今日がとてもいい日だったらよかったのに。

柊木 深月

始まりの終わり。

今日がとてもよい日だったら嬉かったのに。


そうつぶやいた少年は、高層ビルの屋上の片隅に足をぶら下げて眺めていた。そんな彼の名前は坂本侑李。


何を思ったのか、少し短いメッセージと、靴を揃える。


 自殺という、単語を思い浮かべる。


自ら生命を断つ。親に一番最初に自分の命を粗末にしたらだめだと教えられた彼はそれを今破ろうとしていた。人生に疲れてしまったと、そんな言葉が浮かんできそうだ。


自分なんか必要とされていない。そんな誰しもが思うようなことを信念を貫いて、結果死を選ぶという彼の判断だ。人生は素晴らしい。そんな言葉を発するのは誰だっけなんて彼は考えていた。クラスメイトだったか、偉人だったか。それすらももう思い出す必要性はない。彼にはどうでもいいことだった。だって今から命を断つのだから。1つの命を終わらせる。そんな簡単なことが有ってたまるものか。と言いそうな人もいるけどそれってエゴでしかないよね。と彼は考える。なくなってしまえば無に帰る。そんな単純明快な事なのに尊い命をだからっていう理由で複雑にしてしまう。彼には一般的な考えが、時々わからない。皆何を全うして生きているのか。家族があるから?近しい友人が泣いてしまうから?自殺はよくないよっていう刷り込みなのか。


「考えれば考えるほどよくわからなくなってしまうな」




そう言って彼はその場から迷いなくとんだ。








――朝方。


 彼の遺書は、こう書かれていた。


 「僕が死んだからといって悲しまないでください。僕はただ無くなるだけです。皆が言う悲しみなんて何もないのです。迷惑をかけてすみません。後処理をされる公的機関の方本当にご迷惑をおかけします」




特に親しい人に送られたメッセージではなく、あまりにも奇怪な遺書だと、小さく新聞にものった。


やはり、彼の言ったとおり、彼がいなくても世界は回って、その話題性も一週間しないうちに消えてしまった。




そんな事が彼には気に食わなかったのかもしれない。

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今日がとてもいい日だったらよかったのに。 柊木 深月 @story_in

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