第三十二話 あまずっぱい! あまずっぱいが、しかし! 系なッ……!?

「あ、あれ? シトラス先輩はいつの間に、系な?」

「は?」


 シトラス先輩は、自分のジャージ姿を見下ろした。

 私は、再び衝撃を受けて、固まった。

 先ほどシトラス先輩が、制服姿で横を通り過ぎたので変だと思っていたのだ。


「そ、そうか、系な!」


 息を吸い込んだ瞬間、頭の中のパズルのピースが全て繋がったのだった。

 シトラス先輩が顔を上げて私の方を向いた。


「もしかして、シトラス先輩は、系な?」

「えっ? どういうこと?」


 シトラス先輩が不可解そうにこちらを見ている。


「今まで変なことが多々あった、系な。シトラス先輩のことが、クエン酸先輩の手紙と妙にかみ合わなかったり、シトラス先輩が別人のように感じたり――系な?」

「ああ、そういうこと?」


 シトラス先輩は、疲れたように嘆息した。


「シトラス先輩が別にもう一人いる、ということですか? 系な?」


 シトラス先輩は首肯した。


「ご名答。まあ、そういうことだよ? 俺は、本物のシトラスだけど――」


 姿本物のシトラス先輩の後ろから、姿もう一人のシトラス先輩が体育館に入ってきた。


「あはは」


 シトラス先輩は、楽しそうに笑っている。

 この腹に一物在りそうな、このシトラス先輩そっくりなひとは――。


「あはは、俺は、シトラスの兄弟のシトラ・マーマレードだよ」

「やっぱりもう一人居たーッ! 系なーッ!」

「あはは」


 シトラス先輩そっくりのシトラル先輩は楽しそうに笑って付け足す。


「あはは、そういうことだよ。ちなみに、レモンと付き合っているのは、俺、シトラの方だよ。騙してゴメンね」

「シトラル先輩、何考えているんですか、系な……!」

「あはは、それはね。俺がレモンと喧嘩していたからだよ」

「えっ? レモン先輩と喧嘩していた、系な?」


 私は瞠目したまま、ジャージ姿のシトラス先輩の方に目を向けた。

 シトラス先輩は、うんざりしたようにシトラルの方を向いた。


「違う? 俺はシトラルとレモンさんに巻き込まれたんだ?」

「エッ?」


 シトラル先輩は、シトラス先輩に原因がある、と言った。

 シトラス先輩は、シトラル先輩とレモン先輩に巻き込まれた、と言った。

 それは、つまり――。


「それはつまり、原因はレモン先輩にあると言うことですか、系な?」

「いや、全然ナイ! 全然ナイが、シトラルが駄目ならシトラスで良いかなと、魔が差しただけだ!」


 声を張り上げた張本人の、レモン先輩が体育館に入ってきた。

 シトラス先輩は、レモン先輩にげんなりした目を向けている。


「ああ、俺は、巻き込まれただけだよ」

「あはは、ゴメンな、シトラス。もう、俺とレモンは仲直りしたから安心して」

「そういうことだ! 巻き込んですまん!」

「何考えてんだよお前ら?」


 私は、唖然と三人を眺めていた。


「つまり、クエン酸先輩から手渡された手紙は――?」

「それはつまり、が、書いたものだよ!」


 振り返ると、いつの間にかクエン酸先輩が体育館の中にいた。

 ということは、あの手紙の文字はクエン酸先輩の筆跡ではなく、シトラル先輩の筆跡だったのか。


「じゃあ、シトラス先輩だと思っていたのは、シトラル先輩の方だったんですか、系な!?」

「そうだね! ご名答だよ!」

「あはは、だましてゴメンね」


 クエン酸先輩とシトラル先輩は微笑んで、そう白状した。

 私は、震える手で二人を交互に指差す。


「だとしたら、最初からクエン酸先輩とシトラ先輩はということ、系な!?」

「うん! そういうことだね!」


「じゃあ、クエン酸先輩が渡してきた手紙に、『シトラス先輩とポンス先輩が付き合っている』って書いてあったのは!?」

「あはは、まったくの誤解だったよ! はシトラスじゃなくての方だったようだよ! 僕も、というわけだね!」

「なんだよそれ……」

「け、系なー?」


 クエン酸先輩は、悪びれた風もなく微笑んでいる。

 つまり、ポンス先輩は巻き込まれ損ということか。

 でも、ポンス先輩は、だったようだったが。


「あの時、シトラス先輩におちょくられていると感じていたのは全くの誤解で、、系な?」

「あはは。そういうわけだよ?」と、シトラル先輩が言った。

「ちょっと待ってくれ、系な?」


 私は、クエン酸先輩の手紙を思い返した。


「『シトラスには、重要な知り合いの三人が居る。その三人のせいでシトラスは悩んで、くるしい思いをしている』あれは一体誰を示している、系な?」


 シトラス先輩の代わりにクエン酸先輩が言いにくそうに答えた。


「シトラスがくるしんでいるのは、のせいだと思っていたんだけど、ポンスと知り合いなのはの方で、から……ということは……」


 苦笑したクエン酸先輩は、何故かチラリと見やった。

 当の私は、その意味も意図も、まるで気に留めてなかった。

 じゃあ、もう一人は誰なのか。

 だとしたら、重要な知り合いの一人は、一体誰なのか。


「じゃあ、シトラス先輩のは、誰ですか、系な?」


 答えが分からない私に、クエン酸先輩とシトラス先輩は苦笑している。


「あのさ」


 そして、は、一通の手紙を私に渡してきた。

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