9話 激突



「これくらいも避けられないとは、それでも本気なのかぁ!! 神姫ってのはここまで雑魚だったのかよ!?」


 なんなのコイツ?!

 いきなり私の背後に現れたと思ったら、全力で殴ってきた……!

 そこまでのダメージでは無いけど、上半身は裸だし、その肌も真っ赤っかで意味が分からない……。

 身長は私の倍ちょいくらいで普通の人より圧倒的にデカい。武器らしき物は持ってないけど、普通の人は無いはずの魔力を持っているし、その魔力量もかなりあるみたい。


 最近変な奴に出会ってばかりだけど、いきなり殴られたのは初めてだし、上裸の人間も初めてだよ。て言うか、コイツはそもそも人間なの?


「本気も何もアンタは誰なのさ! いきなり殴られて、本気も何も無いわよ!」


 怒りにまかせて叫ぶけど、相手はにへらと笑ってるだけだった。


「俺様の名前が知りてぇのか? 教えてやろうか。俺様の名はなぁ……!!」


 首をゴキゴキと鳴らしながら、目の前の巨漢は話を続ける。


「おっと。そうだった。名前はすぐには言うなってアイツに言われてたんだったなー。悪いが嬢ちゃん。名前は俺を殺してからか、負かしてから聞いてくれや」


 そう言うと、目の前の男はノーモーションで突進を仕掛けてきた。


「殺したら名前聞けないでしょうがっ!」


 背中からレーヴァテインを引き抜き、その刀身へと焔を纏わせて接近してくる敵へ上段からの一撃を叩き込む。

 

 焔が敵を飲み込み全てを焼き尽くしたかのように見えた。


 しかし。


「悪くない。その一撃は悪くない。だがお嬢ちゃん、攻撃というモノはもっと強くないといけないな」


「なにっ?!」


 手応えはあった。しかし、目の前にはレーヴァテインの刃を右腕の前腕で受け止めてニヤついている漢の顔があった……。


「攻撃ってのはなぁ、こうやるんだよ!!」


「えっ」


 気づいた時には私の身体は、上空へと投げ出されていた。


「防御も出来無いとは、神姫のくせにてめぇは随分とお弱い事だっ!」


 攻撃が来る前に空中で身体を捻り、体勢を立て直す。


 ピピピ、ピピピ。

 カナデから通信だ。こんな時に……!タイミング悪いなぁ……!


「ファイアバレット!」


 宙に浮く私に向かって、20発程度の火の弾が向かってくる。


「メル大丈夫か!」



「ちょっとヤバい……! 何なのコイツ……!!」


ゴーーーッ!!


「大丈夫か!! 敵なのか!?」


「攻撃してきたからっ! 敵だよね……!! 今手が離せないから後で……!!」


 カナデからの通信を切り、敵の殺気を感じ、右下段からの蹴り、左ストレート、右フック、お腹への右ストレート。


 高速で撃ち出されるそれらを捌ききって、最後の拳を左手で掴み攻撃を終わらせる。


「コレでも弱いって?」


 拳を握る手に力を込める。

 バキッバキッ。

 手の骨の砕ける音がする。しかし、相手は痛がる素振りもしない……。


「あぁ、俺だって骨くらい簡単に折れるからな」


 ブンッ!


 掴まれてない左手で、裏拳を放ってくるがしゃがみこんで避け、掴んでいる右手を使い思いっきり地面へと投げつける。

 敵が地面に着く前に先回りして、魔力を高める。


「先輩面してるけどあんたの攻撃なんて、全っ然ダメージになって無いんだからね!! んでもって、これでも喰らえっ!!」


 溜めた魔力をレーヴァテインに流し込む。すると刀身が開き、内包されていた魔力が反応し蒼い焔がそこから外へと溢れ出ていく。


 落下してくる敵が両腕をクロスさせて防御態勢を取ってるけど、関係ない!!

 腰を落とし必殺の一撃の為に構える。


「壱の型。三日月!!」


 敵が間合いに入った瞬間、思い切り横薙ぎにレーヴァテインを振り抜く。


「ぐぁぁぁあ!!」


 防御は出来たいみたいだけど攻撃は入ったようで、逆方向へと吹き飛ぶ敵が痛みに耐えれず叫びながら転がっていく。


「まだまだぁー!! 二の型! 朧月!」


 転がっていく敵に追い打ちを掛けるためブーストを点火し急加速! 身体を捻り横回転をし間合いに入った敵を切り刻む!


「くそおおおお! 神姫のくせにいいいあい!!」


「神姫のくせに? 私に喧嘩を挑んだあなたが悪いんじゃん」


 全身傷だらけになった敵を見下しながら呟く。何が理由で襲ってきたのかは分からないけど、やられたらやり替えされるのが普通だよね?


 仰向けになり肩で息をする敵に、レーヴァテインを突きつけて質問してみる。


「アンタは何者? どうして私を狙ったの?」


「もういいだろう。アッチも首尾良く仕事進めているだろうしな。 俺様の名は『ゼノ・ボルカノ』七つの大罪が1つ、憤怒を司る漢だ! 俺の目的は神姫の殲滅。だからお前を狙った。他の事情なんかは知ったことねぇよ!!」


 唾を飛ばしながら怒声をあげつらつらと、自分の事を話してくれた。

 神姫の殲滅? この程度の能力じゃ神姫の1人も倒せないと思うんだけど……。


「そうなんだ。じゃあ、正当防衛ってやつでアンタを殺しても問題ないよね。私はまだ死にたくないモン!」


 再度魔力を高めて、レーヴァテインへと流し込むと蒼い焔が刀身からあふれ出てくる。

 この焔を見ていると心が落ち着くんだよね。

 動けなくなっているゼノを人にらみする。


「この世界は弱肉強食だよね? 神姫への復讐だかなんだかは分かんないけど、私の脅威になるかもしれないからアンタには死んで貰うよ!! ブルードライブ!!」


 高く飛び上がり、ゼノの心臓目掛けて蒼い焔を纏ったレーヴァテインを、全体重を乗せて突き刺す。


ドカーーーーン!!!


 ゼノに攻撃が当たると、周囲を爆炎が焼き尽くしていく。


「なんっで、いつも私の一撃って防がれるのかなぁ……」


「さぁな。いつも防がれるなら少しは改善しな」


 苦笑いする私に、ゼノはレーヴァテインの切っ先を掴みながら皮肉を言ってきた。


「じゃあ、そうするわよ!!」


 思い切り叫んで、兵装のミサイルポットを起動。至近距離で全弾発射フルバーストする。


捕食プレデイション


 ゼノが呟くと、周りの炎が彼の口へと集まっていき食べてしまった。


「え……何今の……」


「中々イケるが、美味くはないな。メルティ・ノーグバイン。ご馳走さまだ」


 食べたの……?! 私の魔力を……


「くっそーーー!!」


 一旦バックステップで後ろに跳び、距離を取って両手に魔力を集める。


「これならどうだ!! ドラゴンエチュード!!」


 炎で作られた、2頭の巨龍が螺旋を描きながらゼノに向かい突き進んでいく。


「いい火力だ!! だが、これは頂かないわ……!!」


 ゼノは横へ飛び、巨龍を回避し体勢を立て直す。


「大食いの俺でもあの魔力量はお腹を壊しちまいそうだわ。もっともアイツなら余裕かもだがな。アッハハハー!」


 高笑いを上げるゼノ。

 コイツは一体何を考えているのだろう……。


「うわっ! 何?!」


 急に背中に何かが引っかかり、空へと体が持ち上げられていく。


「良くやったノーマン! 神姫の一本釣りだ!」


「離せ! ふざけるなぁ!」


「神姫様。あまり暴れると落ちますよ? ボルカノ! この子を倒すなら早く準備しろ! もたもたしていると落とされる!」


「新型使ってるんだから大丈夫だろうが! うるせぇヤツだな!」


 2人のやりとりを、新型らしい飛龍型ドラグーン?ARMEDに吊られて聞いているけど、このままやられる訳にはいかないんだよね!!


「さーて。反撃第2段行くよっ!!」


 両手にショットガンの『アグニ』を召喚。魔力をアグニに込めて、飛龍型のお腹に照準を合わせる!


「うん。それは喰らいたくないなー」


 ガチャンッ。


 何かが外れる音がすると、私の身体が自由になった。


「きゃあーーーーー!」


 って私空飛べるじゃん。

 冷静になって、ブースターを起動しようとするが何も起きない。


「え?! どうしたの?! ヤバいヤバい! このままじゃ地面に落ちちゃう!」


 でも、着地成功すれば案外イケるかも?

 神姫になって身体の耐久性はおかしい事になってるし、きっと大丈夫!

 開き直って、落下に備え体勢を立て直す。

 下にはゼノが拳を構えているけど、直接私も攻撃しようかな。


「メル! ダメじゃ! そのまま落ちたらただじゃすまんぞ!」


「え??」


 地上まであと20メートルくらいの所で、師匠の声が辺りに木霊した。



____________________



 静かに風がそよいでいる。


 本部に通信してから、10分程経った頃だろうか。

 謎の少女を探すだけなのにやけに緊張してしまっている……。

 彼女の正体が何なのか。いくつかの候補はあるものの、確信がないままだ。


「ん? 何だあれは?」


 視界の先、木々が薄くなり岩肌が目立ち始めた境界付近に、陽炎のようにモヤモヤしている箇所がある。

 しかも、それは若干だが移動しているようにも見える。


「対物センサー起動。あれが何なのか突き止めよう」


 対象との距離は200メートル前後。下手に動くと気づかれかねない。

 手元のパネルを操作し、対象をスキャンする。


「スキャン完了。正体不明の生命体です。注意してください」


 スキャン完了のアナウンスが鳴る寸前、モヤモヤから人が飛び出してくる。


「くそっ! 気づかれたか!」


 操縦桿を前に目一杯倒し急速発進させながら、対象へとマーカーをポイントする。

 すると画面のマップに赤マークが現れた。


「よし、マーク完了! 追跡を開始する!」


 謎の人(おそらくはさっきの少女であろう)を追いかける。

 ちょうど発見した所が山の登り終わり前だったから、山の峰に着くと視界が一気に広がった。


「いたっ! そっちか!」


 目視で対象を右方向で確認。あの風貌はさっきの少女と同じだった。


「さーて、鬼ごっこの開始と行きましょうか」


 ロボットと少女の戯れが始まった。

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