が数度討伐に行ったがいずれも失敗。明日の討伐に失敗したら他の番街の冒険者組合に頼むしかなく、相当ピリピリしてる。こんなもんか?」


「あと、飛竜は昼型で夜は寝てるらしいね。でも夜の間にコラーの湧き水汲もうとして襲われた人がいるらしいよ。鼻もいいのかもね」


「なるほど。で、どうするケン?」


 なんだかんだいつも文句は言っていても、最終的に俺に判断を聞いてくれるなかつは、案外俺のことを信頼してくれてるのかもしれない。


「んーーーー……。コラーの泉の水って飛竜の大好物なんだっけ?なんかそれで罠を作れないかな」


「罠かぁ」


「まぁ、これでも飲んで考えようず」


 オタが気を利かせて、何やら飲み物を俺達の前に差し出した。

 黒くてパチパチした気泡が弾けては現れ。

 一口飲むとその甘みと気泡の刺激が舌と喉で激しく炸裂する。


「コーラじゃんこれ?何、向こうから持ってきたの?」


 幾ら好物だからって異世界にコーラを持ってくる人間初めて見たよ。

 いや落ち着け、そもそも異世界に来たのなんて俺らくらいか。


「いやいや、さっきそこで買ったやつ。コラーの泉の水ってやつね。最近じゃ飛竜のせいで取れないとかで、五倍は値が張ったけど」


 こっちに来てすぐお金は配分したけど、いつの間にかオタはこんなものを買っていたらしい。

 多分俺だったら五倍と言われた時点で買わなかっただろう。

 ゲームとかでも結局最後は余るのに、すごい節約して進めちゃう人だからだ。

 しかしオタの場合は食の好奇心がそれを勝ったのだろう。


「コラーとコーラって似てんな。名前だけじゃなく味とか炭酸とか」


「それがさ、このコラーの水って数十倍に希釈してこれだって。ほんとはこの数十倍に炭酸キツいってさ。ちょっと飲んでみたくね」


「いや、さすがにヤバイだろ?でもこれでメントスコーラとかやったら動画再生数が…………メントス……コーラ……いや、待てよ」


 やはり神は俺に味方をしてくれた。

 超完璧かつ間違いなく再生数のエグいことになるであろう動画を、この時俺の頭の中でははっきりとした形になっていたのだから。


「どうしたん、ケン氏?」


「ははははは、閃いた。閃いたぜ飛竜討伐&最高の動画を」


 ふとした瞬間に自分は天才なんじゃないかと思う時がある。

 天から舞い降りて来た発想という贈り物が、頭の中で弾け形を成すのだ。

 ただ与えられたチャンスに縋るのではなく、自分の力で捥ぎ取ることができるのは天才の証明に他ならない。


 やることが決まれば後は準備をするだけ。

 詳しいことは後で話すからと2人に告げ、とにかく急いで家へと帰ることにした。




 この瞬間俺は人生最大と言っていいほどに浮かれていた。

 祈ったこともない神に感謝し、天に投げキッスでも贈る勢いだった。


 しかしこれは単なる始まりの序曲。

 翌日撮った一本の動画から全てが変わることになるとは、この時の俺には予想することなど不可能だったのだから。

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