第15話


10年後



ドタッ


「いたぁーい、えーん」


「ほら、大丈夫、大丈夫」


「グスッ、だってぇ」


「はい、もう痛くないよー」


「ヒック、うんっ」


「すごいねぇ、美優、もう笑ったぁ」


「えへっ」


「フフフ」



自慢気にする娘が可愛らしくて

思わず笑うと私の顔をまじまじと見つめる美優



「ねぇ、ママは泣かないの?」


「泣くよー」


「じゃあ、どうやって泣き止むの?」


「んー?それはね、パパがおまじないかけてくれるの」


「そうなのー、

じゃあ、美優もかけてもらう」


「ごめんねぇ、美優。パパのおまじないはママにしかきかないの」


「えー、ずるーい」


「 美優にはママがちゃーんとおまじないかけてあげたから、だから笑顔になれたでしょ?」


「そっかぁ」


「ママがいるから、強くなれるよ」


「うん!」




「ぱぁーぱー

ママにおまじないかけてもらったよ」


「そうかぁ、

良かったなぁ」


「パパはママにおまじないかけるんでしょ?」


「へ?」


「笑顔になれるおまじない」


「あっ、うん、そうだ。

そうだよ~」





「なぁ、美帆、美優に何言ったの? 」



「ママはパパにいっつもおまじないかけてもらってるから、笑顔になれるのよって。

そうでしょ?」



「へへへ、まぁなぁー」





おまじないの呪文は"ちちんぷいぷい”でも

"アブラカタブラ”でもない。



あなたが側にいることが私にはどんな呪文や魔法よりききめがあるの



あの日あなたに出会っていなかったら、

今の私はきっといない



笑顔でいること

簡単なようで難しいこと



でも、あなたと一緒なら

きっと…



「美帆…」


「んー?」



「美帆の笑顔は

一生俺が守る。

あの時そう誓ったんだ」



「あの時って?」



「あの時はあの時だよ」





春の柔らかい風が流れる中

空を見上げて、彼は優しく笑いながら言った



fin

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