4話 尊い犠牲 

 オークは読者と同じく、アヤメが何をやっているのか理解できなかった。


 「なーにやってんだお前?それって恥ずかしくねーのかー?

 それにしてもよー、どうやったか分からねぇけど、よくもこいつをやってくれたなー!」

 仲間のへたりこんだ姿を見下ろして、さすがに油断なく短剣を構え直した。


 謎のポーズのままの和風美少女と月の輪熊の子供であったが、アヤメが先にそのポーズをとき

 「やっぱあっとー的な強さの違いが分かんないかー。

 でもそっちがやる気なら私、やるよー!」

 そう言って音もなく美しい影のように跳ねた。


 オークはその速さにビックリしたが、すでに構えた短剣でむかえ撃つ。


 オークの巨体と細い少女が交差する。



 プチプチ!!


 「痛ぇえ!!」



 オークが大きな耳をおさえた。

 そこにあったはずの大きなリングピアスがいくつかなくなっていた。


 気づくとアヤメがそれを手にしていた。そのままその金色の輪っかをお手玉にする。


 「これ、真鍮(しんちゅう)ですねー」


 オークはブホー!と鼻息を鳴らし

 「あ痛たたた。お前!それ俺の耳飾りだなー?!

 いつの間に?!か、返せー!!」


 短剣を前に構え、突進!

 おそいかかったが軽く身をかわされた。


 「お兄さんの剣も全然手入れしてないですねー。サビちゃう前にキチンと手入れしないと」


 オークがこりずにサビた短剣を振り下ろす。


 カ、キンッ!


 金属同士がぶつかる音がして、その刃がヒュンヒュンと回転し、ガッ!とマストの高い所に突き刺さった。


 オークの手には短剣の握りしか残っていなかった。


 「あれ?!コイツみたいに剣を取られないよーに、強ーく持ってたら今度は刃がなくなったぞ?!」

 仲間のオークと自分の手をかわるがわる見た。


 「ほらほらー!ちゃんと手入れしないから簡単に折れちゃうんですよ!」

 

 その右手の白く細い指には、親指をのぞく四本全てに、それぞれ真鍮のピアスが指輪のようにはめられていた。


 オークは短剣の断面を見て

 「な、何だって?!正かこれ、お前が折ったのか?!

 この剣を俺の耳飾りで?!えー?剣て折れんのか?!」


 アヤメは細い腰に手をやり

 「サビを放っておくからです!!これからはちゃんと手入れする習慣を身に付けて下さいね?!」


 「うるさーい!!」

 オークは短剣の握りを投げ捨て、拳を握りしめアヤメへおそいかかった。


 和風美少女はサイドステップではなく、前に出た。


 ポカキキッ!


 オークが叫ぶ

 「ぎゃーー!!」


 何とオークのたくましい両腕がダランと下がり、不自然に伸びて甲板の木の床に付きそうになっていた。



 ヨシロウが小さな足で立ち上がり、万歳をして

 「おー!でたねー!アヤメのオリジナル秘技、ロケットパンチャー!ボク久しぶりに見たよー」



 解説。

 

 秘技ロケットパンチャーとは、アヤメがまだ幼い頃、父親陣九郎との組手の途中でふと

 「お父さんの手ウザいなー!あっ!そーだ!お父さんの両手と肩の骨全部外しちゃえー!!」

 

 その瞬間、最強の遺伝子と天才の思いつきで完成したのが、アヤメのオリジナル組手技、ロケットパンチャーであった。


 陣九郎はだっきゅうの激痛のあまり3日寝込んだという……。


 こうして、尊い犠牲の上に阿也小路流の新たな秘技が産まれたのである。


 なお、ロケットパンチャーの名称はロボットのオモチャがロケットパンチをした後のように手が伸びきって、ぶらぶらになる所から名付けられた。



 「あぎゃー!痛ぇええええ!!」



 アヤメはうなずき、タタンッ!と足を踏み鳴らし、腰に左手をやって右手でピースサインを横にし、美しい顔の左から右へゆっくりと横断させ、燃えるルビーの右の瞳にあて


 「成敗完了!!」


 謎のポーズを決めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る