{第百十七話} 二人の剣士がぶつかる時

「破壊と暴力の祭典、残すはあと一戦。荒れた戦場に最後まで立っていられるのは誰か。これよりブラックコンベンション、決勝戦を始める!戦うのはこの二人だ!」

会場の照明がすべて落ちたなか、二階のvipエリアに立ち、一本のスポットライトを浴びてリツカは観客に向けて声を張る。

そして、昌とブラッドにスッポトライトがあたる。

「それではご紹介いたします。初出場とは思えない実力、今大会「期待の新生 菊田昌」、対するはすべての試合で相手を秒殺した底の見えない実力を持つ少年「ブラッド・アルキメデス」なお、今大会の優勝者にはアネイアスへの特別出場枠が与えられます」

二人を紹介するアナウンスに観客はどちらを応援するかで二分化されている。

強い事が正義のこの場では彼らを嫌う物はおらず、それぞれの戦闘スタイルに魅入られている。

そんな歓声は会場内に響き渡る中、ブラッドは表情一つ変えずに昌に話しかけた。

「菊田昌、君は知りたいかい伯父さんの居場所を」

「そうか、やはりお前が死角だったか」

「僕はこの戦闘でゴット・オブ・ソードを破壊し、データクリスタルを回収する。もし君が勝ったら、君が求める情報を一つ教えよう」

「了解」

昌はその話を聞いて軽く笑った。


「レディ!」

両者武器を構える。

「決勝戦、バトルスタート!」

会場の全員が固唾を飲み込み見守る中、決勝の火ぶたは切って落とされた。


開始早々に昌が切りかかる。

ブラッドは二刀流であるため、片方で昌の攻撃を受け止め、もう片方で攻撃を仕掛けそれを昌はかわす。

ここまで両者の実力は互角。

「その程度か」

ブラッドは二本の剣を大きく振り下ろす。

それを受け止めた昌だったが、後ろへと反動で下がってしまった。

丁度距離をとれた昌はブラッドへ向けて横降りの斬撃を放つと、それをブラッドはジャンプでかわす。

「予測通りだ「Sモード」を起動」

昌の体は赤い鎧に覆われ、スピードとパワーが確実に増した。

上へジャンプしたブラッドをすかさずSモードを起動した昌が切りかかる。

ブラッドはすかさず受け止めようと剣を構えるが、ここは空中であるため、地面にたたきつけられた。


「やったわね、昌」

「狙っていましたね、どんな実力者も空中での完全な防御は難しい。あの斬撃は彼と空中戦に持ち込む為の布石」

ネイとネラは昌の様子を少し離れた場所から見守っていた。


地面に叩きつけられ、ゆっくりと立ち上がるブラッドに対して、隙を与えず昌は第二、第三の攻撃を仕掛け、体制を立て直せず、よける事も出来ない無防備なブラッドのアーマーにダメージを着実に与えていく。

やっとのことで体制を立て直し距離をとったころにはブラッドのアーマー耐久値は三分の一ほど削られていた。

「まさかここまでやるとは。なら見せてあげよう僕の本当の力」

そう言うと、ブラッドが持っている二本の剣の先端から青いオーラを纏い、それが腕を伝い全身へ。

次の瞬間昌の目の前に唐突に表れ、昌を超えるパワーをスピードで吹き飛ばし、地面に背中をこすりながら飛んでいく。

そんな昌に向かってブラッドが二本の剣を大きく力強く振り下ろす、そのブラッドの周りはゆがんで見えるほどだ。

それによって生まれた二本の大きな縦ぶりの斬撃が昌を直撃し、辺りはその衝撃で砂ぼこりが舞い上がっる。

しばらくすると、砂ぼこりも落ち着き、クレーターの様にへこんだ地面には一部土に埋もれた昌のメガネだけが残されいた。

メガネを見た、ネラとネイを含めた観客達は固唾をがぶ飲みした。

「フッ、終わったようだね」

「まさか、この程度で終わるわけないだろ」

クレーターの底を壊して昌が登場し、地面に落ちたメガネを拾って土を掃って掛けた。

颯爽と登場した昌を見て会場は歓声で沸きあがる。

「オレはおじさんを助け出すまで負けることなどありえない」

破け、土で汚れたスーツを着た昌にブラッドは剣を勢いよく振り下ろすが、これを昌は受け止めた。

「何処にまだそんな力が」

「ピンチな時こそ、ふてぶてしく笑物だ」

剣を受け止めた昌はふてぶてしく笑っていが体に限界が来ているのは事実だ。

両者、相手に攻撃し、相手の攻撃と受け止めかわす。

そこは二人だけの空間で誰も間を割って入る事は出来ないだろう。

「どこまで耐えられるかな」

いつもは無表情で感情をあまり表に出さないにブラッドが軽く口元を緩めて楽しそうにしている。

「始めて見た、あんなに楽しそうなおぼちゃまの顔は」

少し離れた所で見ていた執事も初めてみるブラッドの表情に驚きを隠せず、思った事を口に出してしまっている。

両者のせめぎあいは決着がつく様子は全くない。

二人の激しい戦闘を見ている観客達はブラッド派と昌派に分かれて名前を繰り返し叫んでいる。

会場の熱気が最高点に達した頃、ブラッドは先ほど昌を追い詰めた攻撃をもう一度かつ先ほど以上の居六で放とうと、大きく振り上げ力を籠める。

二本の剣を覆った青いオーラは増幅していくが、そのオーラは剣をだんだんとむしばんで行き、オーラ自体が刀身となった。

しかし、むしばんで行ったのは剣だけではなく、アーマーもであり、例えアーマーが青いオーラの物に置き換わっても、破壊された判定になるため、この時点でブラッドの敗北になり、昌の勝利が確定した。

「ブラッド・アルキメデスのアーマーが消失。これは破壊と同等と見なします。よって勝者「菊田昌」」

会場内に試合結果を伝えるアナウンスが流れると、先ほどまでの歓声はピタリとやみ、最弱に包まれた。


「剣を覆っていたオーラを高めすぎて自身でもコントロールできなくなったのか」

「どやら、決着がついたみたいだな」

vipエリアに座って様子を見ていたリツカとソアリンだったが、試合の終わったのを確認しリツカはゆっくりと立ち上がり、観客へ向けて声を上げた。

「ブラックコンベンション優勝者は「菊田昌」アネイアス出場権は彼の手に!」

観客達の歓声に包まれる会場に対し、ブラッドはオーラを消すとい少し納得いかない様子を見せつも、いつもの無表情に戻り、昌の顔を見ると口を開いた。

「135 975。君が欲しがっていた情報だ」

そうとだけ言い残すと、執事を連れて会場から出て行った。


昌はブラッドが言った数字の羅列をメモすると、勝利の余韻に浸り、自分へ向けられる賞賛の声に耳を傾けていた。

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