朝焼けは光を見る

HaやCa

第1話

 一時間ほど勉強すると疲れてきた。大きく背伸びをしてリラックスをする。肩の力が抜けると同時に、わたしは椅子にドカッと座った。

「誰からだろう」

 机の隅に置いていたスマホが点灯しているのに気づく。スリープ状態を解除してメールの中身を見ると、それは友達からの連絡だった。曰く、「最近あったかくなったし、今から遊びに行こう!」。

 自然と伸びるカレンダーへの視線、わたしはすぐに返信を書くことに決める。

「いいよ。でも今日はもう遅いし、明後日の日曜日にしようよ」

 最後に確認だけしてメールを送った。そのとき、カーテンの奥から外の景色が目に映る。窓の外から見える一組の親子は夕焼けに照らされて赤く光っていた。

「あやか今晩は何にしようか」

「パパかつカレー」

「パパはかつカレーじゃないぞ。ははは」

 遠ざかっていく親子のだんらんを聞いて、私は寂しくなった。私には家族はいないから。この家にたった一人で暮らして、一人で生きている。そんな自分が突然惨めに思えた。


 時間は流れ、今日は日曜日。友達と遊ぶ日になっている。一言に遊ぶといっても具体的に何をしたらいいのかわからなかった。だから、わたしたちはネットで検索をかけた。

やっぱり目についたのは、甘いパフェやタルトなんかの食べ物だったけど、今は二人ともそんな気分じゃなかった。どちらかといえば身体を動かしたい気分だった。

「んじゃ、山登ろう。人生で一回ぐらい行ってみたかったし」

「そうだね。この調子じゃ決まりそうにないし、それでいいよ」

 落ち着きのない友達に私は言う。どうしてそんなにそわそわしているのか、このときはわからなかった。

「そろそろ帰らないと怒られるから! じゃね!」

「うん。また」

 急にどたばたし始めた友達の背中をわたしはそっと見る。そこには雨に濡れた跡があった。

気づいたのに何も言えず、わたしたちは一緒に部屋から出て階段を下りる。

わたしは傘を貸すといったけど、友達は小さく首を振った。ずぶ濡れになりながら走っていく友達を見てすぐに後悔をした。手のひらを空に向ければ、大粒の雨粒がたたきつけてくる。痛いくらいにたたいて、ごちゃごちゃになったわたしの考えさえも洗い流すみたいに降り続ける。

 家のドアを閉める前にわたしはもう一度空を見た。まったく止む気配を見せない雨雲がわたしと重なって見えた。


 登山当日、初心者のわたしたちはガイドさんを雇った。ガイドのお姉さんは気さくな人で笑い話を交えながら先頭を進んでくれる。わたしと友達はひいひい肩で息をしながら後を追っていった。普段あまり運動をしていないせいか、身体が異様に重い。

それでも何とか頂上まではやってこられた。今日も完全な晴れ間とはいかず空は薄い雲で覆われていた。そんなあいにくの景色だったけど、それはささいな出来事でしかない。友達が大きな岩の上に登って私に言う。

「危ないって」

 私は忠告するけど、友達は無視を決め込んだ。そこに何かしらの決意を感じた。

「覚えてる? 私たちが初めて会ったときのこと。わたしがずっと話しかけてるのに、鞠歌はなんにも答えてくれなかったでしょ。あのときは笑ってたけど、本当は悲しかった。わたしは認められてないんだってそう思った」

 友達は、わたしたちが中学生のころの話をしている。あのときのことは本当に申し訳ないと思う。でもそれを言葉にするのはとても恥ずかしい。もっと自分の殻を破る力があったらな、そう思う。

「そんで、今まで何度も仲たがいしてきたでしょ。でもさ、そんなものどーでもいいと思わない? 今日みたいに山登ったりしてさ身体動かしたらそう思えたんだよね」

 友達は私を手招きする。友達がわたしに何かを見せたいのはわかったので、わたしも同じように岩の上に上がった。そこから見る景色は少しだけ高い。遠くに雲が切れている部分が見えた。

 もう数時間すればここも晴れると思う。そう思うとだいぶ胸が軽くなった。

「あのね、わたし謝りたいことがあるの」

 勇気をもって言った。友達はひとえに遠くの夕焼けを見ている。その目には小さな雫がぶら下がっていた。

 「夕焼けじゃなくて、今度は朝焼けを見にいこう」

 山を下りるとき、わたしは言った。最初友達は何を言われたのかわからないといった顔をしていたけど、すぐに綻んだ。

今日この瞬間、わたしは少し強くなれただろうか。問いかけても答えは出ない。これから探していけばいい、心の声がした。

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朝焼けは光を見る HaやCa @aiueoaiueo0098

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