{第六十四話} 器が小さい

宮殿から出て、通りに出たがここがどこかわからない。

今わかるのは、ここが大通りで人通りが多い事位だ。

そう言えば、おじさんが「色々な種族がいる」とか言ってたが、見渡す限り人間しか居ない。

例えば、翼が生えていたり、角が生えていたりと言った見た目ですぐ普通の人間ではないと分かる人は居ない。

目の前を馬車が横切ったが、引くのはもちろん馬だ。

二本指しで歩く大きなトカゲ見たいなヤツではない。

おかしいな、おしさんの昔話ではエルフが出てきたんだけどな...

まぁ、この世界を冒険していれば出合うのは時間の問題だろう。


「マスター、何処に行きますか?」

肩に座っているミイは実に楽しそうに足をバタバタさせている。

足をバタバタしているせいで、踵がオレの肩にポンポン当たって居るが、そんな些細な事は今はどうでもいいだろう。

そんなくだらない事を考えていると路地の方に入っていくローブを羽織り、フードを深く被った多分女性が見えた。

それだけなら特に気にならないだろうが、問題はその女性の後ろに続くヤツらだ。

見るからに、ガラが悪い男が三人。

背の高い細いヤツと、小さいずる賢そうなヤツ、そして大きな図体をした三人組だ。

異世界物をあまり見たこと無い人でもこの後裏路地で起こる事は予想できるだろう。

とりま、様子を見てみるか。


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 


「オイ、ねぇちゃん!ちょっとオレ達にお金を分けてくれないかな~?」

「懐がさびしいんだよ」

背の高いヤツが話しかけた。

オレは小さいヤツが最初に話しかけると思ったんだけどな...


「そんな...私、お金なんて...」

確かにカバンの類は持ってないし、特に何も持ってないようだが...


「そんな嘘を言ったって無駄だ、お前がお金を持っている事は服を見れば人目で分かるんだよ」

確かに彼女の服はドレスで中々良い生地を使っているし、宝石等の装飾が見える。


「これは...」


「金を持っていないならしかたない、その宝石を貰っていこう」

ドレスの宝石に手を伸ばした背の高い男に後ろからドロップキックを決めた。


「イッテ!」

ドロプキックの弱点は、した後なんだよな...

オレは地面に倒れた。

おかげでスーツは砂やら土やら砂利やら...

そして、背中が痛い。


「おい!」

そんなスーツについた砂やらを手で叩いて払いながら立ち上がり、顔を上げると背の高い男は拳を構えていた。

もちろん、後ろの二人もだ。

取り合えず、女性の前に立つ。


「はい、なんでしょう?」


「お前、後ろから突然蹴りを入れるとは、ずいぶんなご挨拶だなオイ!」

背の高い男は背中を押さえながら立ち上がった。

抑えた背中にはオレの足跡がクッキリと付いていた。


「・・・」

取り合えずオレは沈黙で答えた。


「オイ!シカトしてんじゃねぇ!」

うわー、完全にDQNだよ...絶対厳現世に居たら黒歴史製造機やってるよ。

無面で原付乗り回してるよ...


「オイ!君達!3人で寄ってたかって1人をいじめるなんて卑怯だぞ!」

「と、言う事で...オレがスケットだ!」

「スケットダン...まずいなこれ...」

ポーズを決めようとしたがやめた。

色々と不味そうだしな。


「オイオイ、ヒーロー気取りか?」

「調子のってんじゃねぇぞ?」

実にザコらしいセリフだな。

でも、ヒーローは嫌だな...色々と不利だし。


「しょうがない、戦闘は避けたかったんだけど...しかたないか」

「いくぞっ!」

そう言った瞬間オレは方向転換し女性の手を掴み、GOSで作った階段を駆け上がり屋根の上へ。


「汚いぞ!」

「正々堂々戦いなさい!」

戦いなさい!?

戦闘は避けたいって言ったじゃないか。


「ここまでは来れないでしょう」

「基本性能が違うんですよバーカバーカ」

と言いながら屋根の上でピョンピョン飛び跳ねる。

ん?器が小さいなんてことは無いぞ?

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