{第九十五話} WHB

ネイは本調子に戻り、ネラと部屋でのんびりしていると、来客が現れた。

「菊田昌君だね」

そう話しかけてきた男に見覚えは無かった。

「あなたは...」

「俺はソアリン・タバレ。少し見てもらいたいものがある」

怪しいと思ったが、ネラ達が警戒している様子は無かったので付いていってみる事にした。

ついって行った先はブルーキャッツだった。

タウンターに座るとマスターにコーヒーを貰った。

「おごりだ」

「ありがとうございます」

お礼に名前を言おうと思ったがまだ名前を聞いていない事に気づいた。

「まだ自己紹介をしていなかったな。この店のマスター「エイム」だ。

「ありがとうございます。エイムさん」

「いただきま~す」

コーヒーを貰い飲んでいると、オレの武器について聞いてきた。

「君の武器を見せてもらえるか?」

GOSを手首から外し、カウンターの上に置いた。

(これが...)

「触ってもいいか?」

「え?あ、はい」

しばらくGOSを持ち、見ている。

「これはすばらしい武器だ」

「見ただけでわかるんですか?」

「ああ、素材はとても高価な良い物を使っている、魔力制御も良い。それにメンテナンスも十分にしてあるようだ」

マスターと話していると、店の奥からタバレが荷物を持ってやってきた。

「見せたいものとは、コレの事だ」

細長いカバンの中にはスナイパーライフルが入っていた。

「名前は「ワン・ヘッド・ボディ」通称「WHB」システムは最新式でかなりの性能だ」

「これは...」

どうやらこの「WHB」はネラの心を掴んだらしい。

「手にとって見てみるか?」

「はい」

ネラは「WHB」を手に取ると、全体をまじまじと見つめ、細かい部分も見落とし無い位に見ていた。

「今回はこれをただ見せるために呼んだわけではない。ここからの話しは他言無用だ。この国の国王であるハネット国王の就任十周年記念パレードの事は知っているか?」

「はい、それくらいは」

実際はこれポッチも知らないが。

「そのハネット国王の命が明日のパレードで狙われている。ある組織に。俺達はそれを阻止したい。それには君達の協力が必要だ」

本来ならここで驚く所だろうが、国王とは色々あったせいか、驚く事は無かった。

「この件は警察に任せられるものではない。君達で無ければダメなんだ」

「理由はなんですか」

「国王の護衛を経験した中で、実力もあって信用出来るのは君達だけなんだ。もちろん危険が伴うから断ってもらっても仕方が無いが、君達の力を貸して欲しい」

「わかりました、やります!」

「いいのか?命の危険があるぞ」

「大丈夫です」

本当は大丈夫ではないのだが、何もおじさんの手がかりがないこの状況で、何が手がかりになるか分からないからな。

取り合えず、何かしないと。

「そっちの二人は大丈夫か?」

ネラをミイにも質問したが、オレが行く時点で答えは決まっているらしく、即答だった。

「はい、ショウが行くなら私も行きます」

「私も~」

「ありがとう、この「WHB」は君達にプレゼントしよう。好きに使ってくれ。明日は九時にここに集合してくれ。もちろんこの件は誰にも話さないでくれ」

WHBを貰い店を出て、家に帰った。

「コレはどうしよう?」

机に置いたWHBを眺めつつ言った。

「ネラが使えばいいんじゃない?」

ネイはそう言ってるが、なぜだろうか?

「何故に?」

「ネラちゃんはね~、私と違って遠距離戦闘に関する性能に特化した設計になってるの。もちろん剣なんかも普通に使えるけど、本職は遠距離の弓よ。異世界だと弓をメインで使ってるけど、ライフルも使えるよね?」

「もちろんです。ライフル用の標準修正プログラム等を持っているので使いこなすのは容易かと」

「決まりね」

ネイとネラにライフルを使うか聞かれたが、近距離から中距離が専門の為ため、遠距離は専門外だ。

専門の近距離と中距離も人並み程度で、それ以外が人並み以下なため必然的に人並み程度の近距離中距離専門になっただけの話だが。


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 


昌が帝都での自宅にしている建物の地下にあるスペースに、ライフルの練習には打って付けな直線距離が長い部屋がある。

京一が何故こんな部屋を作ったのかは謎だが、設備を見るに射撃練習場として使うために作ったのだろう。

ネラはとても細長いショルダーバックのファスナーを開け、中からライフルを取り出し構えた。

この部屋には一定の間隔で1000mまで的が置かれている。

「一応このライフル「WHB」の性能を確認しますか」

まずはライフル全体を眺め、分解しパーツ一つ一つの精度を確認した。

一通り見終わると、組み立て直し構えスコープを覗いた。

ネラの目に高倍率のズーム機能があるため、本来はスコープなど要らないのかもしれない。

このライフルに取り付けられたスコープはネラの目ととても相性が良く、フログラム補正に無駄な処理をさせる事が無かった。

手始めに最初は100m先に設置された的を狙ってみると、スコープには目標までの正確な数値と、着弾予想ポイントが表示された。

ここは室内で無風なため表示されていないが、風による左右のブレまでもを予測できる様だ。

数多くの機能を一つ残らず確認し、ケースの中に一緒に入っていた弾をマガジンに1発だけ装填し、ライフルにはめ込み、的の中心を狙いトリガーを引いた。

しかし、的の中心を大きく外し、左下の的端に弾痕が着いた。

「やはり、このままの設定では使用に支障が大きく出てしまいますね」

ケースの中にはいくつか予備のマガジンが入っていたが、一つだけ弾が装填されたマガジンが入っていた。

マガジンから弾を取り出しよく見ると、弾薬に違和感があった。

特に違和感があった弾頭を取り外すとUSBが現れた。

どうやらこの弾丸はUSBメモリになっており、弾頭の部分がキャップになっていると言う中々こった作りになっている物のようだ。

とりあえず中身を見るべく、ネラは手首の辺りにUSBを差し込んだ。

USBの中身はネラの遠距離狙撃に関するアップデートファイルのようで一括でダウンロードした。

ダウンロードには少々時間が掛かったが、何も問題なく終わった。

ダウンロードしたプログラムを適応させ、再度スコープを覗き的を狙って撃つと、今度は的の中心を打ち抜く事が出来た。

ここからはこの部屋に搭載された大型扇風機で風を人工的に起こし、風がある状況の狙撃練習や的を規則的、不規則に動かしたものを打ち抜く練習を夜中遅くまで続けた。

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