Episode32 Invisible -透明人間-
「
表の歴史では、稀代の
その中でも「錬金術師」は「
「天才錬金術師」と名高い
実際、那津奈の
驚くべきことに、彼らの外見から内面まで人間と大して変わらない。
そこまで人間に近い
しかも、彼らが生成した
普通の人間よりも多い知識を有し生まれてくる彼らは、教育を施すまでもなく完璧な自律活動を行う。
それは彼らが揺り
「さて、では始めましょうか」
そう言うと、メアリー・フランケンシュタインは一同を見下ろしつつ、薄く笑った。
その笑みに何かを察したアルカーナ(
「始める?フランチェスカの
「残念だけどハズレ」
そう言うと、片目をつぶるメアリー。
「でもまあ、
「か、解体って~」
那津奈が目を丸くする。
「そんな乱暴な
「そうね。だから今から行うのは
メアリーの目が鋭く光る。
「用済みになったゴミの解体処分よ」
その言葉と共に
同時にこれまでにないくらいの魔力が周囲に満ちた。
その明らかな異変と敵意の奔出に、アルカーナが腰の
「…一体どういうつもりかな、メアリー=フランケンシュタイン」
「どうもこうも、最初に名乗ったでしょ?」
黄金の髪の毛を掻き上げつつ、メアリーが薄く笑う。
「私は“
それを聞くと、アルカーナは剣の柄を握り直した。
「
そこまで言ってから、アルカーナは低い声で続けた。
「それとも…
その問いに、フランチェスカが僅かに身を震わせる。
真の創造主ではなかったにしろ、アメルハウザーの元に身を寄せていた彼女にしてみれば、衝撃的な一言だった。
だが、あり得ない話ではない。
禁書「
となれば、他者にその技術が渡らないように禁書を封じ、
現にメアリーはフランチェスカを指して「用済みになったゴミ」と言い放ったのである。
「さあて、どうかしらね」
当のメアリーは、はぐらかすように両手を広げ、続けた。
「でも、それが『私の望み』であるのは間違いないわ」
「悪いけど、承服できないな」
明確な害意を認識したアルカーナが、ついに細剣を抜く。
「僕は今回の旅でフランチェスカを守る誓いを立てた。その誓いに懸けて、君の行動は絶対に阻止させてもらう」
「見上げた騎士道精神ね…でも」
不意に。
メアリーの姿が一瞬で掻き消える。
目を剥くアルカーナ達。
「また消えた~!?」
「…反応、完全に
「一体、どういうトリックなんだ!?」
「教えて欲しい?」
間近で聞こえたその声に、身を強張らせるアルカーナ。
そのすぐ背後にメアリーの姿があった。
彼女は、アルカーナの耳元へ囁くように唇を寄せている。
咄嗟にアルカーナが細剣を振うも、その切っ先は空を切った。
「あら、コワい」
声が再びアルカーナの背後から響く。
振り向くと、そこに悠然とたたずむメアリーがいた。
目を見張るアルカーナ。
(馬鹿な…
アルカーナが知る限り、そうした超能力を有する
だが、そうとしか考えられないほど、メアリーの動きは不可解だった。
吸血鬼であるアルカーナの超感覚も。
電子・霊的に感知可能なフランチェスカの
メアリーの所作を察知できないのである。
常識ではあり得ない事象だ。
「メアリー…君は一体何者だ?」
「ふふ…言ったでしょ?ただの
そう言うと、再度消失するメアリー。
アルカーナ達が一斉に身構える中、
辺りを油断なく見回しながら、アルカーナは鋭く指示を飛ばした。
「…フラン、那津奈を挟むように僕と陣を組むんだ。そして、そのまま前方に注意しろ。那津奈は僕達二人の背後から目を離さないよう、
「了解しました」
「ハイな~」
互いに身を寄せ合う三人。
アルカーナは自らの全器官をフル動員した。
吸血鬼の感覚器官や反射神経は、人間のそれをはるかに凌ぐ。
本気になれば、どんな異変も即座に感知し、即座に反応することが可能だ。
いかに禁書の落とし子であるメアリーでも、逃れることは容易ではないだろう。
一方で、アルカーナには一抹の懸念があった。
メアリーがいかなる術で身を隠しているのか分からないが、何故か魔力の発動は感知できないのである。
「姿隠しの術」は、古今東西の魔術や呪法に存在する。
呪文や効果、触媒となる呪物は様々あるが、それらの術は往々にして何らかの魔力などの発動が起こるはずだ。
しかし、メアリーの場合はそれが感じられない。
ということは、何かしら別の方法で姿を隠しているとしか思えない。
メアリーが姿を消す瞬間、呪文の詠唱などが無かったところを見ても、その可能性は非常に高いといえる。
残された可能性としてアルカーナ自身が思いつくのは「超能力」に属する「
だが、それにしてはメアリー自身が姿を消し、現れるまでのタイムラグに違和感を感じる。
「
が、メアリーの場合は消えてから姿を現すまでのタイミングにズレがある。
(いずれにしろ、僕達三人の誰もが気配すら察知できないのは、異常ずぎる)
アルカーナが思案していたその時である。
「うひゃあ~!?」
突然、那津奈が素っ頓狂な声を上げた。
振り返ったアルカーナ質の眼前で、那津奈の身体が仰向けで宙に浮いていた。
まるで、見えない何かに持ち上げられているかのようだった。
「那津奈!?」
「お、降ろして~!」
ジタバタともがく那津奈。
が、その身体は浮遊したままだ。
「そこか!」
神速の速さでアルカーナが細剣で突きを繰り出す。
稲妻の如きそれは、那津奈の身体の真下の空間を貫いた。
不可視となったメアリーが存在するとしたら、那津奈をリフトアップしていると踏んでのアクションだった。
しかし…
剣先には何の抵抗も生まれない。
(手応えが無い!?)
目を剥くアルカーナ。
「姿隠しの術」は不可視化こそは可能でも、実体そのものまでは空虚には出来ない。
言ってみれば、那津奈やアメルハウザーの
消えたように見えても「そこにいる(在る)」ことは歪めることは出来ないのである。
姿を消したメアリーが、那津奈に何かしらの力を作用させているのは明白だ。
が、その見えない上に、捉えることが出来ない。
あり得ない現象だった。
「プロフェッサー、いま救助します」
そう言いながら、フランチェスカがその鉄拳を振るい、浮遊したままの那津奈の真下を薙ぐ。
が、結果はやはり空振りに終わってしまった。
物理的には完全に干渉ができないとなると、非常に厄介な相手である。
何故なら、姿も補足できないのだから、無暗に魔術の行使も出来ない。
「那津奈、何とか抵抗できないか!?」
「ふええ~!?そ、そんなこと言われても~…」
アルカーナの呼び掛けに、困惑する那津奈。
が、それも一瞬で、自分のベルトのバックルを指で押す。
「できちゃったりして~。ポチっとな」
すると、那津奈が
同時に一瞬だが、那津奈をリフトアップするメアリーの影が床面に浮かんで消えた。
そして、那津奈がの身体が重力に誘われて落下する。
アルカーナは持ち前の反射神経を使い、それを受け止めた。
「怪我はないか!?」
「ふぃ~…助かったよ~、アルカーナ~」
感謝の言葉を述べる那津奈に安堵しつつ、アルカーナは尋ねた。
「一体何をしたんだい?」
すると、那津奈はお姫様抱っこされたまま、胸を張った。
「へへ~、この白衣に備わった防衛機構の一つさ~。ベルトのスイッチ一つでプラズマ電流を発生させ、触れた相手を感電させるんだ~」
ギョッとなりつつ、アルカーナが腕の中の那津奈を見やった。
「さ、さすがは天才だ…でも、何故そんなものを仕込んだんだい?」
「吸血鬼とか夢魔とか、痴漢撃退用~♪」
「…今は、その用意周到さに敬服しておく」
冷や汗と共に、とっとと那津奈を地に立たせるアルカーナ。
何となくだが、一刻も早く那津奈から離れたい気分になったのだ。
「でも、今ので少~しメアリーちゃんのカラクリが見えてきたかな~」
眼鏡を光らせつつ、薄く笑う那津奈。
それに頷くアルカーナ。
「ああ。僕にも段々と見えてきたよ…見えない彼女の姿が」
細剣を身構えつつ、アルカーナは続けた。
「しかし…一つだけ腑に落ちない事がある」
「な~に~?」
「
「ん~…憶測は幾つでも立てられるけど…」
白衣を正してから、
「たぶん~…意図的に身体部位を限定し、
那津奈の仮説に、アルカーナが目を剥く。
「冗談だろう?じゃあ、彼女は二重の空間を行き来できると言うのかい!?」
「あくまでも仮説だけどね~」
那津奈が指を立てて、講釈する。
「でもまあ、科学的には証明できるよ~。一部の“
「…フラン?」
傍らに立つ相棒の人造人間に手短に意見を求めるアルカーナ。
それにフランチェスカが頷く。
「理論的には可能性は高いかと。また、電撃に対して怯んだ様子でしたので、こちらにも優位性が認められます」
「成程…上手くすれば、あの厄介な『隠れ蓑』を引きはがせるやも知れないという訳か」
アルカーナはしばし黙考し、二人に囁いた。
「では、こういう作戦はどうかな…?」
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