ナイツ・オブ・レディアント ～光り輝く浄化の騎士～

13話 護る者・壊す者

｢間に合うか?!　風掌蓮（ふうしょうれん）!!｣

　師匠が叫びながら魔法を発動する。

　すると地面へと衝突寸前の私の下に、蓮の蕾の様な形をした魔力の渦が出来上がり、その場にいたボルカノを吹き飛ばした。

　そしてその蕾は花を開き、落ちてきてた私を優しく包み込んでくれた。

｢危なかったのじゃ……　メル!　魔力封印を食らったのに何を余裕こいておる!!　今のお主は生身の小娘と同じじゃ!!｣

｢え……　気付かなかった……　さっき爪に捕まった時にやられたのかな……｣

　掴まれた肩をさすりながら、魔力の蓮から降りる。

｢クソ!!　誰だ!　俺様の邪魔をするのは!!｣

　師匠の魔法で吹き飛ばされていったボルカノが叫んでいる。

｢お主は……　まさか父親のお主が神鬼（オーガ）になっているとはな。運命とはなんとも難儀なものだのぉ……｣

｢お前は……｣

　ブゥン。

｢え?｣

　一瞬風切り音が聞こえたかと思うと、ボルカノの拳が師匠の顔面に迫っていた。

｢避けてぇぇぇぇ!!!｣

　いきなりの出来事に叫んでしまった。

｢ふむ。なかなかいい速度だ。だが、それだけだな｣

　ズドーーーンッ!!

　師匠は避けることもせず、ボルカノの一撃を諸に食らってしまった。私との戦闘時よりも圧倒的に早くそして強い筈の一撃を。

｢いやぁぁぁぁぁぁ!!｣

　ボルカノの一撃は、辺り一帯を爆炎で焼き尽くしていた。

　私の前には、師匠がさっき作った蓮の花が移動してきて爆炎を防いでくれ無事だった。

｢師匠……死んじゃ嫌だよ……｣

　泣きたくなるのを堪えながら呟く。すると。

｢こんなもんじゃあワタシは死なないよ｣

｢師匠ーーーーー!!｣

　煙の中から何食わぬをしながら、歩いてくる師匠の姿が見えて一安心したよ。

｢いでっ!｣

　師匠は私の隣に来るとすぐに、頭に拳骨をしてきた。

｢メル。魔力操作の鍛錬を怠っておるな?　人が作った封印なぞ直ぐに解かぬか!!｣

｢いでっ!!　2発も!!｣

　怒号と一緒に2発目の拳骨をされて、その場に転がりこむ。

　師匠の拳骨痛すぎてやばい。

｢拳骨如きで済むならマシじゃろうが。お主はあと一歩遅れていたら潰れたトマトの様になって死んでおったわい」

　怖いことを言いながらも、私の頭を撫でてくれた。

｢すいませんでした。助けてくれてありがとうございます｣

　半泣きになりながらお礼をいう。撫でられた所から痛みが引いていく。

｢てめえら。俺のことを忘れて居るんじゃないだろうな……｣

　師匠とまったりしていると聞き覚えのある声が聞こえた。

｢まさか忘れる訳なかろう。ミア・ボルカノの父、ゼノ・ボルカノ｣

　初めて聞く名前を聞き私は困惑する。

｢師匠はコイツと会ったことがあるの?｣

｢あぁ。ワタシはコイツの娘を殺した｣

｢えっ!?　なんで!?｣

｢そう、何故殺した……　娘はまだ『神鬼（オーガ）』にはなっていなかったのに!!｣

　ボルカノはそう叫ぶと師匠の下へ突っ込んでいく。

｢もうアレは神鬼（オーガ）になっておったわい｣

　そう言いながら、殴りかかってきたボルカノの拳を左手で受け止める。

｢ワタシは世界の為に正義を下したのじゃ。それがいかに小さな芽だとしても、刈り取らなければ大きな厄災となってしまう｣

｢じゃあ、てめぇの判断は間違いだな!!!　こうして娘の親の俺が神鬼（オーガ）となってしまった!　娘を殺された【憤怒】が俺を包み込んでな!!!!｣

　そうボルカノが叫ぶと全身からドス黒い炎を吹き出し始めた。

｢ちっ。これはさすがに不味いのぉ……｣

師匠がそう言うなんて珍しい……。私も警戒を強めて、戦闘姿勢をとる。

｢メル。構えるのはいいんだが、まずは封印をとかんか。まさかやり方を忘れたなんて言わぬよな｣

｢わ、分かってるよ!　今から解除するから!｣

　魔力が集まるとされる心臓に意識を集める。身体の中を巡る魔力がバラバラになっているのを感じた。これじゃあ、魔法も武装も出来ないよね……

｢そうは簡単に解除させないよ｣

　上空から小型ミサイルをばらまきながら飛龍型が降下してきた。

｢小賢しい人間だな。新型だろうが『神姫』には適わぬ事を教えてやろう……｣

　ゾクッ。

　師匠の台詞を聞くと辺りの気温がグッと下がった様に感じ、背筋が寒くなった……。

『悠久の時を巡る風達よ。我が前に集いて立ちはだかる壁を貫け』

　詠唱を終えると師匠は空に向けて右手を向ける。

『風牙突（ふうがとつ）』

　ドンッ!　と重低音が鳴り響いたかと思うと、それを追いかけるように突風が起きて

、私たちに向かっていたミサイルが全て空中で爆発した。

｢クソ!　コレは避けきれるか?!｣

　ノーマンが可視化された突風を避けようと気合いを込めた声を出して対応しようとする。

　しかし、避けることは出来なかったようで、機体の左半分が風の刃に噛み千切られ、墜落していった……。

｢くっ。　コレが神姫の実力か……。だが!!　俺様にだって簡単には退けない理由（ワケ）があるんだ!!｣

　仲間が墜とされ、1人になってしまったボルカノだったけど、それでも師匠に立ち向かうようだった……。

｢メル。封印解除は終わったか?　こやつとは本気でやらねばならんのでな。　巻き込まれたくなければ早くしろ｣

｢は、はい!｣

　師匠の剣幕に押されて集中が若干乱れたけど、なんとか魔力を元に戻す事が完了した。

｢終わりました!!　一旦下がってるので、危なかったら助けにいきますね!!｣

｢いらぬ。ワタシが負けるとでも思っておるのか……?｣

｢い、いえ……　頑張って下さい!!｣

　師匠怖い……

　急に威圧感が増してびっくりしたけど、そだけボルカノの方も威圧感が増しているから仕方ない……。

｢おいおい。1人で良いのか?　使えるモノは使った方が良いんじゃねぇか｣

　ボルカノは笑いながら挑発を始めたけど、師匠に挑発なんか意味ない……。

｢ワタシに味方なぞ必要ない。神姫2人を相手に出来る程の実力がお主にあるとでも言うノか?　笑わせてくれるな｣

｢ハッ。そこにいるガキンチョより俺は強い。それは確実に言えるな。てめぇが来なければ今はもうお陀仏だったろうしな｣

｢絵空事を。メルの本気はあんなものではない。まぁよい。始めようではないか｣

｢殺気ムンムンだな。神姫ってのは相当人を殺したいみてぇだ。そっちに先手は譲ってやるよ。どうせ殺される運命なんだ。一撃で倒しにきな!!｣

｢そうか……それなら全力でいかせて貰おうかの｣

　そう言うと、師匠は魔力を練り始める。その足下には巨大な魔法陣が展開され、辺りには緑の魔力がオーラの様に目に見えるくらい濃く集まっていく。

『我が前に立ちはだかりし悪しき者を打ち払う為その力を預け給え。【魔装・風鎧（まそう・ふうがい）】』

　祝詞を言い終えると緑の魔力が師匠を包み込んだ。

　魔力が吸い込まれていくと師匠が装備していたガントレット達の形状が変化した。今までのは、流線型の勾玉をモチーフにしたような洗練された丸みを帯びた形だった物が、直線的で触る物を切り刻んでしまうような鋭利な刃を持った物になっていた……。

｢では、ありがたく先手は頂こうか｣

｢ぐふっ!｣

　師匠の動きが全く見えなかった……。喋り出すと同時にボルカノの身体がくの字に折れ曲がり、両手を組んで振り下ろされた一撃がその背中へと叩きこまれる。

｢壱の舞【絶空】｣

　背中への一撃を受けた身体が地面に叩きつけられ、浮き上がり、がら空きだった腹部へムーンサルトを撃ち込むと、師匠の演武が始まった。

　空へと打ち上げられたボルカノは、抵抗する素振りも見せず師匠の全攻撃をノーガードで喰らっていく。

　全て足技でボルカノの身体へと切傷痕を与えてく。

『汝を安息の地へと導こう。永き安らぎへ還れ【虚空嘴（こくうし）】』

　演武が終わり、落下していくボルカノに止めを刺すための一撃を準備していく。

　師匠は両腕を前にかざすと、鷲のような鋭い嘴を持った猛禽類の頭部が出現した。

｢消えろ｣

　その声と共に嘴からレーザーが発射された。

｢捕食（プレデイション）｣

｢その技は!　｣

　私の魔法を飲み込んだヤツだ!　まさか師匠の魔法も飲み込んじゃうの?!

｢ワタシを誰だと思っておる。神鬼（オーガ）とどれだけ闘って来たと!!!｣

　師匠が叫ぶと、鳥頭から放たれているレーザーが一層明るく強くなった。

｢な、何?!　喰いきれないだとッ?!｣

　レーザーがボルカノの『捕食（プレデイション）』の容量をあっという間に超え頭が爆発して本体へとダメージを与え始めていた。

｢まだまだ喰えるじゃろう?!｣

｢クソッ!!!｣

　ボルカノが悪態をついて、『捕食（プレデイション）』を解除し、レーザーの射線から逃げ出す。

｢詰まらんのぉ……!　お主如きがワタシを超えられると思ったのか!!｣

　再び師匠が雄叫びを上げて、突撃を開始した!!

｢コレはまだ使いたく無かったんだがな……｣

　近づいてくる師匠に怖じ気づくと思ったけど、不適な笑みを浮かべ変わった構えを取る。

『努動と努鳴りて山をも動かす。驕る者には死を。【銅鑼努（ドラド）】』

　突き出した右手から黒紫色をした炎が大きな柱となって師匠へと向かっていく。

｢チッ『風盾（ふうじゅん）』｣

　突撃の勢いのまま魔法の盾を展開して、黒紫の炎を受けながら突き進んで行く。

　しかし、確実に勢いは無くなっていって、とうとう止まってしまい、両足で踏ん張るまでになってしまった。

｢どうした神姫ぃぃぃぃ!!　俺を殺すんじゃなかったノかぁぁぁあ!!｣

｢あぁ!　お主なんぞ敵じゃないわぁぁぁあ!!｣

　ドーーーーーンッ!!

　とうとう師匠の盾が壊れてしまった。

｢んなぁぁぁ!!｣

　まともに黒紫炎を食らい、師匠が叫び声を上げる。

｢師匠ーーーー!!｣

　助ける為に飛び出す!

｢来るなぁぁあ!!　ワタシ1人でなんとかする!!｣

｢そんな!　師匠が死んじゃうよ!!｣

｢ガハハハハハ!!　オワリダァァァ!!｣

　ズドーーーーーン!!

　不意に鳴り響いた爆音と、辺りを白く照らす光が私たちの視界を奪っていった。