赤ちゃんのなる木は天才児しか生まれてこねぇ!!
ちびまるフォイ
研究のためだったら品種改良してもいいよね
「また成果が出てないのか! この役立たずども!!」
教授は怒って机をたたいた。
「いいか!! 次、ワシの名誉を汚すようなことをしてみろ。
貴様ら研究員など、まとめて首にしてやるからな!!!」
結果が出ないのは教授がポンコツだというのは誰でも気づいていたが、
この場で誰も言うことはなかった。
翌日、重い足取りで研究長は大学に向かった。
「はぁ……どうしようかなぁ……」
研究室への道はキレイな桜並木なのに気持ちは浮かばない。
ふと見ると、1本だけ桜ではなく赤ちゃんがなっていた。
「ほぎゃあ! ほぎゃあ!」
「えええええ!? なにこれ!?」
研究長は枝から果実のようになっている赤ちゃんを取り上げて、研究室までまっしぐら。
「みんな!! 大ニュースだ!! 大ニュース!!」
「ああ、知ってますよ。あのゆでだこ教授がいなくなったんでしょう?」
「え、そうなの」
「大学にもいないらしいっす」
「って、そんなチャチなものじゃないんだよ!
この赤ちゃんがあの木からなっていたんだよ!!」
その後、半信半疑の研究員を納得させるのに1日を費やしたが
翌日同じ木からまた赤ちゃんが実を結んでいるのを見て、全員が納得した。
「研究長……これは……」
「ああ、これこそ我がゼミの一大研究になるぞ!!」
驚くのは木から生まれた赤ちゃんが異常に賢いということだ。
生後数日もすれば、言葉はもちろん自分たちの大学レベルの研究すらも理解できてしまう。
「なんて賢い赤ちゃんなんだ……!
もう我々と同じレベルの知識を持っているなんて!」
「研究長、あの木を品種改良したら
もっとすごい赤ちゃんが生まれてくるんじゃないですか!?」
「ああ、さっそく研究しよう!!」
その日から研究室の灯りは絶えることがなくなった。
来る日も来る日も繰り返される成分の研究と、品種改良液の試作。
成果が出れば出るほど、研究室に来る研究員は減っていった。
「ついに君だけになったか……」
「はい先生」
「まぁ、連日連夜同じような研究ばかり繰り返していれば
さすがに体にガタもくるし、精神も限界になるだろうな」
「先生は大丈夫なんですか?」
「ああ、もちろん。あの木からなる赤ちゃんの改良が
ますます加速しているのに、休めるわけがないよ」
赤ちゃんのなる木には自分たちの知識がどれだけ遺伝できるか。
それを確かめるために、自分たちの知恵を液体化させて木に注入。
そして出来上がった赤ちゃんは自分たちの知識を持って生まれてくる。
バージョンアップを繰り返してきた赤ちゃんだったが、
ついにその成長は頭打ちとなった。
「くそ! ダメだダメだ! あれからずっとやっているのに
ちっとも知識の遺伝ができなくなった!! なんでだ!」
「先生……」
「前はあんなにポンポン遺伝できたのに!
遺伝液の改良もした! 生育環境も見直した!!
なのに!! なのになんでだ!!!」
「先生! 落ち着いてください!!」
助手の声に研究長はハッとして我に返った。
「すまない、取り乱してしまったよ」
「先生、だいぶお疲れですし、休まれては?」
「そうだな……」
研究長は久しぶりの我が家に帰宅した。
仕事ひとすじの男の帰りを妻は暖かく迎えた。
「あなた、おかえりなさい。
あなたの好きなオムライス作ってるわよ」
「え、本当か!?」
「いつまでたっても味覚は子供のままね」
久しぶりに自宅で食べるまともな食事が体にしみていく。
「ああ、すごくおいしいよ。この懐かしい味……最高だ!!」
大好きなオムライスを食べ終わると、
研究長の頭の中にアイデアがよぎった。
「そうだ……そうだよ!
どうして今まで自分たちの知識だけで試していたんだ!」
「あなた、いったいどうしたの?」
「ありがとう!! 君のおかげで打開策がわかりそうだ!!」
研究長は息をはずませて、また研究室へと戻って来た。
すぐに自分のひらめきを助手に話した。
「なるほど、そういえば私たちはこれまで
自分たちの知識が遺伝できるか試しているばかりで
他の知識の遺伝ができるのかは試していなかったですね」
「そう!! そうなんだよ!!
だから、別ジャンルの知識が遺伝できるか試すんだ!」
そこまでせきを切ったように話すと、
緊張の糸が切れたのか研究長はそのまま部屋に倒れてしまった。
「研究長! 研究長!?」
研究長は意識を失い、目が覚めたときにはだいぶ時間が経っていた。
「研究長、大丈夫ですか?」
「うう……私はどれだけ寝ていたんだ?」
「まる1日です。見てください、赤ちゃんができていますよ」
助手が指さすと、木からもぎたての赤ちゃんが料理をしていた。
「おお、おおおお!!!」
「我々の専門的な脳的な知識ではなく、
料理みたいな体で覚えるのも遺伝できるか試したんです。
どうやら実験は成功したみたいですね」
「素晴らしいよ!! 君は最高の助手だ!!」
「これも先生のためです。
先生が成果を出して喜んでもらえること
私にとってなによりの報酬なんです」
「ありがとう! 本当にありがとう!!」
研究長は赤ちゃんの作る料理を見ようと近づいたとき、
机にある研究液の残量をみて違和感を覚えた。
「あれ? 研究液が減ってないようだが?
これを使わずに遺伝液は作れないだろう?」
遺伝液を作るには「知識」と「研究液」の混合が必要。
でも、気を失う前と後で研究液は減っていなかった。
「ああ、それですか。
先生はお気づきになってなかったみたいですが
遺伝には遺伝液なんて不要なんですよ」
「え!? 遺伝液を使わずに赤ちゃんに遺伝できるのか!」
「案内します。こちらへ」
助手に促され、窓から見える木を見てみた。
「先生はこれまで遺伝液を幹に入れていましたが、
大事なのは遺伝情報を根から吸収させることなんです」
「つまり……?」
「遺伝情報があるものを養分として吸収させれば、
その赤ちゃんができるんですよ」
「なんだ、そうだったのか。
これまで遺伝液を作っていたのが馬鹿らしいな」
「さぁ料理もできましたよ。暖かいうちに食べましょう」
赤ちゃんの作った料理を見て研究長は驚いた。
「これ、オムライスじゃないか!!」
「ええ、先生が大好物だと聞いて」
「ありがとう!! うまい、うまいよ!! 本当に最高だ!!」
夢中でスプーンを動かしていた研究長だったが、
半分ほど進めたところで手が止まった。
口の中に残る味に覚えがあった。
「き……木から生まれる赤ちゃんに知識を伝達するためには、
遺伝情報があるものを……養分として……根から、きゅ、吸収だったね……?」
口の中に懐かしい味が残っている。
「君は……君はいったい、なにを根元に埋めたんだ……」
「すべて先生のためですよ。
だって、あんなに喜んでくれたじゃないですか」
次に木には研究員すべての知識と、
素晴らしい料理の腕が遺伝された赤ちゃんが生まれた。
赤ちゃんのなる木は天才児しか生まれてこねぇ!! ちびまるフォイ @firestorage
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