第12話 私が3人と違うコト

「次の街で、女の子が仲間になるの?!!やったあぁ!」

「ふーん」

「へぇ…」

「嬉しそうだな!フィン!」


 ポタポタとまるでシャワーを浴びたかのようにびしょ濡れになっていたジャンが持ち帰った情報に、私は一人、喜びの声をあげ、ジャンはそんな私を見てニコニコしていて、ハルトと二ヴェルは、女の子の加入、ということにものすごくどうでもよさそうな顔をしている。


「何?嬉しくないの?女の子だよ!女の子入ってくるんだよ?」


 くるくると小躍りしていた私は、ピタ、と止まりハルトと二ヴェルに問いかけるものの、「別に?」と2人が揃って同じことを言う。


「フィンが二人になるとかなら、喜ぶけど」

「おい、ハルト、お前天才か!」

「あ、二ヴェル、その手があるじゃん!」


 ハルトがボソリと呟いた言葉に、二ヴェルが「天才!」と珍しくハルトを褒め、魔導書を取り出す。そんな二ヴェルを見たハルトもまた「お前も天才か!」と言いながら、また別の魔導書を取り出して、二人とも何かを熱心に調べ始めた。

 どうせまた訳がわかんないことだろう、とハルトと二ヴェルは放っておき、ガシガシ、とタオルで頭を拭いているジャンへと近づく。


「ねぇ、ジャン」

「なんだ?」

「その、噂の子が、どんな子かまで聞いたの?」

「背が小さいらしいぞ?」

「ちっちゃい子!!他は!」


 可愛い、優しい、年上、年下。

 どんな子なのだろう、とワクワクしながらジャンの言葉を待つ。


「他はーーそうだなあ」

「うんうん」


 ニコニコ、と良い笑顔を浮かべるジャンに、期待が高まる。


「他に聞いたのはー」

「聞いたのはー?」


 相変わらず良い笑顔を浮かべるジャンと同様に、私も「は」の形をしたまま、首を傾げるものの、「……」と左横に視線を動かしたまま、ジャンの動きが止まる。


「ジャン?おーい、ジャンさーん」


 呼びかけても返事の無い彼にヒラヒラと片手を振りながら声をかけるものの、ジャンの反応は無い。

 まさかこの体制で寝たとか…?と疑問が浮かんだ時、「わからん!」とジャンの威勢の良い声が部屋に響く。


「え?分からないって、何が?」


 突然何を言い出したのか、と、瞬きを繰り返していれば、「いや、だからなぁ」とジャンがポリポリと照れた感じで頬をかきながら口を開く。


「その、新しい仲間の話なんだが。女子だ、ということは覚えてきたんだが、別に興味が沸かなくてな!すっかり忘れてしまった!」


 ハハハ!とものすごく爽やかに、「すまん!」と潔くジャンが頭を下げる。


「そんなあぁ…」


 がっくり、と思わず肩を下ろしながら言った私に、「まぁ、ジャンだしな」とハルトは納得したように呟く。


「まぁ、いいじゃないですか。フィン。お楽しみに、ということにしておきましょう?」


 フフフ、と笑いながら言う二ヴェルと、いつもと変わらないハルトの様子に、「お楽しみに、かぁ…まぁ、そうだね」と気持ちを切り替えて答えれば、ジャンが「なんか結果オーライだな!」とケラケラ笑っていたため、覚えたての硬化魔法を使った肩パンチだけ、いれておいた。



「これはまた随分と登る街ですね…歩いていたらどれほどの時間がかかることやら」


 ガタゴトと揺れる馬車の荷台から見上げる山道はまだまだ続いている。

 その山道を眺めながら「ジャンの社交力も捨てたものじゃないですね」と二ヴェルが珍しくジャンを褒めている。

 それというのも、雨で足止めをされていた街で、土砂降りの中、出かけていたジャンだったが、たまたま雨宿りに立寄った酒場で以前に知り合った商人が居たらしく、馬車の荷台で乗車にはなるものの、荷物の護衛も請け負うなら、ただで次の街まで乗せよう、という話しで纏めていたらしく、ジャンのおかげで私達は高低差のある山道を歩いて登ることなく、荷台に乗って移動をしている。


「当初の予定だと、川を渡って、山麓までだったしね」


 多少、ガタゴトと揺れる道ではあるものの、気持ち悪くなったり、おしりが痛くなるほどでも無い。

 次の街がどんな街なのか、と変わりゆく景色に思いを馳せていると、荷台に不思議な影が映り込む。


「ん?」


 影だ、と思った次の瞬間には、その影は見当たらず、気のせいだったのだろうか、と首を傾げる。


「フィン?」


 荷台ではなく、前方に座っていたジャンが、私の呟きに気がつき、「どうした?」と振り返って私に問いかける。


「影が見えた気がしたんだけど…」


 ジャンの問いかけにそう答えた瞬間、ジャンの表情が険しいものへ変わり、ジャンが「ハルト!二ヴェル!」と2人の名前を呼ぶ。


「チッ。フィンに変なことするなよ、変態」

「そんな心配するくらいならサクッと片付けてこい。フィン、貴女は私とこちらに」

「えっ、ちょ、何なに?」

「フィン、コレ被ってて」


 よいしょ、と立ち上がり身体を解したハルトが、バサッ、と私の頭にハルトのマントを落とす。

 二ヴェルとハルトの会話の意図が掴めずに、キョロキョロと2人の顔を交互に見るものの、私を引き寄せた二ヴェルの手が、頭に落とされたハルトのマントをしっかりと私に被せたのを見て、何かが起こるのか、と気づき、ハルトのマントをぎゅ、と握りしめる。


「ちょーど、山道に飽きてきたところだったからなぁ!なぁ!ハルト!」

「お前と一緒にするな」


 ジャキ、と剣を握りしめ、立ち上がった2人が、「行くぞ!」「はいはい」と馬車から飛び降りた次の瞬間、「オラァァァ!」と複数の人の声が山の斜面と前方から聞こえた。


「何アレ?!山賊?!」

「ええ。それにしても、ものすごく分かりやすい山賊ですね」

「二ヴェル、知ってたの?」


 突然の怒鳴り声に驚き、私を抱き寄せている二ヴェルに、振り返りながら聞けば、二ヴェルは山賊達の格好を見て、呆れたような声で、冷静に状況を解説し始める。


「馬車に乗せる条件にジャンの友人の護衛、とありましたからね。この山道を通るだけでわざわざ護衛を必要とする、ということは、よほど大事な荷物を運ぶか、熊などの猛獣か、山賊が出没するかのどれかです。見る限り、この馬車には荷物は無い。となると猛獣か山賊かのどちらかですが、さっき、フィンが、『影を見た』と言ったでしょう?」


 時折、ぎゃぁ!やら、うわぁぁ!やら、剣と剣がぶつかる激しい金属音やらが聞こえる中で、二ヴェルはまるで「明日のお昼は何にしましょうか」というような普段と変わらない口調で私に問いかける。


「確かに見たけど…すぐに見えなくなったのよ?」

「そりゃそうですよ。山賊達は、一応、隠れているつもり、ですからね」

「そうなんっ、うわっ」

「ちょっとゴメン」


 話しをしている最中に、二ヴェルがグッ、と強めに彼の方へ私を引き寄せる。耳元で聞こえる二ヴェルの声に驚くものの、次の瞬間、二ヴェルが短い詠唱呪文を唱え、杖の先を、空から馬車の後ろへと振りかざす。


「ぐあっ」

「うわっ、あああー!!!」


 ドスン、と山の斜面から数人が転げ落ち、馬車の後ろに迫っていた仲間の山賊達は、二ヴェルの放った魔法によって、吹き飛ばされたり、そのまま山の斜面を転げ落ちていった。


「二ヴェ」

「そのまま、貴女は見なくていい」


 二ヴェルの名前を呼ぶものの、いつもとは違う声が耳に響く。

 思ったよりも強い力で抱きしめられ、視界に映るのは二ヴェルの肩とハルトのマントだけで、マントがあるせいか、音もあまり聞こえない。

 しばらくして、人の動く気配がしなくなった、と思った時、ガタゴト、と馬車がゆっくりと動き始める。


「二ヴェル、ハルトとジャンは」

「無事ですよ。2人とも」

「そうじゃなくて、2人の」


 無事な姿を見たい、と言いかけた時、「フィン」と二ヴェルが私の耳元に頬を寄せる。


「今は、見ないでやってください。特に、ハルトは、嫌がるでしょうから」

「二ヴェ」

「貴女を怖がらせたくないんですよ。2人とも」


 そう言って、二ヴェルが私の頭を痛くない力で、ぐ、と自分の身体へと押し当てる。

 二ヴェルの言葉に、私のほうが、ハルトと長く過ごしたのに、とか、ジャンとも先に仲間になったのに、とか、考えもしたが、旅慣れをしているのも、誰かと戦った経験があるのも、二ヴェルのほうなんだ、と思った瞬間、言葉は何も出てこなかった。



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