僕は作られた戦乙女

純須川スミス

第1話 僕の困惑

「は……え……な、なんで……?」


早朝、僕は自室の鏡を見て絶句した。

目の前の状況を飲み込めず思考が停止する。

僕、白森東人は先日中学校を卒業して私立尽岳学園に進学した、学園から指定された校外の学生寮に居を移したばかりの男子生徒である。

そう、男子生徒である。

そして鏡とは一般的に知られているように光の反射を利用して自分の姿を見るために使われる道具だ。


「えっ……?こ、これ……僕!?」


僕が見る鏡に映るのは、同年代ぐらいの女の子だった。

鏡の中の女の子は僕が同時に手を上げれば上げるし口を開ければ同時に口を開ける。

その光景は鏡の中の女の子が僕自身であることをなによりも証明していた。


「う、嘘だ……そうだ!これは夢だ。そうに決まってる。明晰夢とかいうやつだ!自覚した夢を見られるなんて、僕はラッキーだなぁ!ははは!ははは……」


どうにかこれは夢として誤魔化そうとしたかったが、どれだけ念じても火も出せないし空も飛べない。

ただ僕が引っ越して来たばかりの段ボールと布団だけがえる生活感の無い部屋で挙動不審な行動をしただけに終わった。

限りなく非日常に踏み込んだこの現象だけが、現実として僕にのし掛かってきた。


「ど、ど、どうしよう!?」


早起きする習慣もあって現在学校に行かなければならない時間ではない。

しかし時間があっても解決する手段が思い浮かばない。

それもそうだろう。時間があれば性別を変えられますなんて人に出会ったことがあるだろうか。


「うわわっ!?」


気が動転していた僕は自分の携帯のバイブレーションですら跳ね上がるほど驚いてしまった。

バイブレーションの原因は通話着信のようだ。

発信者を見ると、未登録の番号だったようで番号だけが画面に映っている。

知らない相手なら困ることは無いだろうと考え、僕は咳払いをして喉の調子を整えてから電話を受けた。


「もしもし……白森です」

『おはよう。アガツマという者だ。怪しい者じゃないからこのまま電話を切らずに部屋の外へ出てきてくれないか?』

「ぅええ!?」


見知らない相手からまさかの申し出に僕は反射的に変な声を出してしまう。


『あっはは。資料通りの驚き屋さんだな。まあまあまあ!どうせ今焦ってるんだろう?状況を知ってる味方が欲しいところじゃないかな?な?』

「……な、なんでそれを」

『私は君が慌てたその現象の全て知ってるよ。まあまあ!いいからいいから!出てきてくれないかって』


正直恐怖が強かったが、電話の声の主が言うように、頼る宛は今はどこにもない。

僕は意を決して扉を開けて外を見回す。


「やっほーアズくん。私がアガツマだよ」

「あ、はい……白森東人です」


扉の横に立っていたのは腕をまくった白衣をつけた、小柄な少女のようにも年上のようにも見える女性だった。


「うーん!可愛いね!少年少年してた以前のデータ写真も良いけど、やっぱり私は今の君が好みだな!」

「えっと……なんの話で……」

「こっちの話だから気にしないでー。気弱そうなとこも可愛いなぁもう!」


アガツマさんは僕を頭から足先までじっくりニヤニヤしながら眺める。


「ふふへへ……こほん。さて!君にはいろいろ説明したいところなんだけど……さすがにその格好で出歩かせるのは私でも気が引けるんだよ」

「へ……あっ、す、すいません」


僕は起きて鏡を見てから頭が空になっていたため意識してなかった。

僕は今、着替えておらず寝間着のままである。


「き、着替えます!」

「はいはーい。焦らなくていいからね」


僕はまとまらない頭のなかを振り払うように、ハンガーに掛けていた男子制服に着替える。

性別が変わったせいか身長も相応にサイズダウンしているらしく、ブレザーの上着もズボンの裾も採寸の時と比べると幾分かブカブカになっていた。

しかしそんなことを気にしている暇はない。

僕は着替えるとすぐに部屋から出た。


「うんうん、カッコいいよアズくん」

「あ、ありがとうございます」

「じゃ、説明に相応しい場所へ移動しようか」


僕はアガツマさんに手を引かれながら彼女のものらしき車に乗せられ、車は走り出した。

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