霊吸い先輩は舌を入れてくる

ぶりきば(非公式)

プロローグ

 完全に不意打ちだった。


 唇に押し当てられた柔らかい感触が、久住くずみ先輩のそれであると気づくのには、しばらくかかった。焦点の合わない視界の中で、先輩は目を細め、それから静かに瞼を閉じる。その瞬間の彼らは、呼吸の音さえも共有していた。

 しかしその時間は、ただロマンティックなだけでは終わらない。


 ぬるり、と唇の隙間を割って舌が咥内へと入り込んできたのだ。みなとはいよいよ戸惑いを隠せなくなる。


「!!」


 先輩の肩を押さえ、引き剥がそうとしてみるも、背中に回された彼女の腕は蔦のように絡まって、蠱惑的な舌使いと共に彼を放そうとはしなかった。


 そんな時間がたっぷりどれほど続いただろうか。


 久住先輩は、その唇を湊から放すと、なんでもないかのように言った。


「ごめんね、鷹峰たかみねくん。いきなりでびっくりしたと思うけど」

「え、や、は……、まぁ、びっくりはしましたけども」


 わずかに唾液が糸を引いていたので、制服の袖でごしごしと拭いてしまう湊。


「え、あの、なんだったんですか今の」

「うん、キスだね」


 表情のあまり変わらない久住先輩の言動だ。どこに反応してどこに驚けばいいのか、ピントの合わせようがわからなくて、こちらはついつい言葉を見送ってしまう。


「こういうことを言ってもあまり信じてはもらえないと思うんだけど」

「あ、はい」


 久住先輩は、しばらく黙り込んだあと、唐突に話を切り出した。大きな瞳で湊の顔を覗き込むようにしながら、先ほどまで彼に押し付けられていた薄い唇が、次のように言葉を紡ぐ。


「鷹峰くん、わたしはね、キスをしないと死んでしまうんだ」


 妖艶に微笑むでもなく、照れ臭そうに笑うでもなく。


 ただ淡々とそう語る久住先輩と、湊の間を、夏の終わりの風が、生ぬるく吹き抜けていった。









 その晩、鷹峰湊たかみね・みなとは、割とドギツめのエロい夢を見た。

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