{第百二十五話} 神聖スパーク

「リトルソルジャー...?はっ、そういう事か!」

ソアリンはその名を聞いてしばらく考えたのち、勢いよく顔を上げた。

「まさか、エリゼ!リトルソルジャーが必要だったのか、君の妹は」

ソアリンの問にエリゼは答えなかった。

「リトルソルジャーってなんですか?」

「今、巷で有名になりつつあるアイテムの名前で、オイラーが魔道具用に魔力を増幅させる物を開発し、得た技術とオイラーが同じく開発した自立稼働する小さな人形と掛け合わせて応用し、人間用に改良した物がリトルソルジャーだ。これをそばに置いておくだけで、病気や生まれつき魔力生成機関がうまく機能しない者の魔力生成の手助けをする。だが、それを使っている者はほぼいない...」

「どうして」

「これは上手く使えば、大金を実らせる木だ。それを独占する為、あたかもとても危険な物で、まだ使えないかのように、自身の権力を使って偽の情報を流している」

「そういうことか」

「私は、妹を助けたかった。あの子の苦しみを早く取り除いてあげたい!妹は生まれつき全くと言っていいほど自身の体では魔力を作り出す事が出来なかった。それがどんなにつらい事かわかる!?それなのに、あの子は私を心配させまいと、いつも明るくふるまっている。リトルソルジャーを使えば、妹は助かる!妹にはリトルソルジャーが必要なの!」

いつもは口数がすくなく、落ち着いた様子の彼女が声を上げた。

「エリゼ...」

こんなにも自身の感情を表に出している彼女を見たソアリンは言葉を失った。

「わかったかね?彼女は君達「仲間」ではなく妹「家族」を選んだのだよ」

「きたねぇぞ!」「アルキメデス!」「人の弱みに付け込みやがって!」

皆、口々に怒りをアルキメデスに向かってぶつけるが、当の本人は聞きなれているのか、気にしている様子は全くなく、なんとでも行ってくれと言った感じだ。


(おじい様...)

そんな様子をブラッドは騒ぎを聞きつけて、少し前から扉の隙間から聞いていた。


「京一。これで貴方の希望は潰えたわけだ。貴方にはゆっくりと絶望を味わいながら死んでもらおうか」

「フッ、それはどうかな?」

京一はアルキメデスの言葉に笑いながら答えた。

「何を今更強がっている?」

「残念だが、お前が欲しがっているMIPはGOSを奪っただけでは手に入らない」

「なんだと?」

「データクリスタルには念のためロックをかけてある。このロックを鍵で解除しなければデータクリスタル内部に記録されているMIPの設計図を見る事は出来ない。つまりは鍵の無いデータクリスタルはただのクリスタルに過ぎない!ネクッレスにでもするんだな!」

「どういう事なんだ、京一!」

どうやらこの件はリツカ達も知らないようで、アルキメデスと同じ反応を示している。

「なるほど、そういう事か。では、その鍵はどこにある?」

「いいだろう、この鍵はこの世で最も安全な場所にある。それはこの世界の創造神「エルヴァー」の元だ!」

ドヤ顔で京一が言い放ったその場所にこの場にいるすべての人間が驚く。

「え、エルヴァーってあの...?」

昌の頭の中では京一と一緒に真っ白な場所で出会った女性を思い出していた。

「鍵を神が持っているだと!どういう事だ!」

「神聖スパークは知っているか?」

「神聖スパーク?」

昌の疑問に対して答えるのはネラの役目と決まってきているため、ここでもネラが解説を始める。

「この世界を作ったと言われている創造神「エルヴァー」を崇める宗教エルヴァスト教が保有している書物に示された神聖武具の一つなのですが、数か月前に地下ダンジョンで本来は第50層を越えないと出現しないはずのモンスターが第7層に出現した際に、京一様がモンスターを倒した所、それがドロップした為、先月まで冒険者組合の方で保管していたのですが...」

「流石、ネラと言った所か、ここから先は俺が説明する」

京一はネラの説明を遮り、続きを自分で説明し始めた。

「神聖スパークはクリスタル状の装備アイテムで、他にはマネ出来ない魔力増幅機能を持っており、それに加えほぼ全ての装備者自身の能力をアップさせる、例えば最大HPとMPを大きく上昇させるほか、移動速度上昇、防御力上昇、物理防御力上昇、魔法防御力上昇など、そんな誰もが欲しがる伝説の武具、神聖スパークが次回のアネイアスの優勝賞品になっている」

「うそだろ!?」

「まさか、鍵は!」

「その通り、鍵はアネイアスの優勝賞品「神聖スパーク」の中にある!」

「何っ!?」

「そしてその神聖スパークはアネイアスの主催団体であるこのハネット王国の宝物庫に保管されている神の世界に通ずる門である「ゴットゲート」を通じて神が保管している。つまり、世界で一番安全な場所と言うわけだ。アルキメデス、いくらお前でも手を出せないと言う事だ」

こう言った解説を一回やってみたかった京一は興奮冷めるあらぬ感じで、最後にアルキメデスを煽って語り終えた。

「そんな話をどうやって信じろと?そもそもどうすればデータクリスタルのカギを神聖スパークにする事が出来るんだ!」

アルキメデスは京一の煽りに反応してしまい、京一が求めた質問をしてしまい、京一はドヤ顔でさらにつづけた。

「神聖スパークの一部を覆っている金属細工に埋め込まれた複数の水晶に記録してある。思い出してみろ、最初にモンスターを倒して神聖スパークを手にしたの俺だ。難しい事はない」

「クッ!」

ようやく自分の手が絶対に届かない事を知ったのか、アルキメデスは顔をしかめた。

「つまり、アネイアスで優勝するしか無いってことか!」

最後の昌の発言含めたここまでの話をブラッドはすべて扉越しに聞いていた。

「それさえわかれば、十分だ。我々の力をもってすれば、アネイアスの優勝など容易い。そして、最初にも言ったが、君達にはここで死んでもらう。これ以上我々の邪魔ができんようにな!」

それに対して京一はおもむろにかけていたメガネを外すと、縁を指でなぞったり押したりしている。

京一のメガネのレンズにはこの部屋の図面が表示されており、至る所に赤い印が付いている。

「何をしている!」

「こうするのさ!」

京一がメガネを畳むと、部屋の天井が爆発して部屋の照明は消え、天井の一部が落下してきた。

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