第3話

誰かが誰かを好きになる

そして、また誰かが

恋は一方通行の方が多い

通い合うことが出来たなら

それは愛となるのかもしれない



夏休み前

俺は試験の成績が悪くて補習授業に出ていた


「はぁ、だるいなぁ」


「武田、お前、ちゃんと受けないと卒業出来ないぞ、

明日もう一度試験するからな、点とらないとほんとにダメだからな」


「えー、まじっすかぁ」


「とにかく、しっかりやれ

わかったな

じゃ、先生帰るけど、もう少しやっていくか?」


「帰りますよ」


立ち上がろうとした時、彼女が廊下を歩く姿が見えて、慌てて呼び止めた


「いえ、やっぱ、まだ勉強します」


「勉強しますって、どこ行くんだ?」


「石垣さん!」


「え?」


「ねぇ、今、時間ある?

勉強教えてよ」


「おー、そりゃいいなぁ。

石垣なら任しても安心だ

教えてやってくれるか?」


「先生…私」


「頼むよ!」


「……わかりました」




「ここをこうやって、それから…」


じー


「あの?何か?」


「石垣さんって、おっきな目してるよねぇ」


「勉強しないなら帰ります」


「するする、続けよ、なっ」



日が落ち始めた教室で二人並んでると

彼女の甘い香りと伏し目がちな大きな瞳が気になって、ほんとは勉強なんか頭に入ってこなかった



「あのさ」


「まだ何か?」


「石垣さん、きっと笑うと可愛いよ」


バンっ

突然立ち上がった彼女


「可愛くなんか…絶対ない。

私なんか…」


「私なんか…とか言うなよ なんか…とか」


潤んだ瞳できっと睨み付けるようにして彼女は去っていった


その時、初めて真っ直ぐ目を見たかもしれない


やっぱり、俺は彼女に笑ってほしかった



独りよがりな俺の気持ちを押し付けてはいけないなんて、その時思ってもみなかった

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