18話 疑念
メルの増援によりツクモとの戦闘が優勢になった、が、それ以上にツクモの実力は凄まじいものだった。
魔法と魔法がぶつかり合い、息をも吐かせぬ高速戦闘が繰り広げられていった。
その激闘の最中、ツクモを捕縛したかに思えたのだが、突如俺の乗るウォーリアーが爆発。そのまま意識を失ってしまった……。
____________________
「んん……! ツクモは! アイツはどうなった?! 」
飛び起きた俺は、身体のあちこちが痛むのに顔をしかめる。俺はまだ生きているのか……。
ふと、右を見ると、そこにはウォーリアーの姿があった。
しかし、その姿は悲惨なものだった。
ツクモの一撃によって左肩はその先からすべてが無くなっており、その周辺も雷の余波なのか溶けて変形している。
そして頭部と操縦席付近の装甲が吹き飛び無くなっているのであった。
「よくコレで生きてたな……」
痛む身体に鞭うちながら立ち上がり周りを見渡す。
「助けてくれー!!」
「誰かうちの子見ませんでしたかー!!」
「痛いよー!!」
「ママー! どこいったのー! えーーん! 」
民家からは火の手が上がり道路には大きな穴がそこらじゅうに空き、街の至る所から住人達の叫び声が聞こえてくる……
「どうしてこうなった……」
先程までの戦闘ではここまでの被害では無かったはずだった……。
考えられるのは、意識を失った後の神姫同士の闘いが苛烈だったのだろう……。
「カナデちゃん! 無事だったのね……機体の信号が出て無くて必死に探し回ったのよ! そしたらこんな町外れに隠れてて……」
「ミラか……。この状況は……。王国は……守り切れたんですか……!? 」
悲惨な状況からはどう判断していいのか分からなかった……。
「いちおうは、守りきれたわ……。メルとマリアンヌが死力を尽くしてツクモ?
だっけ。あの子を捕らえたわ……。
ARMEDの部隊は、新型機を携えてカインが制圧したの。でも被害は甚大で……。神姫同士の戦闘がここまでとは思っていなかったわよ……。お陰様で私たちも復旧作業のお手伝いだってさ」
最初は憔悴しきった顔のミラだったが、最後の方はおどける姿を見せていた。
俺は随分と放置されていたようだ。切ない。
しかしカインが新型機か……。今回は素直に命令に従って闘ってくれてよかった……。
「メルは! マリアンヌの二人は無事なのか!! 」
対決には勝ったようだが、二人の相手をしていたツクモは桁違いの強さだった。魔法も武術も一級品。そして、【
あれを二人は使えないのに、まともに戦えたのだろうか……
「二人ならピンピンしてるわよ。メルは闘いの疲れかなんて無かったかの様に瓦礫の撤去作業で飛び回っているわ。お姫様の方はツクモを捕縛したから、その対処に当たっているみたい。帝国の情報を抜き出そうとしてるみたいよ」
「よかった……」
二人の無事が確認出来た途端、また俺の意識は闇に落ちていった。
___________________
「検査結果は良好ですね……。魔力同調も悪くないと。後は実践を積んでもらうだけですね……」
誰だ? 俺の検査でもしているのか……
____________________
王国防衛戦から2週間が経った。首都内の瓦礫撤去作業も粗方終わり、これから復興へと進むみたいだ。
俺はと言うと、身体の損傷が思っていたより酷く一昨日まで絶対安静の日々を送っていた。
「メル。もう大丈夫だから。一人で買い物くらい行かせてくれよ」
「ダメ! 私の近くにいる時はコレじゃないとダメなのー!! 」
『コレ』とは、メルが押してくれる車椅子の事である。
本来ならもう歩いてリハビリを兼ねて動かなければならないのだが、メルと出かける時はどうしても車椅子じゃないと外に出してくれないのである。
「医者に「もう歩いて大丈夫だからね。動かさないと身体が鈍っちゃうから気をつけてね」って言われたんだよ。気持ちは嬉しいんだけど、降りてもいいかな? 」
理由をメルに説明しながら、立ち上がろうとする。が、しかし。
「ダメ!! お医者さんが良いって言っても私がダメ! って言ったらダメなの!! 」
怒鳴るメル。その顔を見ようと振り返ろうとする。
「ダメ! カナデは前だけ見てればいいんだから! 」
「痛ッ! 」
ソレはメルの怪力により阻まれるのであった……。
「まったく……」
多分、メルは神姫の力を持っているのに、俺に大怪我をさせてしまった事が許せないのだと思う。その償いの為に俺と居る時は付きっきりで車椅子で介助してくれるのだろう。
その優しさが胸に痛いが、まだ12歳の子供だ。そんな子供に戦いを強いてしまっている事がそもそもの間違いだ。
「じゃあ、メル。今日はアーク・ジェネラルの格納庫に行こう。あの時以来相棒に会えてないからな」
「分かったよ! では、出発しんこー! 」
かくして俺たちは、母艦へと歩みを進めるのであった。
____________________
格納庫に着いた俺たち。そして、俺の前には今回の激闘の姿のままのウォーリアーが据え付けられていた。
「良くやってくれたよ……」
右足のつま先を撫でながら呟く。
「カナデ……」
「無理させて済まなかった……」
二人と一機の間に静寂が訪れる。
この世界に来てからまだ日は短いが、いくつもの戦場を共にして来たような感覚が俺を感傷に浸らせる。
「カナデさんこちらに居ましたか。やっとみつけましたよ」
「アイン先生」
そこには、格納庫にはそぐわない白衣姿のドクターアインが立っていた。
「メル。少し席を外してくれるかい。先生と少し話をしたいんだ」
先の通信の件もあり、二人きりになりたいことをメルへ告げる。
「んー。分かったよ。近くにいるから何かあったら声かけるか叫んでね! 」
メルは少し考える姿を見せたが、気を遣ってくれた様で軽く手を振りながらその場を離れていく。
「では、行きましょうか」
やけに落ち着き払った様子でアイン先生が部屋へと案内を始めた。
__________________
カタン。
椅子に座った俺にアイン先生はコーヒーの様な黒い飲み物を差し出してくる。
「大丈夫ですよ。何も毒なんてはいってませんから。コーヒー好きでしたよね? 」
怪訝そうな顔でもしていたのか、アイン先生は笑いながらコーヒーを勧めて来た。この世界でもコーヒーがあるんだなと、感心しながらその飲み物を口にした。
「美味しいですね。こんな上等な物が手に入るとは、流石王国内。と言った所ですかね」
「そうですね。この状況でも上質な物は欠かしていないようですね」
アイン先生は笑いながらそう言う。
しかし王室内に余裕があるだけでなく、王国は現在急ピッチで避難所等の施設を建設や、復興に向けて同盟国へ支援の申し出をしているらしい。
今回の件でウチの国からも支援を取り付けたらしく、昨日から300人規模の支援部隊が第一陣として派遣されてきていた。
「それで、ですが。カナデさん、体調の方はどうでしょうか? アレから何か変化はありましたか? 」
さっそくの質問だった。
「特に不調はないです。強いて言うなら、メル達神姫の存在力と言うかそういうオーラ的な物が感じられやすくなったくらいです。特別力が強くなったりとかはしていません」
「そうですか。この事はまだ誰にも? 」
眼鏡の位置を直しながら、上目遣いで質問してくる。正直おっさんの上目遣いはいらない。
「はい。俺のこの力の事はみんな知っているんですか? 」
「それは、わかりません。普通ではない、とは思っているのかも。それが、
じゃあ、貴方は何でこの事をあっさり受けいれているんだ? という質問が喉まで出掛かったがそれを押しとどめた。
「そうですか……。 それなら自分からこの力の事を言う必要はないですよね」
「そうですね……。でも、カナデさんの自由ですからそこはご自身で判断してください。ただ、その力は【神姫と同等かそれ以上の物である】と言うことだけは忘れないようにお願いします」
「わかりました」
「詳しくはまだ研究中ですので、ちゃんとした答えが出せなくてすいません」
身を傾けながら謝るドクターアインだったが、その空気感に違和感しか感じなかった。絶対何かこの件の核心を知っていると、俺の直感が告げていた。
「今日はコレで。私も忙しい身なので。では、また何かありましたらご連絡ください」
「ありがとうございました」
そそくさと部屋を出て行ったドクターアインを見送りながら、思考を続ける。
この魔法を扱える能力。確か、ウォーリアーの機能が変化したとき【ゼルエル】とアナウンスがあったはずだ……。
俺の記憶が正しければ、その名前は【天使】の一柱だったはず。
そうなると、神姫と同等かそれ以上と言った先生の話もおかしくはない物である。
ただ、何故そのような力を持った人物であった【カナデ・アイハラ】が、俺【藍原奏】になったのかが不思議である。世界が違う二人が繋がった……。入れ替わりなのか、此方の世界のカナデが死んだのか……
「カッナデーーーーー!!」
謎の衝撃と共に爆音で俺の名前を呼ぶ声が現れ、俺の思考は霧の様に消えていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます