2話 初めてのモンスター

 豚に似たこの生き物はオークといい、モラルと知性の低い、非常に暴力的な種族であった。


 「なんだコイツ?どうやってオリからここに逃げたんだー?」


 後ろからそっくりなのがもう一匹、陽射しのもとに現れた。


 「あ、ホントだ。いや違うぜー。

 人間の頭の毛の黒いヤツは見たことねぇぞー」


 「なるほどー!お前頭良いなぁー」


 どうやらこの世界で黒い頭髪は珍しいようだ。


 アヤメは二匹を見て目を丸くした

 「わ!何この人達?何でブタのマスクしててるの?」

 わーリアルだなー!とオークの頭をしげしげと見回す。


 ヨシロウも小さな足で背伸びして、それを見たがっていたので、アヤメは抱き上げてオークを見やすくしてやる。


 「うん、ホントの豚みたいだね。

 ボクお腹空いてきたよー」



 オーク二匹は固まった。


 「なんだコイツ?人間の女なのに俺達を見てキャーキャー言わないぞ?」


 もう一匹も鼻水を光らせ

 「そーだな。だけど痩せてるし、目が大きいし、鼻が真っ直ぐだ。

 コイツ、高く売れそうじゃねーか?」


 「だな。どっからまぎれて来たか分かんねーけど、縛って地下の奴等と同じオリに入れとくかー」


 人間に似た、爪あかのたまった手をアヤメに伸ばした。


 「えっ?何するのー?!」

 身をかわす美少女。



 オークはうぶ毛の生えたピンクの頭をかいて

 「うーん。めんどくせーな、やっぱり」


 もう一匹も同じようにかきながら

 「うーんめんどくせぇ。あ!でも、いつもどーり剣見せりゃ腰をぬかすだろ?」


 「ブヒャヒャ!お前頭良いなぁー」


 腰に手をやり、短い剣を抜く二匹。

 陽光が刃を輝かせた。


 アヤメは恐れるどころか、ヨシロウを下ろしてそれに近付き、白い指先でその刃の先をつつく。


 「うん、手入れはイマイチだけど、けっこう良い鋼だねー。

 お兄さんたち、どこかの里の忍?

 それより、なんでブタのマスクしてるのー?

 はっ!もしかしてその下はイケメンさんですかー?

 でも、もしイケメンさんでもポチャマッチョはちょっとないかなー?

 筋肉の上に脂肪をのせた感じで、実用的で戦闘力はありそうだけど、イケメン力は低いなー。

 私的には、もっとスーツが似合うようなスラーっとしたー、でもただ細いだけじゃなくて、男らしさも感じさせるみたいな?

 そーゆうのを目指してもらえるとありがたいかなー?

 キャー!はずかしーからじっくり聞かないでくださいよー!」

 赤くなって両手のひらで顔を隠す。


 アヤメの予想外の反応に、オーク達はブタの顔を見会わせる。


 「おい。コイツのキャーってなんかちがうぞ?」


 「だな、ペタって座りこまねぇし、変わってんなー」


 「どうすっかなー?」


 「でもよー、斬っちまうと傷がついて値段が下がるしなー」


 「だよなー」


 「あ!いいこと思いついた!」


 「なんだよ?」


 「めんどくせーからやっちまおうぜ!」


 オークはおっという顔になって

 「だな、お前頭良いなぁー。じゃあ夕方の飯に喰っちまうか?」


 「あんまほめんなよ、顔が赤くなるぜー」


 二匹はゲヒヒヒと笑い出した。


 だが、それらを前にアヤメは緊張感のかけらもなく

 「ねーねー!この船どこに行くんですかー?

 もしロマンチックな街に行くんなら、お仕事何か手伝うので、このまま乗せて行ってもらえませんかー?」

 ヨシロウも足元でペコリと小さな頭を下げた。


 手前のオークの口からのぞいた牙あたりがギリッと鳴り、刃がユルユルと豚頭の上に上がる。


 オークのドロンとした目玉には、明らかな戦意がやどっていた。


 「ほんじゃあま、死ねー!」


 ブン!と空を裂き、さびた短剣がアヤメに落とされた。

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