{第百十九話} ようこそクエリーへ
「ここまで来たんだから話してもいいだろう」
リツカ、ソアリン、エリゼの三人は顔を見合わせうなずいた。
「俺とソアリン、それにエリゼは京一の冒険仲間だったんだ。数年前、ルキャメラの研究所に多くの人間が連れていかれたが、京一と一緒に俺とエリゼも居たんだ。だが、しばらくしてMIPの悪用を恐れた京一は、データを持って俺達と共にルキャメラからの脱出を図った。しかし、それは失敗し、かろうじて逃げ出す事が出来たのは俺だけだった。すまないな今まで黙っていて」
「いえ...」
一通りはなし、申し訳なさそうな顔で昌を見るリツカにとりあえず返事をした。
「エリゼも」
「気にしないで、データクリスタルが無事なんだもの」
リツカはエリゼの顔も見ると、話しを続けた。
「MIPは京一が暇つぶしに色々な魔法を混ぜている時に発想した無限魔力生成機関だ。あんな凄いもの物を作り出すとは」
語り方からして、それを実際に見ていたリツカでさえもその存在を実感していない様子だった。
「でもそれが、人類の希望にもなに絶望にもなるのよ。データクリスタルを貴方に託したのは、世界中の誰よりも信頼できるのが、貴方だったからでしょうね」
「目的地はあれです」
話が一通り終わると、ネラが先に見える建物を指さした。
それは帝都中央郵便局だった。
「こちらへ」
驚く昌達を他所に、ネラは何食わぬ顔で裏口にある坂を下り、閉まっているシャッターを開けて地下のフロアへ。
そこには大量の赤い箱を荷台に積んだ赤い自転車が無数に停めてあった。
この自転車で帝都内に郵便物を届けているのだろう。
綺麗に地面に書かれた白い枠の中に自転車が一台一台収まっている中、一番端の駐輪枠のみ自転車ではなく自動車、それもファミリーカーサイズのスペースがあり、ネラはそこで足を止め、壁に何げなく飛び出ているナットを左右に回し始めた。
ダイヤル金庫の要領だ。
しばらくすると「カチッ」と鳴った音と共に、駐車スペースである白い枠の内側が沈み、横へずれた。
その先にあったのは、さらに下へと続くスロープで、ネラの後に続き昌達もそのスロープを降りた。
しばらく下ると、駐車場と思われる場所にでた。
駐車場に停まっている車は皆、シートが被せられてシルエットしか分からなかったが、黄色いスクールバスといった見るからにわかる車両も数台あった。
ネラは車両を他所に更に奥へと進み、突き当たった壁に手を触れる。
ネラが触れた場所は彼女の手の形を読みとっているかのように、手の形に光り、扉が現れ開いた。
その扉の先は今までの無数のパイプがむき出しで通った打放しコンクリートの壁とそれを照らすオレンジ色の明かりの場所とは打って変わって、綺麗な青白色いLEDで照らされ軽い装飾が施された壁のある通路だった。
通路の突き当たりの扉の前にたどり着くと扉を開けた。
「ここです」
扉が開くと室内の照明が点灯し、壁や天井から下がったモニターが起動した。
皆が中に入ると、ネラは再び口を開いく。
「ようこそ「クエリー」へ。クエリーとはルキャメラの様な組織に対抗するために京一様が超極秘裏に制作した、作戦センターだ。一つの目的を達成するために集まり、それを手助けを目的とした場所です」
とても近未来なデザインの部屋で、水を潜って行った先にあったあの秘密基地とよく似ている。
辺りを見回すと、椅子にスーツを着たダミーが座っていた。
「魔力切れのようですね。しばらく開けていたので無理もありません。昌様、魔力をお願いします」
「ああ、いいとも」
ネラに指示された通りに、ダミーのうなじに手を当てて魔力を流し込む。
しばらく流し込んでいると「ピッ」と鳴つと共に椅子から立ち上がった。
立ち上がり、顔を上げたダミーの顔には人間の女性の顔が映し出されており、口や目が動いている。
「ご迷惑をおかけして申し訳ございません。改めまして、ようこそ「クエリー」へ。私はここの管理、運営を京一様の命によって任されている第二世代型ダミーの「ミツ」です。よろしくお願いします」
起動間もないミツだが、さっそくリツカから設計図面を受け取り、解析を始めた。
ここに来るまでに目を輝かせて辺りを見ていた情報屋は更に目を輝かせて辺りを見ている。
そんな情報屋にネラは釘を刺す。
「この場に関する情報は他言無用でお願いします。これは京一様から預かったメッセージです」
「わかってるよ。それに、俺達の業界で京一に歯向かうヤツはいないだろうよ」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
場所、用途不明のすべてが謎に包まれた施設の通路をガウスが一人で歩いている。
しばらく通路にはガウス一人の足音が響いていたが、そこへ新たに一人の足音が加わる。
それに気づいたガウス顔を上げると、向こうから歩いてくる男が一人。
「ん?ガウスさん」
先に気づき話しかけてきたの向こうの方だった。
「エルミート...」
「ブラックコンベンションの結果聞きましたよ」
「今後は今まで通り、我が第一が主導で行う」
「残念ながら、貴方の部隊の出番はありませんよ」
「何?!」
「ブラッド様の敗退はアルキメデス先生の想定内ですから」
「では、エルミート。お前達第二がやるとでも」
「さて、どうでしょうか?」
エルミートのはっきりしない回答にガウスは声を上げた。
「国王暗殺の時の様に我々をないがしろにして勝手な事をするつもりか!」
「何のことでしょう。アルキメデス先生は先を見越しています。それが分からないのですか?」
ガウスの質問に対して更に白を切るエルミートに対してガウスはいら立ちを一瞬見せるも、その場を立ち去った。
ガウスもこの組織では幹部的立ち位置に居る一人である為、アツキメデスの物とまではいかずとも、自分専用の広い部屋を持っていた。
大きなモニターを使ってブラックコンベンションの様子を見ていたのもこの部屋である。
ガウスは机の上に置かれた自分と妻、娘の映る写真の様な物を見つめていた。
そこへ入ってくる者が。
「失礼します。お呼びでしょうか?」
入ってきたのは昌の部屋を荒らし、その後直接勝負を挑んできたピエロのお面を付けた三人だった。
「アルキメデス先生の最近の動向についてお前達で気づいた事は無いか?」
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