{第百二十四話} リトルソルジャー
そんなことかと、鼻で笑うと、その件を流して警備兵の一人に命令した。
「入れ!」
しばらくして、警備兵の高圧的な命令で部屋に入ってきたのはおじさんだった。
「おじさん!」「京一様」「京一!」
おじさんの姿を見るなり、昌達はぞれぞれの呼び方で彼を呼ぶ。
「しばらく見ない間に強くなったみたいだな。だがそれでも、俺の作った最新型のダミーには勝てなかったようだがな」
京一は昌達の呼びかけに反応すると、いつもの調子で答える。
「申し訳ない京一。俺が付いていながらこの状況...」
「俺の事は気にするなと言ったはずだが?」
「だが!」
京一の忠告を無視した事をとがめられ、それに反論しようとするリツカだが、言葉に詰まってしまう。
「話はそれで終わりかな?それをこちらへ」
そこへ間を割ってアルキメデスが口を開き、ダミーに話しかけると昌の手首にあるGOSを指さした。
命令を受けたダミーはもう片方の手で、昌の手首からGOSを外し、それを近づいてきた警備兵に渡した。
受け取った警備兵はGOSをアルキメデスに手渡す。
「ほう、これが」
「はい」
「これを手に入れた今、用済みな君達にはこの世から永遠に消えてもらおうかな?」
受け取ったアルキメデスは平然とした表情で昌達へ終わりを告げる。
「ま、まさか。本当に俺達を殺したりしないよな?」
冗談ではないことをこの場の空気感からさっしてはいるものの、認めたくないと、口を開いた情報屋の肩を警備兵が強くつかんだ。
「冗談なんかじゃない、コイツらは本気だ!」
「アルキメデス!」
じりじりと身構えて近づいてくる警備兵を見てソアリンも身構え、リツカは再びアルキメデスをにらみつけた。
「連れていけ」
「はい。さあ、こっちにくるんだっ!」
ソアリンの肩を警備兵の一人がつかもうとした瞬間、ベックが別の警備兵に体当たりをかました。
自身の肩をつかもうとしていた警備兵が注意をそっちに向けた瞬間、ソアリンも目の前の警備兵に体当たりし、警備兵の間をすり抜けアルキメデスの後ろに回ると、隠し持っていたナイフを彼の首に押し当て、警備兵の動きを止めた。
「何!?」「アルキメデス様!」
「動くな!離れてもらおう、アルキメデスがどうなってもいいのか!」
アルキメデスの首に突き付けたナイフを強調しながらソアリンは警備兵に命令する。
警備兵達は悔しそうな表情を浮かべながらも、なすすべ無くベック達から離れ、ダミーも昌を地面に下ろし、ネラ達を抑えていた警備兵もその場を離れた。
「何をぐずぐずしている、もっと離れろ!」
ゆっくりと後ずさりしながら離れていく警備兵にリツカをベックは睨みを利かせる。
「形勢逆転だな。昌、立てるか?」
ダミーの手から離れた昌の元へ駆け寄り、よろよろと立がる彼にリツカは手をかした。
「それで勝ったつもりか?」
首にナイフを突きつけられながらも、アルキメデスは余裕の表情で笑みを浮かべていた。
「何を言っている?」
ソアリンは更にアルキメデスを強くつかみ、首のナイフを強調すると、背後の気配に驚き固まる。
「そのナイフを下ろして、彼を離しなさい!」
ソアリンがゆっくりと後ろを振り向くと、そこには、手のひらに出した魔法陣を自身の背中に向けているエリゼがいた。
その光景に昌達は声を上げて驚く。
「エリゼ!?」
その中でもリツカは誰よりも驚いている様子だ。
「どうやら、再び形勢逆転の様だな...」
先ほど、「形勢逆転」その言葉を言い放ったリツカへ向けてアルキメデスは嫌味な笑顔で言う。
「お前が俺達の計画をアルキメデスにリークしていたのか!?あの地図も俺達をこの部屋におびき寄せる為だったのか!どうなんだ!」
「そのナイフを下ろして!早く!」
強い口調で話すリツカに、エリゼは歯を食いしばり、いつまでもナイフを下げないソアリンに対して再度警告する。
ソアリンは歯を食いしばってエリゼを睨み付けながらも、握っていたナイフを床に落とし、両手を上げると、エリゼの指示に従い警備兵に囲まれた昌達の所へ歩いた。
そんなソアリンの元に通信魔法の着信音が鳴る。
「どうした?出ないのかね?」
アルキメデスを睨み付け、通信に応答しないソアリンに出るように促すと、エリゼは昌達から目を背けた。
ソアリンは渋々自身の耳に指を当てて通信に応答した。
「ソアリンさん、緊急事態です。クエリー本部が武装した何者かに占拠されました。おそらくルキャメラと思われます!」
「なんだと!本部にルキャメラが?!」
それを聞いた昌達やリツカはソアリンの話と表情や反応から状況を理解し、動揺をみせる。
「フッ」
それを見たアルキメデスは鼻で笑う。
「私達職員全員は直前に入った何者かの通報によって全員無事ですが、本部は完全に占拠されてしまいました」
クエリー本部の入り口のある帝都中央郵便局から離れた位置で魔法を使い、双眼鏡の様にズームして様子を見ていた。
全身を鎧で覆い、武装した数えきれない兵達が郵便局のシャッターの辺りに集まって辺りを見回しており、彼からかは見えないが、クエリー本部内はもちろん、そこへ続く通路のいたるところに兵が立っている。
「ソアリンさん、指示をお願いします!」
「...」
「ソアリンさん!」
「後でこちらから連絡する」
「で、でもっ...」
この後が無い可能性の方が高い中、部下の通信を一方的に切断した。
「聞いての通りだよ。君達の本部は占拠させてもらった。それに、我々の組織内部に入り込んだ君達のスパイも排除した。これで君達も終わりだな...フフフッ」
リツカ達をあざ笑うアルキメデスに対して拳を強く握り、魔法陣を今もこちらに向けているエリゼに声を上げる。
「エリゼどうして裏切った!」
「クッ...」
「エリゼ!」
「私が変わりに答えよう」
エリゼは何度も名前を呼ばれるが、答えずらそうで、答える様子は無く、そんなエリゼの代わりにアルキメデスが口を開き、エリゼは魔法陣をリツカ達に向けたままうつむいてしまった。
「彼女にはどうしても、君達を裏切ってでも必要なものがあった」
「必要なものだと!」
「そうだとも。「オイラー」の、いや私達ルキャメラの技術の粋を集めて開発した「リトルソルジャー」をな」
「リトルソルジャー...?はっ、そういう事か!」
ソアリンはその名を聞いてしばらく考えたのち、勢いよく顔を上げた。
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