35話 魔と戯れし者
ルニアルマ宗教国家での生活は【閉ざされし神姫 ミュー・マクスウェル】の来訪により終わりを告げることとなる。
そして、ミューから突如伝えられた。
「誘惑魔法に掛かっている」
と言う、俺自身でさえ気づいていない状態異常を指摘され困惑する俺だった。
しかし、その困惑は軽く無視され、俺たちは森の奥深くを歩いているのであった。
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「なぁ、いつまで歩かないといけないんだ?」
「あまり派手な方法で移動しては帝国に見つかって面倒になりますから。それにこの森が特別なのは分かったでしょ?」
鬱蒼と生い茂る木々達は、前日までの雨のおかげか溌剌とした色合いを見せている。
そんな俺の前には、初対面の時の服装とはガラッと変わり、スキニージーンズに暗褐色のベストにサングラスという出で立ちだ。小学生が頑張っておしゃれしている様な感じで微笑ましい。
ギャアーーーー!
突如辺りに金切り声の様な音が響いた。
そして。この森が特別なのは。
【魔物】が現れるからなのであった。
「さ、カナデさん。張り切って行きましょう」
ミューちゃんはそう言うと、進行方向に現れた、黒い甲冑を装備した骸骨の方へと俺の背中を押してきた。
「ちょっと! 少しは優しくしてくれよ、なっ!」
俺が前のめりになりながらも体勢を立て直すと、目の前に骸骨剣士の斬擊が迫ってくる。
「ったく。【
眼前に迫った斬擊を俺は右手から魔方陣の盾を出し骸骨剣士の斬擊を反射する。
「グァッ」
骸骨剣士は変な声を出して吹き飛ばされていく。
「【バルムンク・顕現!】」
俺はそう言うと、相棒がいつも使っている
「キミには悪いけどココは通させてもらうよ!」
吹き飛ばされた骸骨剣士は空中で姿勢を立て直し華麗に着地をし、体勢を低くしこちらの出方を窺っている。
骸骨剣士の間合いに入る。
その瞬間、身体が宙に浮く感覚に襲われ、俺は近くの大木に叩きつけられた。
「全く……。常に魔力を感じてなきゃダメって言ったじゃないですか!」
「クソッ!」
ガキン!
すぐさま俺に飛びかかってきた骸骨剣士の刺突を防ぐ為に大剣の腹でを俺の顔面を狙う一撃を防ぐ。ミューちゃんの叱責が聞こえてくるが応えている余裕はない。
「魔法も使えるのか! だが、それはこっちも同じだ!【
俺の身体を巡る魔力が筋肉へと集中し、筋肉を膨張させていく。
ギギギ……!!
「うりゃあ!」
叫び声を上げながら大剣で骸骨剣士を押し飛ばし、力比べに終止符を打つ。
タッ!
バランスを崩した骸骨剣士に追撃する為に地面を蹴りあげ【
シャキン!
袈裟懸けに斬りかかった大剣を、骸骨剣士はその見た目からは想像出来ない力で受け止める。
ギガガガ!
骸骨剣士は嗤っているのか挑発しているのか、謎の音を立てながら顔をぐらつかせた。
「ったく生意気な……!!」
ッタ!
俺は後ろに飛び退き鍔迫り合いを終わらせ骸骨剣士との間合いを取り、大剣を目の前に刺して両手を合わせ魔法の詠唱を始める。
「世界に彷徨う風よ集え。貫け突風!」
祝詞を唱え始めると俺の周囲に風が吹き始め、魔力の高まりを感じた。
【
そして、最大限に魔力を感じた時魔法が完成し、俺は両手を骸骨剣士に向けて翳し一気に魔力を解き放った。
ゴォォォォオ!
風の塊が巨大な質量を持って骸骨剣士に襲いかかる。
キシャァァ!
骸骨剣士は叫び声を上げながらその手に持った長剣で風の塊へと斬りかかるのであった。
ブァァァア。
「ふー。実践でも問題なく使えたな。風って言ってるけど、空気の流れの力を扱うってのは我ながら良い発想だよな。終わったよー!」
俺は呟き溜息を吐きつつミューちゃんへと振り向き声を掛けた。
「カナデさん! 後ろ!!」
「えっ?!」
ミューちゃんの警告を聞き振り向くと、そこには先ほど粉微塵にしたはずの骸骨剣士が俺に向かい長剣を振り下ろしている所だった……。
「ッチ!」
ガキン!!
不意を突かれた一撃に、舌打ちをすると共に無詠唱で魔法の盾を形成。骸骨剣士の斬擊を防ぎそのまま【反射】で相手を吹き飛ばす。
「危なかった……。死霊系は一部分でも残すと再生するのはこの世界でも同じなのか……」
【反射】を食らい、吹き飛ばされて行った骸骨剣士を見つつ呟く。
「今の俺の魔法だと中々厳しいか……」
カシャッカシャッン
「もう復帰してきたか……。ミューちゃん! アイツは俺にはまだ手が余るようだ! ちょっと手を貸してくれないか?!」
「却下」
「手厳しい師匠だな! 奥の手を使うか……!」
『ホーリーショット!!』
俺が新魔法を使おうと魔力を練り始めてすぐ、森に老齢な男の声が響き渡った。
ビュンッ!
「あぶな!!」
俺の直ぐ脇を光る矢が三本通り過ぎていき、骸骨騎士へと突き刺さる。
ギャアーース!
光の矢をまともに食らった骸骨騎士は、その身に刺さった矢を中心に光の粒子へと変わっていくのであった。
────────────────
「まさか神姫様が御修行中だったとは知らずに、お邪魔してしまい申しわけございませんでした」
俺の前には、西洋甲冑を身に纏った白長髭のお爺さんがミューちゃんと仲よさそうに歩いている。
「いえ。危ない所を助けて頂きありがとう。うちの弟子がまだまだ未熟で……。助かりました。グレイさん」
「まぁ、アンデット系の対処はなかなか難しいですからのぉ。フォフォフォ」
ジジイ……。俺のことをただの雑魚だと思っているようだな。
「楽しそうに話して居るところ申し訳ないですが、そろそろドコに向かってるか教えてくれてもいいじゃないか?」
「おい小僧! 神姫様になんて口の利き方をするのじゃ!」
ブンッ!
「あぶな!! いきなり何するんだ!」
突然爺さんが、手に持った剣を鞘に入ったままではあるが、凄い勢いで振り抜いてきた。
「ほほう……。今のを避けるか……。まあよい。神姫様、今日もアルフォンス様にお会いになるためにいらしたのでしょうか?」
爺さんは、俺が不意打ちを避けた事に驚きを示しながらもミューちゃんに話を振り始めた。
「はい。ちょっと弟子に稽古をつけるついでに軽く挨拶をしようと思い、ね」
「それはそれは、アルフォンス様もお喜びになられますよ」
「アルフォンス……? カルメンさんの事ですか?」
ビュン!!
「っ!!」
「お主、アルフォンス様とどこかでお会いしたことでもあるのか?」
またもや、予備動作無しの斬擊を放ち俺の首を刈ろうとした爺さんだったが、その発言から俺の思った通り、以前会ったカルメンさんと同一人物だと言うことが分かった。
「あぁ。以前道ばたでバッタリ会った仲です。まぁ、うちの隊の馬鹿がボコボコにされたんですけどね……」
「一般軍人如きがアルフォンス様に敵うわけがなかろうに」
爺さんは、笑いながら顎髭を撫でている。この年になると、皆このような仕草を取るようになるのか……。
「そうですよね。神姫様達の強さを目の当たりにしてきましたが、異次元の強さを持ってます……。笑ってしまう位に強大な強さだった」
「フォフォフォ。まぁ、お主も中々悪くない動きをしておったから、アルフォンス様に鍛えて貰えれば少しでも神姫様のお役に立てる様になるじゃろう」
「そう……ですか。しかし、貴方は魔物を相手にしても全く動じてませんでしたが……」
「その事か。それは儂達がこの森を守護しているからじゃよ」
どうやらこの爺さん、只者ではないらしい。
「儂達【世界の守護者】と言う部隊をアルフォンス様が構築してくださり、その隊員は皆【魔法】を扱えるよう鍛えられてきたのじゃ」
「え? 【魔法】は神姫様だけが使えるはずなのでは?」
俺の疑問は当然のことだろう。そんな表情をしながら爺さんは答える。
「もちろんその認識で間違えはない。しかし、アルフォンス様は儂ら一般人でも使えるよう【
「魔宝具ってなんなんですか?」
「ほれ、このような鉱石に魔方陣を書き込んであって、そこに魔力を流し込むと魔法が発動するのじゃよ」
そう言いながら、爺さんは卓球のボールくらいのサイズの黄色い宝石を手に乗せて見せてくれた。
「綺麗ですね……。仄かに魔力も感じる……。コレを用いれば万人が魔法使いになれるんですね」
「それは無理です」
今まで話を聞いていただけだった、ミューちゃんが口を開いた。
「え? それはどうしてなの?」
ヒュッ! パシッ!
「ったく! いちいち叩くなって!」
「ほう……。もう見切ったか。流石神姫様がお供にしただけあるな。神姫様お話の腰を折ってしまいすいません」
謝るなら始めからやるなって話だよ。
「はぁ。この世界において【魔力】を操ると言う事がとても難しいからです。万物に魔力は宿っているものなのですが、それを意識的に使おうとするのは無理なのです」
「万物に宿っていても自らの意思では使えない……。血液みたいな? 自動的に身体を巡っているけど、自発的に量を増やしたり減らしたりは基本的に出来ない。そんな感じなのかな?」
自分なりにイメージしたモノを伝えてみる。
「そうですね。素晴らしい例えだと思います。血液のように魔力も身体を循環しているので、それを意識して取り出したりは出来ないのです。ただ、私達【神姫】はその魔力を操る能力を女神様から賜ったから、魔法を使えるのです」
なるほど……。結局は特殊な能力が備わっているから、体内の魔力を使えている。そうなると、爺さんは何故魔方陣と言う触媒は必要とはしているものの、魔力を流せないハズなのに……。
「ふぉっふぉっ。小僧よ。先ほど儂が言った事を忘れてるぞよ」
「【鍛えた】?」
「そうじゃ。儂達【世界の守護者】はアルフォンス様から直々に魔力の一端を与えられ、それを制御する修業をしたのじゃ」
だからか。カルメンさんと言う人の先を見る力というモノの凄さを改めて実感させられる。
「色々凄い体験をさせてもらったわい」
「師匠のしごきは想像を絶するモノですよね……」
そこまでにヤバい修業なのか……。俺は耐えられるかな……。
そんなことを思いながら進んでいると、少し拓けた場所に出た。
「あ、この広場の先に師匠の小屋があります」
ミューちゃんがそう告げると、こじんまりとした赤い屋根の小屋が目に入ったのであった。
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