{第百二十話} イルの塔崩壊事故
「アルキメデス先生の最近の動向についてお前達で気づいた事は無いか?」
「さあ...」「何故その様な事を?」
部下の疑問に対して、ガウスは自分の背後にある大型モニターにとある新聞記事をまとめた物を映し出した。
「イルの塔崩壊事故...ですか」
「ああ、数年前の出来事だ。この事故の出来事の裏で何が起きたのかもう一度調べるのだ」
「はあ...」
「私はこの事故で妻と子を...」
「えっ!」
驚く三人を他所にその当時の様子を思い出しながら、部下三人に当時の出来事を説明した。
当時、まだできたばかりの組織である「警察」と「消防」がほぼ総動員され、彼らにとっては初の大きな仕事だったが為に、現場は統率がうまく取れていなかった。
それに加えて、事故当日は雨の強い夜だった事も状況確認に遅れた原因の一つだろう。
すぐに現場に駆け付けた私だったが、立ち入り禁止の黄色いテープの前に群がる野次馬と、マスコミの連中、そして何より、崩れた塔のガレキの隙間から見える砂で汚れ動かない人の腕、地面の石畳に広がる無数の血だまりと見て状況を理解した俺は大声を上げてその場に崩れた。
「ああーー!」
建設を急がせたが為に色々な作業工程を飛ばした結果、必要を大きく下回る耐久性になっていた。
この事故で塔に上っていた者や付近に居た者、近隣住と言った多くの命が失われた。
現場を仕切っていた人間が逮捕され、会社も謝罪を行ったが、それですべてが解決したとは私には思えなかった。
その塔の建設にはこの国の組織が大きくかかわっており、その組織のトップは当時からアルキメデス先生だった。
「私も大変怒りを感じます」
当然、批判の矛先は先生に向けられたのは言うまでもない。
アルキメデス先生に直接出会ったのはその矢先だった。
先生は直接のかかわりは無いものの「責任は私にもある」と、犠牲者やその親族一人一人の元へ直接出向き、謝罪して回っていた。
「お仕事は警察官だそうですね。なぜ警察官を?」
「はい、誰かの役に立って、普通の人々の暮らしを守れる者になろうと」
「立派な志です。奥様とお子さんも貴方の事を立派に思っていたのでしょう」
そのアルキメデスの言葉にガウスはうつむいて歯を食いしばった。
「申し訳ない。思い出させてしまったようですね」
察したアルキメデスは謝罪するが、ガウスは怒りを見せた。
「簡単に忘れられる物ではありません。私は戦います、この国と。こんな出来事が許されるわけがない。現に今、貴方の事を許す事が出来ない」
うつむくガウスをアルキメデスは肯定すした。
「そが普通です。それでいいんです。ならば、貴方自身のその手で正せばよいのではありませんか?この国を正す為に、私の助手になって一緒になって戦いませんか?」
考えてすえ、私は先生の申し出を受けた。
妻と子を死なせたこの世界を内側から見る事ができ、戦うべき本当の敵を見つける事が出来る、そう考えたのだ。
始めのうちは、私は先生を疑いの目で見ていた。
所詮、国の役人など自分の立ち位置や権力、金ばかりを見て考えていると。
だが、先生は昼夜を問わず事態の収拾に努め、本気でこの国の未来を案じている事に気づいた。
私は次第に先生の考えに惹かれていった。
そんなある日の事、私は先生の部屋に呼び出された。
「この国を変えられると思うかね?」
「難しい事ですが、アルキメデス先生なら必ず」
「そうか...そろそろ君に私のすべてを話す時が来たようだ」
「どういう意味ですか?」
「今の君なら理解できるはずだ。私のもう一つの顔をね」
椅子に座り話す先生が何を言っているのか私には分からなかった。
しかし、それを理解するのにそれほど時間はかからなかった。
「この国を救い、正しき方向に導くために私はある組織を立ち上げた」
それがルキャメラだったのだ。
私は参加する事を承諾し、この第一部隊を任され、この国を少しだが、変えているという自覚はある。
だが今、私の中に迷いが生じているのも事実だ。
ガウスのはなしを真剣に黙って部下三人は聞いていた。
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図面の解析をしていたミツが解析終了を皆に告げ、大型モニターに解析結果を映し出した。
「エリゼが入手した設計図を解析した結果、アルキメデス邸への潜入は屋敷から少し離れた公園で行う」
リツカはその解析結果を説明し、ミツが図面に分かりやすく矢印等を指していく。
「なんでそんな所から?」
昌の質問にミラが答えた。
「ここの公園に設置された倉庫にはアルキメデス邸につながる隠し通路がある。今回はこれを逆に利用する」
「なんでそんなモンが?」
今度はベックの質問に対してリツカが答える。
「何かの時の為の逃げ道、逃走用ルートだろう」
「そんな物があったとは」
関心している情報屋を他所に話は進む。
「だが、残念ながらここも警備は厳重だ」
リツカが説明を一通り終えると、今度はエリゼが口を開いた。
「突入するなら明日の夜がいいでしょうね。明日の夜はアルキメデスが会合で留守にするから、警備も普段に比べて薄くなるはず」
「ちなみにおじさんが何処にいるかは?」
「恐らくこの部屋でしょうね」
昌が質問すると、エリゼは図面のとある部屋を指さした。
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突入決行当日、昌達突入するメンバーはクエリーに集まっていた。
「作戦を発表する。三つの班を編成し、公園から地下通路へ入る、アルキメデス邸に潜入したら俺達はセキュリティシステムをダウンさせる。残り二つの班は二手に分かれて京一が囚われてると思われる部屋へ向かってくれ」
「グループ分けは俺の方から発表する。第一班は俺とリツカ、そしてエリゼ。第二班は昌、ネラ、ネイ。第三班はベック達だ。ミラはこのクエリーから俺達に状況を報告して、指示を出してくれ」
「了解しました」
リツカが作戦の説明をし、ソアリンが班分けをしたところで情報屋が手を上げた。
「あれ、俺は?」
「申し訳ないが、今回は待機だ」
「了解した、俺の見せ場はここじゃないってことだな」
情報屋はソアリンの回答に対して腕を組んでうなずいた。
「それじゃあ、開始時刻まで細かい説明と、それぞれの行動パターンを考えよう」
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